愛書家の死
![]() | 愛書家の死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 タ 2-10) ジョン・ダニング 横山 啓明 早川書房 2010-08-30 by G-Tools |
元警察官である古書店主、クリフ・ジェーンウェイのシリーズ最新作。誤解を恐れずにいえばこれまでの作品とは少し違って、本の色はやや薄い。もちろん物語の発端は“本”であるし、要所ようしょでかならずといっていいほどまとわりついてくる。ただ、主たる舞台そのものが本であったこれまでの作品よりはその色が薄く、今回の舞台は競馬の世界。
当初は遺産相続にからんでの本の鑑定だけかと思われた依頼が、いつしか元々それらの本を収拾していた故人である女性の死そのものに疑問があるので調べて欲しいというものに変化していく。相続を含めた周辺人物はいずれも競馬界に生きていることもあって、みずから下っ端厩務員として中に入ることで、調査を進めることになるというのが主たる舞台。
正直なところ競馬の話ばかりが中盤は延々と続くわけで、しかも作品は 600 ページあまりにわたるのであまりに長いと思わないでもない。けれども、不思議と長さは感じないし、少しずつ解き明かされている故人女性の姿や事件の背景が、見えそうで見えない、近づきそうで近づかない、その微妙な距離感のようなものがうまく描かれていて、退屈しない。クリフ自身が命の危険にさらされたりしながら、少しずつなにかが狭められていく様はさすがにダニングらしいうまさ。
競馬の世界の描写についてもかなり細かく描かれていて、日本のそれがどうであるのかは知らないけれどくっきりと情景が浮かんでくる。なかなかに造詣が深いらしい。もちろん、本についてもさりげなく描かれていて、とある作品などとは違う。とはいえ、やはり今回の作品では本は主役でもあるが、存在そのものは味付けみたいな位置にある。それだけに終盤で一気につながりを見せる事件の全貌に気づいたときに、なるほどと首肯すること間違いなし。
今作を最後にしばらく体調不良で療養していたというダニングが、ようやく新作を執筆するまでに回復されたという話があとがきにあったのがうれしい。読めるのはまだまだ先になってしまうだろうけれど、恋人エリンとの関係の行方など気になる部分も多かった作品だけに、さらなる展開が楽しみなシリーズなので。
おしまいのほうでなかなかの名文があるのだけれど、それを引用するとネタバラシのようになってしまうのが残念。あえて言うなら「愛と狂気は紙一重」とでも言うか。次回作をじっくりと待つとしましょうか。
これは真理。
「年齢に関係なく、欲しいと思っているものがなんでも楽々と手に入る境遇ほど、人を駄目にするものはないわね」(P.462)
気が付いた誤植が一箇所。
彼女はダルシアナ・ハンマーメイスターという驚くべき名前だった。ダハシーというあだ名で呼ばれている。「ダルシーはおとなしい人よ」ルースは言った。(P.501)
「ダハシー」は「ダルシー」の間違い。
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