公開時に盛んに話題になっていたのは見ていたけれど、いつものことで映画館で見るということがもうなくなったのでテレビとか配信とかを待っていたら、たまたま AbemaTV で吹き替え版は無料というので見ることにした。新型コロナウィルスの一年目での公開だったようなので、ましてや映画館へはちょっとというのは、今思うとあったりはするな。
で、二度見た。時間が逆行するらしいというのはおぼろげに知っていたが、なるほどそういうことかとまずは納得。逆行できる技術を手に入れて、過去に戻っては自分に都合のよいように歴史を修正してはというところだったり、事前に未来を学習したので、そうならないような過去を実行するとか。
まあ、単純にいえばそういうことで、ただ、それがなぜ第三次世界大戦とかになるかというとやや謎。プルトニウムの同位元素にそのためのアルゴリズムを分散して隠したというけれど、それもまた意味不明だったりする。
場面によっては同じ自分が最大で3人も登場してしまったりで、これパラドックス的にどうなのかと思ったり、たしかに自分自身に直接、いや、彼は自分と戦闘しているよな、顔が見えていないだけで。認識がなければよいという都合のよい設定を作ったのか?
ともかく、冒頭のキーフでのテロにかかわる部分も実際にあったのか、そうではないのか、というあたりからしてよくわからない。のちに手引きをするニールがすでにマスクした状態とはいえ登場していたというのはのちにわかるわけだが、あまりに輪廻しすぎてそもそもの発端がどこにあるとか、前後関係とか無茶苦茶できちんと論理的に収めようとするとおそらくどうにもならないのだろうなと感じる。
ゆえに、全体に雰囲気だけで突っ走っているというのが印象。話のつながりという点でも編集の都合もあるのかもしれないけれど、起きて話していた次のカットでは寝ていたり、さらに次のカットでまた起きて話していたりと意味不明。
冒頭、彼が洋上風車の中で生活している意味も不明。なぜそこにいる必要があったのかという理由がまったくない。そして、そこをでると指示もないのにとある建物に向かって研究者の女性にあって、なにやら重要な秘密を知ることになると。それが時間逆行技術の存在。
セイターの妻が実は船から飛び降りていたというのがはじめにもでてくるので、つまりそのときにはもうセイターは死んでいるはずなのだが、その世界線では死んでいないとか矛盾が生じる。では、そのときにはなにが起きていたのか。未遂に終わったのだとしたらセイターはそれを知っているわけだから、油断などするはずもない。
ともかく一事が万事こうした繰り返しで、単にいくつかのエピソードの正転時間と逆転時間とを繰り返し見せられるだけで、話としての時間は実質半分でしかない。
最後の爆弾を阻止しないという戦闘では、本来逆行している青チームの動きがなぜかしっかり逆行してないという描き方(赤が下りたとき青は作戦終了して飛び立つタイミングであるはずなのに一緒に下りているとか)も詰めが甘いのではという感じがしてしまう。物語の展開上のつじつまあわせに終始するために、ささいなところはもう矛盾だらけでもいいやと割り切った結果という感じ。
おかげで確かになにも考えずにその時間に乗っかってジェットコースターよろしく流されていけば、なんとなく爽快感だけは残るかもしれないが、面白みとか納得感とかは皆無だ。
いっそ、そのあたりは「時間衝突」(バリントン・J・ベイリー)を見習ってほしい。まさに相互の時間の流れが逆行していて、それらがやがて同じ時を迎えるという大惨事をどう描くか。
そういえばタイトルも興ざめ。TENET というのは主義という意味らしく、作中でもたまにでてくるが、内容からすると誰も主義を主張しているとかではなく、これはどちらかというと字面が左右どちらから読んでも TENET であることを重視しただけではないのかという感じもする。つまり言葉の意味そのものにはまったく意味がない。たんなるこじつけ。
回転装置のこちら側とあちら側では時間の流れが逆なはずなのに、会話が成立しているあたりもおかしい。
いずれにしても、雰囲気だけの作品だったなというのが総合的な感想。時間逆行する世界と両方を同時に描いてみたという面白みだけは評価できるところだけれど。ほかは、どうにもならない。
なんであんなに話題になっていたのだろう? それとも同様の感想で話題になったということだったのだろうか? いや、絶賛されていたような気がするのだけれど、さて、どうだったかなあ。まあ、どちらでもよいか。
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