「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話」を読んだ
アニメ三期が最終回を迎える直前に、その三年生編の空白を埋めるかのような短編集が発売になるという絶妙のタイミング。
とはいえ賛否はあろうけれど、個人的には世界を破壊してしまったのでもはやアニメではありえない世界線が続く世界の物語で、ある意味こうあるべきであった真実の物語たちがそこにあった。
新一年生のある意味お騒がせ四人組の物語であったり、緑によって素直に成長した求の物語であったり、大学生となったなかよし川のぞみぞの遅い夏の物語があったりとバリエーション豊かだ。
重要なのは、たとえば奏と真由の掌編だったりする。はじめから真由のもつ不穏な空気に敏感だった奏は終始真由から一定の距離を置こうとしているわけだが、そのあたりのわだかまりがきちんと解消されて「真由先輩とお呼びしても?」と言わせるまでを描く。
全国大会でのユーフォソリが久美子になったからこそ描けた掌編であり、真由の生い立ちを描いた短編と合わせると真由自身の悪意のない悪意とでも呼ぶべき性格や行動と含めて、すべてがしっくりと氷解していくさまがある。
アニメ三期の結末にファンが求めていた本当の展開は、これだよなあとあらためて残念に思う。一度、あのような改悪をしてしまったら、とってつけたようにこれらを導入してもそれはどうみても嘘にしかならない。本心の物語にはどうしてももう見えない。上っ面だけとりつくろって見せているだけにしか見えない。
けれども、ここには、正しい幸せな世界線が続いている。
次の部長ほか幹部を決めるという短編群。もちろん、麗奈も一緒だ。けれどもアニメの展開ではたしてそれが実現しうるだろうか。アニメスタッフとしては何の問題もなく実現できるという考えのようではあるが。
まして、卒業旅行をかねての沖縄での演奏遠征の中編をどうあっても想像できない。
たぶん、原作の奏であれば、仮にアニメのような状況になっても久美子に泣き顔を見せたりしないのではないか。すっかり久美子べったりになった奏ではあるが、香織に対する優子のそれとはたぶん違う。
最後にはすっかり、いやもともとそうであったのであろう副部長としての奏がそこにいる。
もはやアニメ世界線では描けなくなってしまった世界のしあわせな未来も過去も。
むしろ、こうした短編群を今後も適宜書いてくれたら、原作ファンは報われるかも。
響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話 (宝島社文庫)
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