群青の夜の羽毛布
映画を見たのだけれどかつて原作を読んでいるのにまるっきり新鮮すぎたので再読。おおむね原作と同じ内容ではあった。そういう話だったか。
とても仲がよく幸せそうに見えるお隣さんであっても、その実家庭内でどんな会話がされているのかとか、家族それぞれがどんな生活をしているのかなどということは外部の者にはわからない。外面がよい人というのが世の中にはあるけれど、家の中と外とではまるっきり違う顔・態度を見せるという人はいて、仮に「○○さんって本当にいい人ですよね」とか言われたときに、「いや、家ではこうなんです。困っているんです」とか言ったところで信じてもらえずに、逆に「どうしてそんなひどいことを言うんですか?」とか悪者扱いされてしまったりすることだってありうる。
家族という閉鎖社会のことなど他人にはなかなかわかりようもないのに、自分の知っているその人でだけ判断してしまうということはある。
似たようなことが恋愛にもいえて、まさに恋愛のさなかにあるふたりには(あるいはひとりには)相手の悪いところなど見えなかったり、たとえ見えてもそれすら美点に思えてしまったりする。恋は盲目だの、あばたもえくぼだの、夜目遠目も傘のうちだのいうのはまこと正しい。
もっとも、そんな風にしていられるのもそうそう長い時間であるはずもなく、結婚していざ一緒に暮らし始めるとささいなことが気になりはじめたりする。そんなことを織り込み済みで許容できればよいが、限界を超えたりすればたちまち関係は破綻をはじめる。
ただ、それが傍目にもわかるようであればむしろよいほうで、傍目には何事もないかのように振舞っているような場合ほど危険をはらんでいたりするのではないか。そんな狂気を描いたのがコレといったもよいのかもしれない。
大学四年生の鉄男。スーパーでアルバイトをしているが、若くてきれいでちょっと華奢な感じのお姉さん客に惚れてしまう。で、ふたりは付き合いだすのだが、24 歳の彼女(さとる)は夜 10 時の門限をいつも気にしている。
出会ってほとんどすぐに(映画では最初のデートで)体を許したさとるではあるものの、鉄男以外の人との付き合いは得手ではなくできれば避けたい。母親はさながら王様ゲームの女王様かのように君臨し、ある意味さとるとみつる、ふたりの娘を支配するかのように扱う。
そんな姿を見て鉄男はこの家をでるべきだとさとるに告げるが、自分はこの家を離れることはできないとだけ答えるさとる。
長い長い坂の上にようやくにして建った我が家。重い荷物を持って毎日まいにち通いつづける坂道。なんらかの理由で家に縛り付けられているかのような女たち。
「お父さんは?」と問いかけた鉄男に、父親はいないのだとだけ答えたさとる。けれど、それこそがこの家族にまとわりついた家族という怨念のようなものだと終盤明かされる。さながら座敷牢であるかのような奥座敷にひっそりと暮らす父親。けれど、それは薬によって眠らされているもはや生きた屍のような姿。
なぜ、父親にそのような仕打ちをしなくてはならないのか。いや、父親はいったい何をしたのか。結末にむけて淡々と語られていく。そこにいたる道はさまざまに衝撃的な事実であふれている。
「明るく楽しい家庭を築きたい」などと結婚したときには思うもの。けれど、現実は必ずしもそうとばかりは限らない。楽しいことも嫌なことも、ときにはいさかいを起こすことだって当然あるはずで、そうしてきっと家族というものはできあがっていくのだろうけれど、きっとどこかでなにかが狂ってしまうとそれは次第に思い描いたものとは違う姿に変貌していってしまうものなのかもしれない。そしてそれはどんな家庭にも内在する危険なのではないかと。
けれど、きっとそれを救うのもまた、そこから生まれるあたらしい家庭なのかもしれない。そんなわずかな希望をもたらしてくれる最後が、まだ救いになるような物語。「死なないでよかった」。さとるのその一言にすべてが集約されているのかもしれない。
久々の山本文緒に、一気読み。
持っているのは幻冬舎のものなのだが、なにやらあちこちで出ているらしい。というか、現状だと角川なのだろうか?
![]() | 群青の夜の羽毛布 (幻冬舎文庫) 山本 文緒 幻冬舎 1999-04 by G-Tools |
![]() | 群青の夜の羽毛布 (文春文庫) 山本 文緒 文藝春秋 2006-05 by G-Tools |
![]() | 群青の夜の羽毛布 (角川文庫) 山本 文緒 KADOKAWA/角川書店 2014-01-25 by G-Tools |
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コメント
興味深い内容ですが、トラウマになりそうなんで読むのは止しておくか…
医師からも鬱病の遠因として親子関係は指摘されているし。
(今の西洋医学では原因追求はしないので明言はされませんけど)
投稿: のら猫 | 2014.07.17 08:45
昔読んだときの記憶は、もっとドロドロした感じだったのですが、案外さらりとはしています。
とはいえ、ちょっと重たいテーマではあるし、全体の空気はやや重いのは否めないですね(^^;
読みやすいのでササッと読めてしまうのですが。
ひとまず避けておくほうが無難かもしれませんね。
投稿: ムムリク | 2014.07.17 09:31