彗星パンスペルミア 生命の源を宇宙に探す
本が好き! 経由で献本していただきました。ありがとうございます。
一言でいえば、みんな信じようとしないけれど、この地球の生命の素は全部彗星から運ばれた微生物由来なんだよ。俺たちの考えが絶対正しいんだよ。ということを延々 200 ページあまりかけて書いている本。おしまい。
で、十分なくらいの内容。
というのでは身もふたもない。といって基本それ以外にはないというのも事実。特定の条件において生命のスープから生まれてきたという考え方が主流ではあるものの、確かに実験でもそれ以上に納得のいく結果がまだでていないのも確かで、そんな自然発生説には不十分なところが多かった。
では、地球から発生したのではなく、宇宙からそれらがやってきてそこから進化がはじまったのだとすればどうかという考えかたそのものは実におもしろいし、十分検討に値できる論ではあるのだろうと。実際監修の松井さんもそうした考えかたを面白いともいい、自らも調査研究をして検証しているという。ただ、本書で著者が書いている内容には非常に宗教的なにおいが強くしてしまう。自分たちの説が絶対的に正しく、それを否定する輩は科学者とはいえない。我々は科学に負けたのではなく科学界という社会や政治に負けているのであるといったことをことあるごとに説いているあたりが目につきすぎるのだ。
監修の松井さんもそれについて触れていて本書の主張を全面的に肯定する考えはないとも。また、否定的な科学者に対する攻撃的な態度にも賛成しないということを書かれている。有用な説でありながらこうした記述によって全体がトンデモ科学系の胡散臭いものに感じられてしまうのは損なことで、著者の妄信的な愚かさが表れているといってもよいのではないか。
読了しての感想はおおむね監修の松井さんと同様で、興味深いのに自らそれを胡散臭いものに変えてしまっているのは著者自身であって、なんとももったいないことであるなと。
ただ、この日本語訳においては監修者や訳者が非常に冷静に仕事をしていて好感が持てる。欄外の注釈に「そのような事実はない」であるとか、「一般的には全く知られていない。著者ウィックラマシンゲの周辺でのみ語られている」などと書かれている。否定するというわけではなく、冷静に現状として分析した注釈を随所にいれているあたりに本書(翻訳)への良心を感じる。それだけでも本書の価値はあるのではないかと。
詳しい証拠についてはさほどというものはないのでおよそ冒頭のことだけ理解しておけば事足りるという意味ではやや長すぎたという著作ではありそうだ。また、いずれという課題ではあろうけれど、ではいったいなぜどのようにして彗星にそうした微生物が含まれるようになり、さらにはそれら微生物はどのようにしてこの宇宙に生まれたのかという疑問か。
さて、本論ではないけれど、著者の主張で一番納得できるのは序章で書かれている次のような部分だ。
注意を喚起しなくてはならない最近の状況として、「インターネット上で展開される科学」というものがある。これは、ある意味、最も問題があり、信頼性がないといえる。知識不足のブロガーが、科学に貢献しているという確信のもと、ブログ上に科学議論を展開して事実の混乱や意見や偏見を形成する。これは科学の進歩にとって無用のものである。(P.2)
最後に監修者あとがきの最後から引用を。
著者のチャンドラは監修者の親しい友人であるが、科学的見解について共有しているわけではない。特に第12章の最後に展開される隕石に関わる話は、同意しかねる部分があり、その点については注釈を入れた。隕石学者の大部分も同意しないだろう。なお、著者の、主流の科学者の態度を批判する主張についても、監修者は意見を共有するものではない。監修者としては、読者がどう判断するかを待ちたい。(P.217)
ちなみに本書の句読点が「,.」になっていてこれが判別しにくいために本来の「、。」の区別がつきにくく読みにくいところがあったのは編集上の残念。
追記:
先住民と都会の人間に同時にウィルス感染が認められるからといって、それが宇宙からのものだというのはやや我田引水にすぎるようには思う。そもそも空気感染ということでいえば大気にのって感染したのではないという明確な結論は出してはいけないのではないかと。
「放射点の位置が星座のなかにあるときには、その星座の名前が流星群の名前になる。」とあるのだが、放射点が星座の中にない流星群というのをぜひ教えてほしい。
余談:
ベルクソンの「創造的進化」がでてきたりしたので、再挑戦してみるかと思ったりは。新訳でないかなあ。岩波さん。(いまのは読みにくい)
![]() | 彗星パンスペルミア チャンドラ・ウィックラマシンゲ 松井 孝典 恒星社厚生閣 2017-05-02 by G-Tools |
SETI については、カール・セーガンによる良書があるけれど、残念ながら絶版らしい。
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