毒入りチョコレート事件
![]() | 毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫) 高橋 泰邦 東京創元社 2009-11-10 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
なるほどこれが「毒入りチョコレート事件」なのか。と、まずは解説の杉江松恋さんの言にならっておきましょう。
毒入りチョコレートを食べたことで、さる夫人が亡くなった事件に関して、警察ではこれという進展もなく、趣味の会である「犯罪同好会」のネタとすることになったその一部始終を描いた作品。
よくある事件を捜査して解決にいたるまでがひとつの時間軸として語られるミステリとはやや趣を異にして、ほとんどはその犯罪研究会での各人の推理を披露しあうことによって語られていくというもの。
会員はそれぞれになにかしらに秀でるものを持っていたり、犯罪研究においては素人とはいえかなりの知識を有しているものばかり。そんな彼・彼女らが、それぞれの視点からの推理を開陳して犯行を分析し、犯人を特定していく。それは、確かになるほどなかなかに筋が通っていてある程度納得がいくのだけれど、そこは少し甘いのではないかとか、違うのではないかと思われる箇所が必ずといって存在するのが、読んでいてもわかる。
事実、他のメンバーがそのあたりを追求し、その推理は面白いし、よい線を行っているところもあるが、完全には頷き難いとして、次なるメンバーの推理が始まる。
それぞれのメンバーの目の付け所がさまざまで、証拠となった便箋(正確には書簡用紙)の入手可能性から推理するものや、関係者の人間関係から推理するもの、純粋に犯行可能なのはどんな人物かを整理して考えるもの、などなど、推理の手順も論拠も種々雑多。実にバリエーションに富んでいる。
とはいえ、どこかになにかが欠けているようで、それでいて明らかになる事実が次第に増えていくなかで、あやふやだった部分が少しずつ薄れていくようでもあって、その過程が実に面白い。
確かによくあるミステリの王道的な叙述とは異なるという意味で、しかも 1929 年の作品ということを思えば、いかに斬新であったかがうかがえそう。
近年の作品で類型として思い出すのは、アシモフの「黒後家蜘蛛の会」。飲食を楽しみとする男だけの会(ある意味秘密の会)。そこで話されたことはどんなことであれ、外にはもらさないのが信条。そして、会員の誰もが謎解き好きで、いつしかゲストに不思議な話や悩みを語ってもらい、そのことを皆で議論するのが楽しみとなった集まり。そこで、語られた数々の不思議を推理していく(もちろん、その場限りにおいて)、それが「黒後家蜘蛛の会」。
それぞれが独自の視点であーだこーだと推理を展開するという意味では、同様のつくり。ただ、「黒後家蜘蛛の会」は短編であるし、その場限りの情報だけで展開するのに対して、こちらはそれぞれが一週間独自に調査をしたあとで、一晩にひとりずつ推理を披露していくという長編。
ここで、では結末にいたる部分はどうなのかを語ると、冒頭の「なるほど」という言葉が意味をなさないので、そこは読んでのお楽しみなのだけれど、つまりはそうした様々に展開される推理の妙を楽しむというのが、本書の醍醐味のひとつ。その意味では、結末についてはいろいろの感想がありそうではあるけれど、それはそれでひとつの効果であるのもまた事実。
一風変わったミステリの真髄をぜひその目で。
誤植情報:
P.31「ただちょっと悪性の消化不良の発作にすぎないのだがら、すぐに良くなるといって、」すぎないのだ[か]ら
![]() | 黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1) 池 央耿 東京創元社 1976-12 by G-Tools |
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