「イシャーの武器店」

 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 訳者あとがきを読んである程度納得したところはあるのだが、正直今一つ消化不良な感じの読後感。突如出現した謎の武器店。誰でもはいれるということではないふしぎな店で、なぜかそこに入れてしまったマカリスターという新聞記者。ただ、扉を開けて店にはいっただけだったはずなのに、彼は 7000 年の時空を超えてしまっていたらしい。が、彼の物語はそう長く語られることはなく終わり、たしかに合間に少し登場したりはしたのだが、正直すっきりとした決着がついたとはお世辞にもいえないような気がする。

 続く物語は武器店に乗りこんで問題とされてしまったとある店主の息子が家をでるはなし。なぜか武器店の若い女性がそこにからんできてまれなる才能が披瀝されるのだが、それがゆえに陥穽にはまりこれでもかというくらいの苦難の道を歩み始める。全体のおよそ 3/4 は彼の物語ではなかったろうか。

 その中にはこの世界をつくっているイシャー帝国の構造と、いつの時代にもあるのであろう老害問題が登場したりもするが、正直いまひとつ実感にはとぼしいようにも。そして、帝国や社会はたまた世界構造への対抗手段的な集団が武器店という発想のふしぎさと面白さ。さながらそれは自由社会アメリカの誕生とも結びつくのだろうかというところは感じる。

 罠にかかりせっかく儲けた大金もすべて巻き上げられ、あげく永遠とも思われる過酷な労働へと追いやられようとしていた男がいかにして復活を成し遂げるのかというあたりは面白味もあるのだけれど、今一つしっくりこないところもある。

 そうした違和感の原因のひとつは、文章にもありそうだ。人物の行動などはその経過があらすじ的であろうと順を追ってどこへいきなにをしてどうなったと書かれるものではあるのだが、どうも中途を端折ってしまっている箇所がなんどもあって、どうにも読んでいてつながりが悪いのだった。

 とあるところで会話していたら次の段落では意味の通じない文言が並び、少し読んでからようやくどうやら別の場所でのできごとらしいとわかる始末。移動している描写といったものがないところがなんどかあるのだった。こうなるとどうにもすんなりと物語にはいりこめない。ヴォークトの他の作品でもこうした経験はまずないと思っているのだが、いったいどうしたわけなのか。

 最終的に、彼がなぜ復活を遂げたのかについては一応の説明はあるし納得ができないではないものの、やはりどうにもしっくりしないし、説明不足的なところは否めない。まして冒頭のマカリスターにいたっては結局なんの解決もされていないのではないかというままに終わってしまった。

 では、これは「武器製造者」に続くのだろうと思ったらそうではないという。書かれたのもこちらのほうが後であったとか。名作とうたわれてはいるものの、どうも一読しただけではやや意味不明な感じであるのは素直な感想なのではなかろうかと。特殊な世界観のせいもあるのかもしれないが。

 あるいは武器店の幻影に惑わされてしまっているだけなのか。

 ということで一読しただけでは評価の難しい作品であるというのが現状の評価なのだった。要再読。

 そうそう「新版」であって「新訳」ではないことには注意しなくてはならない。

4488609155イシャーの武器店【新版】 (創元SF文庫)
A・E・ヴァン・ヴォークト 沼沢 洽治
東京創元社 2016-12-21

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「時間衝突」

 本が好き! 経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 なんとも SF 的な響きにひかれるままに手に取ったものの、その内容的な意味を深く考えることもなく読み始める。序文でブルース・スターリングが書いている。

ベイリーの小説は、超高速エレベーターのようなものだ。ドアが開き、きみがエレベーターに乗りこんだとたん、加速が襲いかかってくる。階数表示に目をやると、フロアが飛ぶようにすぎてゆくのがわかる。そして、そのスピードはどんどん速くなってくる。それから――ここがだいじなポイントだ――一瞬の遅滞もなく、きみは建物の屋根を突き破り、空に飛びだしてしまう!

 「超高速エレベーター」? などと思っているうちに気がつけばそこは未来の地球。異星人の遺跡を調査していたところ不可解な状況が発生する。過去に撮影された同じ遺跡の写真を見ると、明らかに過去のほうが遺跡が古びている。つまり現代のほうが新しい。

 時がたてばたつほど新しくなる。そんな不思議なことがはたしてありえるだろうか。あるいは、それは植物が芽を出しやがて大きく育っていくように、朽ちた状態から次第に完全な形に育っていくようなものなのかと考察もされる。

 さらには、あろうことか異星人の遺物らしき機械をかれこれ 5 年も調べていて、それがどうやらタイムマシンであると判明しており、主人公であるヘシュケはタイムマシンに乗って実際に過去の遺跡を調査することに巻き込まれていく。

 到着した過去における遺跡は明らかに現在より古びているのだが、ヘシュケが現代において調査した証をもまた確認した調査チームは、実は過去ではなく未来に来てしまっているという結論を持って帰途につく。しかし、途中異星人のタイムマシンと遭遇することになってしまい、急きょはるかな未来に逃走。そして、ようやくことの実際を知ることになる。

 地球を舞台に相反する時間の流れが存在していると。

 異星人の時間はヘシュケたちの時間とはまったく逆行しているが、どうやらその時間軸はそれぞれ交錯するように流れている。おそらくは 200 年ほどでそれらは衝突することになる! そのときいったい何が起きるのか。とんでもない話になってきたと思うが、冷静に考えればタイトルがすべてを物語ってはいたのだ。

 どうなるのだと思っていると、舞台は突如どこかにある中国人系らしい種族が暮らすコロニーのようなところに移る。生産と娯楽、それぞれを享受するふたつの世界にわけられていて、相互の行き来は基本ないが、生まれてくる子供は必ず他方の世界で祖父母らによって育てられることになっているという不思議な世界。が、それを可能にしているのが、かれらが持つ時間を思うように操つる技術。

 さあさあ、どうなるのだ。なにがそれらを関連づけるのだと思わせつつ、もうさきの超高速エレベーターに読者はすっかり乗せられてなすがままなのだ。

 問題ははっきりしている。この逆行するふたつの時間の衝突をどう防ぐべきなのか、なにができるのか。地球と異星人とはお互いに相手をせん滅すればなんとかなると戦闘状態にはいるが、そんなことで事態が改善するはずもない。といって、地球を捨てる考えなどどちらもさらさらない。

 交錯する時間軸に生きる地球人と異星人を擁する地球、そして中国のコロニー・レトルトシティ、この三者三つ巴でくるくると目まぐるしく舞台と時間とを移しつつ展開する終盤。とにかくもうひたすらに終点すらもわからずにぐんぐんと超高速エレベーターは上り続けるのだ。そして、たしかに気が付けば突き抜けてどこぞかに飛びだしてしまったらしい。珍しく一気に読み終えてしまった。

 途中繰り広げられる時間論は必ずしも科学的とはいえないかもしれないが、妙に納得感のあるものでもあり、また難解でもある。役者 訳者の付記でミステリ作家殊能将之(しゅのうまさゆき)氏のこんな文章が紹介されている。

バリントン・J・ベイリーは SF のある本質を体現した作家のひとりだった。

文章は下手、キャラは平板、プロットは破綻し、奇想は思いつき程度で整合性がなく、大風呂敷を広げてもたたむことができない。
そんな小説がおもしろいはずがないのだが、読むと無類におもしろいのだ。なぜかというと「SF だから」としか理由づけのしようがない。

 まさにその通り。結末については不満があるが、そこまでの道のりを十二分に楽しませてくれたのだから、それでよしとするかとすがすがしくページを閉じる。そんな作品。面白いは正義なのだ。


アスカーはいそいでうなずき、

「わかりました。それは認めます。その事実が、わたしの理論の誤りを示していることも認めます。それで、真実はどうなんです?」
「真実は、宇宙は全体として、時間を持っておらんということじゃ。宇宙のあらゆる場所が同時に<いま>なのではない。宇宙は基本的かつ根本的に静的で、生命のない、無関心なものだ。過去も、未来も、<いま>もない」(P.189-190)

正誤をひとつ。

それがちょっとした魅力になるくらいにつむじ間借りな性格だ。(P.32)

s/つむじ間借り/つむじ曲がり/

#できれば「後ずさり」ではなく「後じさり」として欲しかったとは。

4488697062時間衝突【新版】 (創元SF文庫)
バリントン・J・ベイリー 大森 望
東京創元社 2016-09-26

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旧「火星の人」がいい

 件の「火星の人」。よくよく見ると「購入できません」と表示されている。2014 年発行なのだが、と思っていろいろ見ていると、どうやら映画化されたのを受けて同じ文庫を新版として上下二分冊して出しなおしたらしい。映画のスチールを表紙にもってきて。

 なんということだ。

 わずかに一年の命で分冊され、そのために値段もあがってしまい、映画化をうけて表紙のデザインが・・・。一冊物のはじめのほうがよかったのに。

 電子書籍版であれば、その形態で入手は可能なようだが(なぜ?)印刷されたものが欲しいのだった。テキストものの電子書籍も多少は読むことがあるものの、やはり長いものは紙に印刷されたもののほうが扱いが楽だし好きだ。電源要らずというのも。

 が、二分冊されたものをというのもなんだかうっとうしい。ということで残念だけれど古書店でも回ろうかなというところ。

4150120439火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー 小野田和子
早川書房 2015-12-08

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4150120447火星の人〔新版〕(下) (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー
早川書房 2015-12-08

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B00O1VJZLO火星の人
アンディ ウィアー 小野田和子
早川書房 2014-08-25

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「明日への追跡」

 埋没する電子書籍消化プロジェクト、そろそろ最終。案外早い。まあ、小説系はそのくらいしか溜め込んでいないのだった。

 かつてのジュブナイルがふと懐かしくなったのもあって読んでみたのだけれど読んだことも、実のところ聞いたこともなかったのでやや不安も。中学一年生の主人公男子のまわりで不可解な事件が起きるというもの。友人男子がふたり相次いで死亡する。直前にあった彼になにやら不安を訴えていて、先日転校してきたばかりの男子生徒が疑わしい。

 そうこうするうちに、しばらく前に転校してきた女子生徒がなにやら彼が持っているという「缶」を探しているという噂が。しかし、彼にはそんなものに覚えはない。それらしいもの(ガラクタ)ならいくらでもあるが、そもそもなぜ転校してきた彼女がそれを欲しがるのかもさっぱりわからない。

 しまいには気配だけだが忍び込んでいることがわかる。自分をひそかにみはっていて、いや、それ以前に家捜ししたが見つからなかったという様子が伺える。なぜ、彼がそれを持っているというのか。それはいったい何なのか?

 彼は仲間と一緒に転校生ふたりの素性を調べるために、彼らがそれまでいたとされる町へと行くのだが、一緒にきた同級生の女子の姿が消えてしまう。転校生ふたりの姿も消えた。調べていた当時をしる漁師のおじいさんも不慮の死を迎え、いっそう危険がせまる。

 はたして転校してきた男女ふたりは敵なのか味方なのか。どちらが敵で、どちらが味方なのか。結局その構図だけは明らかになるものの、探しものが何なのか、それが何なのかなどはいっさい不明なまま事件は終結してしまうのだった。

 あの頃のジュブナイルってそんなものだったろうか。どうも釈然としないところが。不思議な感じだけで十分だった時代だったかもしれないけれど。うーむ。

 そもそも表題の意味が最後の最後のこじつけくらいしかなくて、それもなんだかなという理由であったり。よほどあとがきで語られる光瀬龍の幼いころの体験のほうが面白いのだった。というか、それをもとにして書かれたという感じではあるのだが、それにしてもなにも明らかにならないままというのはちょっと。

B00NH9B59G明日への追跡 (角川文庫)
光瀬 龍
KADOKAWA / 角川書店 2002-06-14

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「<すべての夢|果てる地で>」

 せっせと電子書籍を消化する取り組み継続中。こちらも SF 短編の受賞作を選評と一緒にまとめただけのものなので割りとあっさりと読んでしまえる。選評にもあるように確かに実に文章がしっかりしていてすっと作品世界にひきこまれる。はじめはなにやら株式操作の話なのかと思いきや、そこにとどまらず世界を揺るがすような話になっていく。

 ただ、いささかそのあたりの世界観というか展開というかにうまくついていけない。なじめない。というところはあって、SF 的な設定のおもしろさは理解できるものの、いまひとつ楽しみきれないという気持ちもどこかにあるのだった。

 不思議な宇宙人だか生命体だかの存在はそれとしても、最終的な展開はなにを意味するのかといったところとかも。

 それでも全体のまとまりがよいし、文章の錬度もよいので「まあ、それはそれとして」と割り切って読ませてしまううまさがあるのも確か。SF 者しか読まないという意見もあったようだけれど、SF 者としてもかなり読者を選びそうな気配もあって、その意味ではもう少しという気持ちがないではない。

 ついでに言うとどうしてもタイトルを覚えきれない。何度見ても次の日になると悩んでしまう。これは自分の頭が老化してきたのか、はたまたなにかの罠か。とはいえそんなところにもなんとなくこの作品の置かれた位置というものが感じられてしまったりも。あくまでも個人的にではある。

 よくまとまっているので面白いのは事実。それでも少しばかり読者は選びそうだ。

B00APRTZ1I〈すべての夢|果てる地で〉 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作
理山 貞二
東京創元社 2012-06-29

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「神々の歩法」

 引き続き電子書籍の消化を。今年の第六回の SF 短編賞の受賞作。なにやらパワードスーツみたいな兵士が砂漠化した北京だかにやってきて、バケモノのような相手と戦うということらしく、冒頭はなにが起こるのかよくはわからない。世界がどうなったというのも細かいことはわからない。でもまあそういう世界。

 で、普通の人間のように見える相手がさながら漫画でよくあるかのような超人的なパワーを持っていてという感じで描かれていくと。そこへ、今度は女の子が登場してなにやらバケモノと互角に戦ってしまうと。

 結局なにやら宇宙からやってきた生命体なのか意識体なのかというのが人間に寄生するかのようにしているということがわかって、例のバケモノも少女もそうであると。で、一緒に倒しましょうという展開になると。

 はじめのワクワクどきどきとは最後はちょっと違って、それだけだったのかという印象も正直なところではあるのだった。短編なのだからさほど期待してもはじまらないし、そこまでなにかを描けるわけでもないのだし十分といえば十分。物足りないといえば物足りない。

 とはいえ、既にラノベとはいえプロデビューされている方ということで文章は確かにうまいので、全体としてのまとまりはよい。素直に読んでいけるというのもまたうまさのひとつではある。唯一ちょっとと思うのは選評にもあったと思うけれど、システムとの交信かと思う端末描写の部分が今ひとつというか、あるいは不要だったというか。このあたりはラノベの悪影響だったということかもしれない。

 ただ、SF として面白かったのかというとただただ物語の展開だけを見せられたという印象も強くて、面白みというのはあまりなかったようには思う。無難にまとめられすぎていたとでもいうか。面白みという点では「あがり」のほうが SF としての面白さを感じたというのは正直なところか。

 というわけで可もなく不可もなくという感じの作品だった。あ、タイトルがやや意味不明というのももったいない点かも。

B010DY7LOK神々の歩法 -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作
宮澤 伊織
東京創元社 2015-06-30

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「あがり」

 数年前からはじまった SF 短編の新人賞受賞作と選評をまとめたという電子書籍版がでていて、以前それを買っておいたのだけれど(価格がまあ安いので)電子書籍というのは物理的に見えないというのが災いしてそのまますっかり忘れていた。漫画ばかり読んでいるからというのもある。

 ということでようやく読んだのだった。いや、正確にはすこし読み始めていたのだけれど中断したままだったらしい。で、確かになかなかに面白かった。

 恐らくは北海道なのかという大学の研究室。とある理論を検証するために細胞の増殖を繰り返す? という実験をして一定回数を超えたところでその有効な回数にたどりついてしまい、それ以降はなにも起きなくなるのではないかといったような発想かと思うのだけれど、理解が少し違っているかもしれない。(読み返していないのであくまでも記憶の印象なので違う可能性大)

 で、実際に実験が終わったらとりまく世間でおかしな現象が立て続けにおきるという顛末がなかなかに恐ろしくもありおもしろくもある。理系でありながらカタカナ言葉を一切排除しているというのも特徴で、それがまた奇妙な世界観を描き出すのに役立っている。

 基本主人公の視点で描かれるのだが、彼女もまたなぜかその研究をしている彼が実験を終了したときに夜をともにしてしまい大学に戻って事後経口避妊薬を処方してもらったりするというちぐはぐさがあったり。なんとも不思議な感じのする世界。

 正直なところ発想のおもしろさはあるものの、それがなぜ結末にいたるのかというあたりはほとんど飛躍が大きくてそのあたりをつきつめるとちょっと違和感が残ってしまうかもしれない。それにともなう結末の展開にしても、本当にそれが役に立つのだろうかというところで物語りは終わる。

 書き直しを条件にということだったのも(といって書き直されたものを読んでいるはずではあるのだが)そのあたりの奇妙さとでもいうあたりに不満があったのかもしれない。さらりと読んだあとの感覚は非常によいのだが、いやまてよと考えはじめるとちょっと不満が残ってしまう、そんな作品かもしれない。さらに洗練されているであろうその後の作品を読んでみたいと思うところではあるので、いずれ探してみようかなと。

B007TAKKPOあがり -Sogen SF Short Story Prize Edition- 創元SF短編賞受賞作
松崎 有理 大森 望
東京創元社 2010-07-30

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 これかな。

4488745016あがり (創元SF文庫)
松崎 有理
東京創元社 2013-10-30

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「大尉の盟約」

 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 一連のヴォルコシガンシリーズの外伝的な作品のため、マイルズ本人はほとんど登場しない。といって作品のテイストが変わるということはもちろんなくスペースオペラの面目躍如。読者大サービス月間とでもいうような内容になっている。ただ、正直なところもろもろの事件背景とかがやや不明瞭に感じてしまうのは、残念ながらシリーズの大半を読んでいないがゆえということはあるかもしれない。

 本作での主人公イワン。友人からの依頼でとある女性をくどくことになり(そのあたりの事情が結局のところよくわからないというか納得がいきにくいというか)、テユと出会うわけなのだが、住まいで待ち伏せていたところで同居しているリッシュによって昏倒されてしまう。別の何者かに狙われているということはわかるのだが、その結果として警察・司法・所属部隊方面などなどでいろいろ面倒が起きてしまい、起死回生の手段としてイワンが思いついたのがテユと結婚してしまうということだったと。

 結婚したことで身元保証がなされているイワンの庇護も手厚いということだったわけだ。とりあえず現状を切り抜けたら離婚すればいいからという偽装結婚のはずだったのに、次第に互いにひかれあってというある意味王道的な展開ではあるのだった。さらには離婚のためにと訪れたところが、正当な理由がないではないかと拒否されてしまう。離婚するって難しい。

 ただ、その後登場するテユの大家族(死んだとか行方不明とかだったらしいのだが)によって問題が面倒になっていく。そもそも持参していた書類が偽装らしく、イワンの妻の家族ということが確認されて一時的な在留が認められるというような話になってくる。彼らがその間に隠密裏に行動するそれが、どうも突飛すぎるというかで個人的にはあまり展開にはなじめない。

 そうして行動していた結果がとんでもない事態を引き起こしてしまうのが後半のクライマックス。その裁定なども正直なところどうもよくわからない展開に思えるのだが、とにかくまあ穏やかなところに落ち着く。そもそも彼らはなんだったのか? と思ってしまうのはよく読んでいないか、あるいは作品世界になじんでいないからなのか。

 いずれにしてもそうした個々の事件や事態を切り抜けていく展開そのものはスペオペとして十分に面白いし楽しめた。ただ、その間にいろいろはさまれている説明的な展開がやや退屈に感じてしまったのはある(そして、そうした部分が案外長い)。以前読んだのは「ミラー衛星衝突」だったのだけれど、そのときにはそういう感じはあまりなかった。今回が違うのか、はたまた自分の感じ方なだけなのか、それはわからない。そうしたことを踏まえたうえであえて評価すれば、やや微妙な作品だったかというところではある。

 余談ながら本作を読んでいてふと連想したのは銀河辺境シリーズのことだった。あちらも主人公は女たらしの宇宙軍人さんというところで、冒険と色で描かれたスペオペシリーズとして大部をなした名作なのだった。もっともあちらのほうが一作あたりの分量的も半分以下ということで、いわば無駄を省いたコンパクトなサイズで読みやすかったようには思う。このシリーズはやや冗長すぎる嫌いがあるのかもしれない。


以下、校正もれかと思われる箇所。

「あら。そうよね」テユは動揺しだ

(上:P.37)

それはともかく、たったいまイワンが見た小キッチンのカウンターに載っているのものは・・・・・・。

(上:P.168)

「くそっ」とイワン。「それじゃあ連中は壁のなかのどこからからでも出てこられるんだな」

(下:P.95)

4488698190大尉の盟約〈上〉 (創元SF文庫)
ロイス・マクマスター・ビジョルド 小木曽 絢子
東京創元社 2015-09-19

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4488698204大尉の盟約〈下〉 (創元SF文庫)
ロイス・マクマスター・ビジョルド 小木曽 絢子
東京創元社 2015-09-19

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「図書館革命」 図書館戦争シリーズ 4

 気がつけばシリーズも最終巻の 4 巻。じっくり読もうと思っても気づくとどんどんページが進んでしまって終わってしまう。困ったものだ。

 いよいよ良化委員会の圧力が高まってとある原発テロ事件のモデルになったのではといわれる小説をめぐり、作家に執筆活動を制限する措置をするという話になってきて表現の自由の危機がという話。

 状況を事前に察知してすばやく図書館に身を潜めることに成功したものの、当然内部にも敵はいるわけでそれらとの攻防が序盤。図書館にいるのは限界ということで稲峰元指令のところにかくまってもらうことにするのが中盤。ここにもやがて良化委員会の手がはいるようになる。

 柴崎の働きで未来企画と協同が実現することになるあたりの流れも面白い。柴崎のしたたかさと鈍感さと。

 そして終盤のメインは、いよいよそれら一連のことについて裁判にもちこみ時間をかせぐものの(間にテレビを通じた一種のプロパガンダ攻勢にでるというあたりも面白い)結果としては良化委員会よりの結果に終わることで最終兵器を投入。笠原がふとつぶやいた「亡命」が作戦として実行される。

 判決後にダミーもいれて逃走をはかるが、直前に内部から情報がもれてしまって良化委員会が最寄の大使館前にはりついてしまい、なかなか近づけない。都内での攻防戦で堂上が負傷。笠原と作家とで大阪へ向かう作戦が取られる。幸いというかあいにくの荒天のためもあり、まさか大阪に気づくのには時間がかかるであろうと夜通し大阪へむけて車を走らせ、明けての翌日ついに最後の突入決行。

 まあ、見事に東京と大阪をまたにかけた大逃走劇が繰り広げられて、とんでもない奇妙な作戦として最後を迎えるその面白さ。奇想天外さがなんとも痛快。堂上と笠原の結末は、まあおまけみたいなものなのか。

 とはいえ武雄市図書館の事例など見ると、近い将来に図書隊が必要な時代はきてしまうのではないか、という不安すら覚える昨今。いろいろな意味で怖い物語でもあるのだった。楽しんでいられるだけであることを切実に願うばかり。

 それにしてもついに終わってしまった。まあ、別冊のシリーズがもう少しあるので、なんとか楽しめるのかもしれないけれど。終わってしまったなあ。


 どうやらこのカバーはもう終わってしまったらしい。あたらしいデザインになってしまった。不ぞろいでよろしくない。

4043898088図書館革命 図書館戦争シリーズ (4) (角川文庫)
有川 浩 徒花 スクモ
KADOKAWA/角川書店 2011-06-23

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星ぼしの荒野から

 本のダンボール箱を見ていてふと再読する気になった。といっても正直 20 年あまりも前のことで覚えていないというのが正しい。再読してみて当時としてはそれで仕方ないのかもと思いつつ読み終えた。どれも、それでどうというのだろう? というような読後感を持ってしまう作品が多かった。

 いや、それは作品がダメとかそういう話ではなくて、物語としてはまあわかった。そして全編を流れるフェミニズムな空気というものもよくわかった。ただ、それぞれの物語が描くものが、で、いったいなんなのだろう? と思ってしまうようなちょっとあいまいな内容なのだった。

 伊藤典夫さんの解説を読むと作品はティプトリーの素性が判明した時期前後ということだったり、ラクーナ・シェルドン名義で書かれたものとティプトリー名義のものとが混在する時代だったのだという意味で特殊な時期に編まれた作品集だったと知ると、少し腑に落ちるものもある。

 全般にやさしい感じの語り口であるというのもうなずける。「愛はさだめ、さだめは死」のようなガチガチした感じはあまりない。星をめざすような物語が多いというのも、読後に言われてみると確かにそうかと思う。

 それでも表題作の「星ぼしの荒野から」にしても、最後の「たおやかな狂える手に」にしても、それ以前の大半にしても、内容は一応わかったが、で、いったいこれはなんなのだ? という疑問が残ってしまうのだった。いや、理由とかない。そういうものなのだ。それ以上でもそれ以下でもない。と言うかもしれない。

 そう思うと昔読んだときに(1999 年の初版で買っているらしい)あまり印象に残っていないのもわかるような気がする。

 ただひとつ「ラセンウジバエ解決法」については、SF らしいゾクゾクとする寒気を感じる作品だったというのは鮮烈な記憶となりそうだった。研究者が家族のもとに帰ろうとするのだが、途中無性に妻を殺してしまうような衝動や夢にとりつかれてしまう。ちょうど世界では今そうした異常な事態が増えている。家路についてはいるのだが、このままでは妻を殺害してしまいそうだと電話をかけ、たとえ自分が帰宅しても家にいれてはいけない。逃げるんだと妻につたえる。愛しているのひとことも忘れずに。

 世界中で女狩りがはじまっているという状況で、これはつまりと気がつくのがラセンウジバエ解決法。現存するハエらしいのだが、この駆除のためにメスを殺してしまう、つまり繁殖を阻止するという方法をとるらしい。すなわちこれは人類を抹殺するために行われているある計画なのではないかと。

 まあ、大雑把にいってしまうとそういう物語なのだけれど、なんとも背筋の寒くなるような小品。タイトルだけは妙に印象に残っていて記憶にあったのだけれど、今回再読して実にとんでもない話だったのだなとあらてめて思った。もう少し再読してみるかと。(「たったひとつの冴えたやりかた」は実は大嫌いである)

4150112673星ぼしの荒野から (ハヤカワ文庫SF)
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア Jr. Tiptree James
早川書房 1999-04

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4150107300愛はさだめ、さだめは死 (ハヤカワ文庫SF)
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 浅倉 久志
早川書房 1987-08

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