「明暗」

 ちょっと読むものがなかったのでどうしようかと思っていて、ふと昔高橋会長が SONY Reader 用に PDF にした青空文庫の作品があったなと思い出して、それならばと見ていて選んだのが、たまたま「明暗」(夏目漱石)だった。

 で、読み始めると案外長い。しかも、例によって寝る前読書でさして進まない。間にほかの献本とかもあったりで結局二か月くらいかけて読み終えた。しかも、中盤くらいになってからようやく「未完」の作品だと知った。

 なんとなくまだまだページがあるなと思いつつ読んでいたら、ふいに「未完」の文字。Adobe Reader を使っていたのだけれど、どうやらページ位置をしめすマークは必ずしても端から端までではなかったらしい。騙された。

 で、作品。

 主人公はとにかく金がない。金遣いが荒いというわけでもないが、来月の生活費も危うい。仕事はしているようなのに。実家の父親に無心したり、親戚すじに無心したり。そんな中でなにやらよくはわからないが手術をすることになって、親戚筋と妻と妹やらちょっと困った古い友人やらがでてきてごたごたする。

 あげく、今のあなたが煮え切らないのは、かつて付き合っていて結婚するかと思っていた相手の女性とふいにわかれてしまい、別の男性と結婚してしまったが、その理由がよくわかっていないのでまだ悶々と引きずっているのでしょうというのだった。

 で、彼女は今療養のために湯治場にいるから、退院したらあなたも療養という名目でそこにいきなさいと。費用は持ってあげますと親戚だったかなんだかの奥さんがいうのだった。で、そんなことはないというのだが、あながち間違ってもいないかという気持ちもあるらしく、同行するという妻をなんとか言い含めてひとりで湯治場に行くと。

 滞在していることは確かめたものの、そうそう出会えるわけでもないと思っていたら、宿のなかで迷子になっているうちにふいに出会ってしまい、そこから意を決して対面。さて、そこからどうなるのだというところで終わってしまった。

 うーん、なにが明暗だったのだろう。相手の女性とどうしたかったのだろう。謎は深まるばかりで終わってしまった。未完にもほどがある。これをどう評価すればよいものやら。


 ちなみに先の PDF なのだけれど、縦書きではあるものの左とじなのでページめくりが逆イメージになってしまってちょっと不便ではあるのだった。

B009IXL5PY明暗
夏目 漱石
2012-09-27

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「ラブコメ今昔」

 昔は恋愛小説とか、恋愛ドラマとか、恋愛映画とか、とにかくその手のものはなんだか恥ずかしくって苦手な意識というのがあった。特に若いとき。女性はむしろそういうものが好きな人は多いと思うけれど、男だとそういうのはちょっとと敬遠する向きというのはある。

 もちろん、それは嫌いだというのではなくて単に面と向かってととかあけっぴろげにというのはちょっと苦手だな、恥ずかしいなということであって、そういうことに関心がないわけではないはず。まあ、そういうもの。

 それでも「赤毛のアン」くらいなら読んではいたし、まあ、そのくらいならそう辛くはなかったようには思う。それに比べて「ラブコメ今昔」が当時あったらどうだろう? やはりちょっと手を出しにくかったろうなとは。ずいぶんとラフでライトではあるけれど、それでもその裏にはあまりにもベタな恋愛が描かれているのでちょっと気恥ずかしいところは否めないだろうなと。

 ところが今となれば、つまり歳を食えば次第にそういう意識というのも変わるし、和らぐ。まあ、気恥ずかしさといったものはどこまでいってもそう変わりはないかもしれないけれど、少し離れたところから眺められるといった感じ。若いっていいなあとか、あの頃はそういうことなかったなとか、逆にあったなとか。まあ、いろいろ思いをはせながら。

 自衛隊を舞台にした恋愛コメディ短編集の第二弾。ということもあってバリエーションもいろいろで、深刻なようでライトなようで、とにかくぐいぐいと引っ張ってくれるのでえいやっと引き込まれてさえしまえばなんということはない。こそばゆい感じも味わいつつ楽しませてくれる短編たちがぎっしりつまっている。

 しかも、自衛隊。特殊な環境下での恋愛は、などというどこぞの映画の状況まで思い出してしまいそうになるくらい特殊。けれど、それだけにかえって少し離れた現実の恋愛として見られるという効果は高いのではないかとも。恋愛小説はちょっと苦手という向きにもこれはけっこうアピールできるのではないか。

 どれも面白いけれど表題作とその裏表になるようなおまけとの対比あたりがなんとも好きではある。

 自衛隊をとりまくもろもろの事情みたいなものも見られるという特典つき。自衛隊シリーズの長編内での恋愛模様よりもずっと濃いところが読めるというのも面白い。恋愛小説はちょっと、という人にこそおすすめ。

404100330Xラブコメ今昔 (角川文庫)
有川 浩 徒花 スクモ
角川書店(角川グループパブリッシング) 2012-06-22

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4043898045クジラの彼 (角川文庫)
有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-06-23

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阪急電車

 テレビで映画は見ていて、よいなとは思っていたのだった。毎日隣に住んでいる人でさえ、その家庭がどんな暮らしをして、会話をし、何を考えているのかなどということはほとんどわからない。ましてたまたま同じ列車に乗り合わせただけの見ず知らずの他人が、どこからどこへ向かおうとしており、何のためであるのかや、なにを考えているのかなどわかろうはずもない。乗り合わせている人の数だけ物語が確実に存在しているのに、誰もそれを知ることはまずない。そこに目をつけたというのがまず面白い。

 それぞれに描かれるのは実に些細な物語であったりする。寝取られ翔子さんの物語ばかりは少し重いものを感じるかもしれないけれど、それすらも沿線のもつゆったりとした暖かさで決して重過ぎない。

 その多くは老若の女性が主人公であるといえるのはひとつの特徴かもしれない。男性が首としてでてくるのは若者の恋愛物語での相手くらいだ。小学生からおばあちゃんまで、それぞれが悩みや迷いを抱えていたりして、そのお互いが少しずつ次の誰かに影響しながら物語がつながって行く様が、路線の進み具合とともに描かれるという物語の構造もまた面白い。

 「人の縁とはふしぎなもので」ということばを地で描いたような物語たち。どこか悲愴に感じられそうな物語もきちんと最後は明るさをもたらす展開も読後をさわやかにする。

 恋がはじまった二組をはじめとした会話にも、相変わらずの有川節が満載で楽しいやらほほえましいやら。実に気持ちの良い小編であるなあと(連作短編集といったところ)。

 もっとも映画を先に見てしまったがために、翔子さんが中谷美紀に見えて仕方なかったという面はあるものの、似合っているのでむしろよしということで。他の人が誰だったのか思い出せないという老害はまた見るきっかけということにしておこう。

4344415132阪急電車 (幻冬舎文庫)
有川 浩
幻冬舎 2010-08-05

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B005GOIOZS阪急電車 片道15分の奇跡 [DVD]
有川浩
ポニーキャニオン 2011-10-28

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群青の夜の羽毛布

 映画を見たのだけれどかつて原作を読んでいるのにまるっきり新鮮すぎたので再読。おおむね原作と同じ内容ではあった。そういう話だったか。

 とても仲がよく幸せそうに見えるお隣さんであっても、その実家庭内でどんな会話がされているのかとか、家族それぞれがどんな生活をしているのかなどということは外部の者にはわからない。外面がよい人というのが世の中にはあるけれど、家の中と外とではまるっきり違う顔・態度を見せるという人はいて、仮に「○○さんって本当にいい人ですよね」とか言われたときに、「いや、家ではこうなんです。困っているんです」とか言ったところで信じてもらえずに、逆に「どうしてそんなひどいことを言うんですか?」とか悪者扱いされてしまったりすることだってありうる。

 家族という閉鎖社会のことなど他人にはなかなかわかりようもないのに、自分の知っているその人でだけ判断してしまうということはある。

 似たようなことが恋愛にもいえて、まさに恋愛のさなかにあるふたりには(あるいはひとりには)相手の悪いところなど見えなかったり、たとえ見えてもそれすら美点に思えてしまったりする。恋は盲目だの、あばたもえくぼだの、夜目遠目も傘のうちだのいうのはまこと正しい。

 もっとも、そんな風にしていられるのもそうそう長い時間であるはずもなく、結婚していざ一緒に暮らし始めるとささいなことが気になりはじめたりする。そんなことを織り込み済みで許容できればよいが、限界を超えたりすればたちまち関係は破綻をはじめる。

 ただ、それが傍目にもわかるようであればむしろよいほうで、傍目には何事もないかのように振舞っているような場合ほど危険をはらんでいたりするのではないか。そんな狂気を描いたのがコレといったもよいのかもしれない。


 大学四年生の鉄男。スーパーでアルバイトをしているが、若くてきれいでちょっと華奢な感じのお姉さん客に惚れてしまう。で、ふたりは付き合いだすのだが、24 歳の彼女(さとる)は夜 10 時の門限をいつも気にしている。

 出会ってほとんどすぐに(映画では最初のデートで)体を許したさとるではあるものの、鉄男以外の人との付き合いは得手ではなくできれば避けたい。母親はさながら王様ゲームの女王様かのように君臨し、ある意味さとるとみつる、ふたりの娘を支配するかのように扱う。

 そんな姿を見て鉄男はこの家をでるべきだとさとるに告げるが、自分はこの家を離れることはできないとだけ答えるさとる。

 長い長い坂の上にようやくにして建った我が家。重い荷物を持って毎日まいにち通いつづける坂道。なんらかの理由で家に縛り付けられているかのような女たち。

 「お父さんは?」と問いかけた鉄男に、父親はいないのだとだけ答えたさとる。けれど、それこそがこの家族にまとわりついた家族という怨念のようなものだと終盤明かされる。さながら座敷牢であるかのような奥座敷にひっそりと暮らす父親。けれど、それは薬によって眠らされているもはや生きた屍のような姿。

 なぜ、父親にそのような仕打ちをしなくてはならないのか。いや、父親はいったい何をしたのか。結末にむけて淡々と語られていく。そこにいたる道はさまざまに衝撃的な事実であふれている。

 「明るく楽しい家庭を築きたい」などと結婚したときには思うもの。けれど、現実は必ずしもそうとばかりは限らない。楽しいことも嫌なことも、ときにはいさかいを起こすことだって当然あるはずで、そうしてきっと家族というものはできあがっていくのだろうけれど、きっとどこかでなにかが狂ってしまうとそれは次第に思い描いたものとは違う姿に変貌していってしまうものなのかもしれない。そしてそれはどんな家庭にも内在する危険なのではないかと。

 けれど、きっとそれを救うのもまた、そこから生まれるあたらしい家庭なのかもしれない。そんなわずかな希望をもたらしてくれる最後が、まだ救いになるような物語。「死なないでよかった」。さとるのその一言にすべてが集約されているのかもしれない。

 久々の山本文緒に、一気読み。


 持っているのは幻冬舎のものなのだが、なにやらあちこちで出ているらしい。というか、現状だと角川なのだろうか?

4877287183群青の夜の羽毛布 (幻冬舎文庫)
山本 文緒
幻冬舎 1999-04

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4167708027群青の夜の羽毛布 (文春文庫)
山本 文緒
文藝春秋 2006-05

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4041006961群青の夜の羽毛布 (角川文庫)
山本 文緒
KADOKAWA/角川書店 2014-01-25

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千一夜物語 1

 100 分で名著でとりあげたときにふと思い出したので、久々に探し出して読んでみた。というかどうやら四分の一くらいしか読まずにそのままになっていたらしい。購入したのはもうずいぶんと前のことでたぶん当時はどうもあまり面白く感じなかったような記憶がある。

 ところが今回読み始めたら意外とするすると読み進められて、気がついたら 1 巻を読み終えてしまったというくらい。名前とか役職とかの名称についてはカタカナを見ていてもイメージがあまりわかないので、なかば読み飛ばすようにしていったのだけれど、物語の展開そのものにはそう影響しない。

 物語の中にさらに物語があるという入れ子構造が深かったりして、一瞬今どこにいるのかわからなくなるような感覚もまた楽しい。それにしても登場する女性たちの自由奔放でたくましいこと。ふがいない男どもをうまく操縦してしまうところはさながら「あんたは九州男児なんだから」みたいな感じもして、そのたくましさに惚れ惚れするくらい。

 さらには女性たちのあけっぴろげなところというか、性に対する積極性というかもすさまじく、いやそれはある意味男によって作られた物語であろうがゆえに、必然的にそうした男の願望というものも含まれているのではなかろうかなどとも思うのだけれど。それにしても、多くの場面でこれはポルノ小説なのではないかと思うようなところさえある。

 とはいえ部分的には児童物語としても使えるような不思議な冒険譚として楽しめるものもあるわけで、そのあたりの変化というのもまた面白いのだろうなと。翻訳者はそのあたりなかなかつらいものもあるのではなかろうかなどと。

 が、1 巻を読み終えてそうだったと気づく。これは延々と最後の最後まで終わらないのだったなと。物語が途中になってしまっている。うーむ、気になる。王様の気持ちをはからずも体感することとなってしまった。シャハラザードと妹の計略の見事さよ。

 似たような話がないとは言わないものの、かなりバリエーション豊かで、これが延々と続いているのかと思うとなんとも驚嘆すべき物語であるなあと。もちろんその成立の歴史をかの番組でも知ったけれど、ただ一人によってなされた結果ではないからというのもあるけれど、こうした話がゴロゴロとしていたアラビアというのはなんともすごいところであるなと、あらためて。

 さて、しかし、続きについては持っていないのでどうしたものか。読むのはずいぶんと先のことになりそうだ。


 佐藤さん訳のは古書店でしか入手が難しいか。バートン版では表現が軟らかくなっていることであろうなあ。

B00EXCXE2M千一夜物語(1) (ちくま文庫)
佐藤正彰
筑摩書房 1988-03-29

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レインツリーの国

 たまた値段がちょうどよかったので購入したのだけれど、なんだか世間の賑わいにはからずも合致してしまうような設定がはいっていて「なぜこのタイミングで買ったのか」と我ながらいささか驚いていたり。とはいえ、やはりここでもベタな恋愛が展開されているのだった。甘いかどうかは意見のわかれるところかもしれないものの、最終的にはやっぱり十分に甘すぎるくらいに甘い展開で、きょうのおやつはもういいですと思えるくらい(かもしれない)。

 読書の感想をあげたホームページを通じて知り合った男女ふたり。かつて読んだライトノベルの感想をお互いに話しているうちにいつしか直接会ってもっと話したいという思いがつのって実際にあって。というところからはじまる恋物語。ありがちといえばありがち。かつてのパソコン通信の時代にしてもあったろうし、今はもっともっと広い範囲でそういうこともあるのだろうなと。

 パソコン通信時代のほうが自分の好きなこと、趣味としているようなところに参加してだったので、そうした同じことを楽しむ仲間が集まるという意味では、そうした出会い(男女問わず)というのは今よりも多かったのかもしれない。もちろん、今ならそれは差し詰め SNS に場所を変えただけなのかもしれないので、状況はさほど変わっていないのかもしれない。

 まあ、そのくらいであればありきたりと思っていたのだけれど、相手の女性は聴覚障害を持つのだったというあたりで、おー、そう来ましたか、という驚きとなるほどという感心と。そうして単純に障害持っている人はかわいそうだよねだけでもなく、聞こえる人にとっての論理もきっちり描かれていて、身につまされたり理解したり。なによりも一方だけが(多くは健聴者)悪いのだという論理にならずに、聴覚障害を持つ人も変わるべきところはあるのではないか、というところが描かれているのが好感。

 きちんとした取材と調査とに裏づけられながら、書くべきところは有川流で料理しますといった潔さのようなものも変に同情するだけの作品になっていないところ。正直ふたりの恋愛の展開が気になるほうが強いので、聴覚障害そのものについてさほど意識するということがない。もちろん主題ではあるのでそこに対していろいろ考えさせられるし、それについての(健聴者であれば)いままでの不理解・無知というものをしっかり知る機会ともなる。

 なになにだからこうしなくてはいけない、といったことなどあるはずもなく、そんな強さとそこへいたるまでの弱さと葛藤があるからこそ、読後感のとてもさわやかな作品になっているなあと。いや、やっぱりベタ甘です。有川小説は。

4101276315レインツリーの国 (新潮文庫)
有川 浩
新潮社 2009-06-27

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クジラの彼


4043898045クジラの彼 (角川文庫)
有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-06-23

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 ベタ甘ラブロマ、いいじゃないですか。たぶん、青春まっさかりの頃ならそんなこととても思えなかったくらいに甘甘で、べったりで、だからこそ今ならそんなものでも「うんうん、いいね。そういうのも」と思えるのだろうな、などと思いつつ楽しく読む。まあ、傍から見たら気持ち悪いオッサンでしかないかもしれないけれど。

 小さな物語の主流となったそれぞれの大きな物語でも、十分に甘いラブロマ要素があったと思うのだけれど、さすがにそちらはメインのお話がそれはそれで重みを持っていたので単純にそればかりというわけではなかった。その分の鬱憤を晴らすかのような短編の集合体はかなり強力。

 なるほど、「海の底」の冬原と夏木にそれぞれそういう話を持ってきましたか。望ちゃんが立派になってもう、とか。レンアイ真っ盛りの自衛官の悲喜こもごも。自衛官だからこそというシチュエーションをうまく使った、もう恥ずかしいやら嬉しいやら、うらやましいやらの物語が手を変え品を変えてのもりだくさん。

 うん、いいね。もはやそんな縁もなくなった年齢だからこそ、うん、いいねと素直に思えるのかもしれない。

 で、まだまだ未読の多い有川浩だけれど、おそらくは彼女の本領というところはさまざまな状況、設定におけるレンアイにこそ発揮されるのだろうなと、あらためて感じた次第。それが SF であれ、現実的な舞台であれ、レンアイを描くために用意された舞台にすぎなくて、そうしたいろいろの状況下でいろいろのレンアイを描くことが実にうまいのだなあと。

 ハマる人が多いのも実に頷けるのだった。まあ、わたしもそのひとりなわけで。ぼちぼちとますますハマッていきますよ。

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壊滅の序曲

 読んでみたら意外とあっさりだった。時系列のはじめなので基本的には原爆投下の前の物語。といってもそれに触れる部分もあるにはある。

 それにしても、もろもろよく分からない現状で思うのは、登場人物というのは共通しているのだろうか、と。少なくとも夏の花ではあまり固有の名前はでてこない。私、であるし、K であるし、兄であるしといった具合なので。「壊滅の序曲」では固有の名前がしっかりでてきて家族構成的にはなんだか似ているようにも見えるものの、そういう設定で書かれているのかどうかがよく分かっていない。どこぞでしっかりとした解説を読むべきかと思うものの、まだ出来ていないので。

 総じて言えば原爆投下前のこともあって、空襲警報などがでてあたふたとする場面も多いものの、さほど緊迫した展開というわけではない。それゆえに「広島には落ちないんじゃないか」といった雰囲気が広がったところで原爆投下されたという描写が印象的。もちろんそれは原爆投下を予期したわけではなく、通常の爆撃があまりなかったということを受けてのこと。

 物語としてはむしろ家族関係についての物語という印象が強かった。家族、特に兄弟姉妹とその連れ合いや子供といったところを取り巻く様々な確執のようなものが感じられる。実質的に工場を運営している兄。兄嫁はたびたびふいにいなくなってはしばらくたってから、またふいに戻ってきたり。あるいは疎開させるのだかといって代わりに実の妹を呼び寄せて身の回りのことをしろという。しかし、妹は子供を疎開させているので、できればそばにいてやりたいと思っている、などなど。

 兄弟も三人あまりなのかとおもったが、それぞれいろいろで、なにやら不可思議な家族のようにも見えるけれど、まあどこの家族であろうと似たりよったりの部分は隠しもっているのかもしれない。

 三部作としてやはり冒頭を書かなくてはということだったのだとすれば、なんとなく余計にも思えるこの作品の位置づけというのもわかるような。もちろん、そうであるのかは知らないわけだけれど。

 「夏の花」の凄惨な描写を経験したあとでは、やや無関係にも思えるくらいにひっそりした物語ではあるかもしれない。


 そうか、こういう時代か!

B009IYAPIQ壊滅の序曲
原 民喜
2012-09-27

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最後のひと葉


4001145391最後のひと葉 (岩波少年文庫 (539))
オー・ヘンリー
岩波書店 2001-06-16

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 たびたび書いていることだけれど、天邪鬼なゆえに学生時代にあまり名作といわれる作品は読まなかった。いや、そんななかでも読んでみようかと思ったものとか、実際に読んだものもなくはないのだけれど、絶対量はごく少ない。

 ゆえに、オー・ヘンリーなども実質的には読んだことがない。国語とかの教科書にあったのか、はたまたほかの何かであったのか、著名な話のあらすじはもちろん知っているし、恐らくそうした部分だけは読んだことはあると思うのだが、まとまって読むということはなかった。

 というわけで、今頃になって読むと、正直なところ古臭さが目に付くといった印象がまずたってしまう。まあ、それは仕方ないのだろうなと。ただ、純粋な子供時代に読んでいたら、きっといたく感動する話ばかりなのだろう、と思わないでもない。

 つまりそれは妙にステレオタイプな設定が、あまりに無理がありそうな気がしてしまうことと、やはり時代の古さは否めないということなのかもしれない。

 食材に旬があるように、本にも旬とでもいうようなものがあって、それを読むのに適した年代、時期というのがあるのかもしれない。

 よく文学全集とか古典全集みたいなものを手元に置いて、老後の楽しみになどということがあるけれど、実は老後では読めないということも往々にしてあるはず。まずもって目が疲れるし、近くの文字が読みにくい。小さな字などもってのほか。人によっては時間はあるかもしれないが、じっくりとそればかりに向かっているほどの根気もなくなっているかもしれない。

 そもそも、それまで生きているかどうかすらわからないのであるから。

 などというと、あまりに身も蓋もないけれど、まあことほどさように先のことなどわからないのだから、読もうと思ったらさっさと読んだほうがよいということなのかもしれない。(そう言ってしまうと、歳をくってから読んでもよいではないか、となりそうだ)

 まあ、少なくともかつてない貴重な読書ができたというのはある。ただ、ほとんど暗記できるほど読み直したのが、難点ではある。しばらく、オー・ヘンリーはお腹一杯、というところ。

#あるいはと思われますのでこちらから。よろしくご査収ください。

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桜の樹の下には

 この短編もまた読んだことがなかったにもかかわらず、例の「桜の樹の下には屍体が埋まっている」というフレーズだけは、妙に印象に残って記憶されている。あるいは国語の教科書あたりに載っていたのか? と思ったりもするけれど、そんな感じでもない。

 そのくせ「檸檬」にしろ、これにしろ、短編だとわかっていてなぜか読んでいない。薄っぺらなその文庫本の姿から、却っていつでも読めそうな気持ちが生じて手を出すのを後回しにしていたのかもしれない。

 今回読んでみて思うのは、「檸檬」といいこれといい、実に似たような作風であるなと。なにやら奇妙きてれつな状況を作っておいて、さあさあとひとしきりブっておいて終わってしまう。

 いや、だからそれがなんなのだ? というところで終わってしまう。「羅生門」で黒豆さんにコメントしてもらったように、短編小説というよりは、物語のエピソード、アイデアのひとつといったものをメモしてみたような、そんな感じというのが一番正しいのではないかとも。

 ゆえによく分からない。

 ただ、なんとも不気味な後味であったり、ぞわぞわするようなものを感じてしまったりする。ある意味、実験小説なのだろうか。

 考え方によっては、これらは感受性の強い若い時代にはあまりふさわしくないのかもしれない。そこそこ大人になってからのほうが、抵抗力というか受容する器というかがあって、受け流せる部分というのもあるかもしれない。

 そうでもないと、そのあまりに強烈なイメージに襲われて思いもよらぬことになってしまうとも限らない。この手の小説には、あるいはそんな怖さが潜んでいるのかもしれない。

 もっとも、わたしのように今頃読んでも、やはりよく分からないということはあるので、なんともいえないかもしれないけれど。

4480425284梶井基次郎 (ちくま日本文学 28)
梶井 基次郎
筑摩書房 2008-11-10

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