「異常(アノマリー)」を読んだ

 なにやら話題らしいのと、arton さんも読んだというのがなかなか面白そうだったのでめずらしくさっそくに読んだ。たしかに、面白かった。ただ、いささか持ち上げすぎというきらいがないではないと個人的には思う。

 第一部でわけのわからないままに多くの人物の描写がでてきて、そのいずれもがだいたい政府関係者に同行を求められるといった展開を見せる。どうやら冒頭にでてきた航空機に搭乗していた人々を探しているらしいということはわかるが、それがなぜなのかというのはまったくわからない。ここまででおよそ 200 ページ。いってみれば導入部といってよい部分。これはまあ先読みできない。が、まあ、どんな小説でも作者以外に展開をしることはできないのは同じで、これでネタがわかるはずもない。まして、本作のネタは少々突拍子もないものだから普通に小説に期待するようなネタではないので、よけいにわかるはずがない。

 ところが第二部にはいると唐突にネタ晴らしがはじまる。なぜ彼らは集められたのか。世界中でおよそ 240 人あまりも。それぞれさまざまな職業や人種や生い立ちや年齢であり、それらが説明されていた第一部の 200 ページあまり。それに類する展開がそこからまたはじまる。

 ネタがネタだけにいささか SF 味が強いのだが、そこを現実的な対処でもってどうすべきなのかというあたりの国家間の考えや思惑といったものもあって、とはいえどうもやや消極的な措置をとるという感じではある。

 そして、登場した 20 人近い人物たちのこの「異常」事態の結末がそれぞれに描かれて終わる。淡々と。

 この「異常」はなんだったのか? とかいうことはいっさい明らかになることはない。もちろん、SF でその設定が逐一科学的に正当化されるための記述がある、なんてことはまずないわけではあるし、とにかくそういうことが起きたのだでよいとはいえる。おとぎ話とはまあそういうものだ。

 実は、作中では中国でも同じ「異常」が発生していたと触れられるのだが、それに対してその後なにかが書かれることはなかった。アメリカにおいて起きた異常についてだけだ。あるいは、もっと異常は発生していたのかもしれないし、それらがどう影響したのかは不明なままだ。多国籍の人々が搭乗していたにもかかわらず。

 それぞれのその後があっさりと描かれて終わってしまうだけなので、なんとも物足りなさを感じた。

 いや、このような「異常」の設定をしておいて、では彼らはどうなるのかと思わせておいて、この終わり方というのは、確かに「先読み不可能」ではある。もう少し、しっかりとした結末まで描いてくれるものと思ったのだが。

 だからといってつまらないということではなくて、いわば一回限りの「そうきたか」という面白さの妙はあるのだ。あるいは、繰り返し読めば気づかなかった部分に気づく、ということもあるのかもしれない。ただ、はじめて読んだときの衝撃というか驚きというかは、もはや味わえない。そして、そうなるとこの物語のもつ特異性は、かなり減少してしまうので、面白みというものもまた減少してしまう。

 たとえば、それが最終的な結末にいたる部分の面白さという展開でもあるならば、なんど読んでもおもしろいになるのだとは思うのだけれど、そこまでの面白さはもう期待できそうにないし、意外性にしかないのであまり読みたいという気持ちにもならない。意外性オチというのは、はじめてのときにしか有効ではない。

 そういう意味では、ちょっと持ちあげられすぎなのではなかろうかというふうに個人的には思う。

 作者が SF 作家であったなら、もう少し SF 的な展開を見せたおもしろい作品になっていたのではないかなと。文学の人であったがゆえに、ネタで終わってしまった感がある。

 というわけで図書館で借りて読む、というのがもっとも正当な読み方かもしれない。

異常【アノマリー】 (ハヤカワepi文庫)

 

| | コメント (0)

「海がきこえる Ⅱ アイがあるから」を読んだ

 続けて続編の「アイがあるから」を読む。時期としては夏休み明けからクリスマス頃まで。そして、今回はいささかドロドロとして濃厚な味わい。

 原作では登場した大学の先輩女性津村に振り回される拓。さらには、里伽子と父親と再婚するであろう女性との絡み合いがなんともドロドロしていてこれがあの続きかと思わせるくらいには、ドロドロ。どちらかというと里伽子とのことは、やや弱いままに物語は進む。津村のこじらせぶりが全体を覆っていて誰が主人公かわからないくらいだ。

 そこへ拓の友人となった数人が絡んできて、そこがある意味清涼剤のような味わいを持っているし、そこがすべてを解きほぐしていくキーにもなっていくというあたりは面白い。年寄りの扱いになれていて、亡くなった祖母のビデオを見せてくる友人。扱いがうまいというか、聞き上手というか、なによりそこには愛があるのだろうと。

 急転直下の結末へとなだれこむあたりでは、珍しく弱弱しいかわいそうなくらいの里伽子が描かれて、無理をして強がっていたのだろうなということを拓にもあらためて気づかせたり。

 ふたりの関係に目につく進展はさほどない。最後は確かに仲睦まじ感じもあるけれど、従前と同じといえばそれもそれ。とはいえ、つらい出来事を共有し、お互いにお互いを支えて必要としたことの記憶が、きっとこの先のふたりを強く結びつけるのだろうなとは感じさせる。

 むしろ、この先をこそ読みたかったかもしれない。

 惜しいなあ。

 ちなみに、続編を読むまでは、原作ままな再アニメ化というのはありだろうかと考えもしたけれど、さすがにこれは一般受けする展開・内容とは言えそうにないので、さきのジブリアニメのファンタジー的な物語のまま、きれいな思い出のままにするのがよいのかもしれない。

 少し、残念ではあるけれど。

 とはいえ、こんな青春、送ってみたかったよね、とあらため重ねて思わせるよい作品ではあった。青春をとうに通り過ぎた世代にこそ、おすすめなのかもしれない。

海がきこえるⅡ アイがあるから 〈新装版〉 (徳間文庫)

 

| | コメント (0)

「海がきこえる」を読んだ

 「海がきこえる THE VISUAL COLLECTION」を買った  ことを受けて原作も読んでみようと買って読んだ。青春だなあ。いいね。

 アニメと原作小説とでは、確かに少し違っていて、とはいえ 70 分あまりのアニメにまとめるには、たしかに大学生になって出会った先輩女性の津村さんとのこととかは省くしかなかったのだろう。ただ、原作だと東京へでてほどなく里伽子が東京の大学に行っているということを知るし、春先のうちに偶然再会もするし、夏休みの高知での同級会でも二次会ではあったが出会うしといろいろ細かいところは変わっている。

 もちろん、アニメのそれはそれで実に効果的な脚本になっていて、演出も見事なので実にふたりの関係がうまく描かれている。だからこそ原作にあたってみようかと思わせるものがあったわけでもある。

 複雑な事情を抱えて東京から高知へと高校二年生の二学期から転校とかは、普通に考えたらあまりうれしくない状況だろうし、そんな中でひたすらに強がっていきがってみせている里伽子の姿は、確かに不愉快に思えるけれど、精一杯無理をしていたのだろうなと後になればわかる。

 はたして里伽子は、いつから拓のことを好きになっていたのだろうな、と思うけれど、古い作品だけにそういう議論であるとか、あるいは作者による解説とかはすでにでているかもしれないけれど、さて、どうなのだろう。なんとなく三年生の春、東京へ行くという計画が破綻しようとしたときに同行してくれるとなったことを受けて少しずつ変わって行ったのかもしれない。東京につくまでは違っていても、二日目はそういう気持ちが芽生えたかもしれない。

 もっとも不器用なふたりなので、結局その後すれ違いを生んでしまってそのまま卒業することになるのだけれど、父親のことがあるにしても、東京の大学へと母親に嘘をついてまで進学した裏には、やはり拓の存在が大きかったのだろうなというのは、アニメのセリフでなくとも納得感がある。

 アニメだと高知での同級会で会うことはなく、同級生に聞いた話から自分を追いかけて東京にでたといってもよい状況であったことを知って、東京でいつも里伽子の姿を探していたという感じで、そうしてついに再開を果たしたというところで終わったわけで、そのさわやかで小憎らしい演出が実に青春だった。

 原作ままの展開というのも素敵だなと思うし、続編も思うとそういうままの展開であらたに作り直してもどうかと思わないではないが、さて。

 なんにせよ、こんな青春、送ってみたかったよね。遠いなあ。

 

| | コメント (0)

「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話」を読んだ

 アニメ三期が最終回を迎える直前に、その三年生編の空白を埋めるかのような短編集が発売になるという絶妙のタイミング。

 とはいえ賛否はあろうけれど、個人的には世界を破壊してしまったのでもはやアニメではありえない世界線が続く世界の物語で、ある意味こうあるべきであった真実の物語たちがそこにあった。

 新一年生のある意味お騒がせ四人組の物語であったり、緑によって素直に成長した求の物語であったり、大学生となったなかよし川のぞみぞの遅い夏の物語があったりとバリエーション豊かだ。

 重要なのは、たとえば奏と真由の掌編だったりする。はじめから真由のもつ不穏な空気に敏感だった奏は終始真由から一定の距離を置こうとしているわけだが、そのあたりのわだかまりがきちんと解消されて「真由先輩とお呼びしても?」と言わせるまでを描く。

 全国大会でのユーフォソリが久美子になったからこそ描けた掌編であり、真由の生い立ちを描いた短編と合わせると真由自身の悪意のない悪意とでも呼ぶべき性格や行動と含めて、すべてがしっくりと氷解していくさまがある。

 アニメ三期の結末にファンが求めていた本当の展開は、これだよなあとあらためて残念に思う。一度、あのような改悪をしてしまったら、とってつけたようにこれらを導入してもそれはどうみても嘘にしかならない。本心の物語にはどうしてももう見えない。上っ面だけとりつくろって見せているだけにしか見えない。

 けれども、ここには、正しい幸せな世界線が続いている。

 次の部長ほか幹部を決めるという短編群。もちろん、麗奈も一緒だ。けれどもアニメの展開ではたしてそれが実現しうるだろうか。アニメスタッフとしては何の問題もなく実現できるという考えのようではあるが。

 まして、卒業旅行をかねての沖縄での演奏遠征の中編をどうあっても想像できない。

 たぶん、原作の奏であれば、仮にアニメのような状況になっても久美子に泣き顔を見せたりしないのではないか。すっかり久美子べったりになった奏ではあるが、香織に対する優子のそれとはたぶん違う。

 最後にはすっかり、いやもともとそうであったのであろう副部長としての奏がそこにいる。

 もはやアニメ世界線では描けなくなってしまった世界のしあわせな未来も過去も。

 むしろ、こうした短編群を今後も適宜書いてくれたら、原作ファンは報われるかも。

 

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話 (宝島社文庫)

 

| | コメント (0)

「飛び立つ君の背を見上げる」を読んだ

 単行本で出たときにも気にはなっていたもののそのままになってしまい、今回文庫になったというのでいい加減読まなくてはということで購入した。なかよし川世代の四人をめぐる掌編の集まり。メインとしては夏紀ということになるのか。夏紀目線というか。

 コンクールも終わって、三年生としては部活を引退して、さてあとは春の卒業までのモラトリアム的な時間を描いたというところ。幸いにしてみぞれ以外は早々に進学が決まったという流れなのでそういう感じになる。本編では語られるはずもない物語たち。

 しかしながら、この四人の絶妙ともいえる関係が十分ひきだされた物語たちなので、それぞれのその後も含めて実に幸せな時間を共有できる。まあ、現実ではなかなかそうもいかないかもしれないし、そうでもないかもしれない。とはいえ、そうした時代をとうに過ぎた者としては、懐かしさとともに憧れのようなものもまた感じてしまう。

 こういう掌編も OVA にしてくれたらうれしいがなあと、つい思ってしまう。久美子三年生編もまもなく終わり。きちんと最後までアニメ化するという稀有な作品ともいえそうか。昨今はつまみ食いばかりだから。

飛び立つ君の背を見上げる (宝島社文庫)

 

| | コメント (0)

「響け!ユーフォニアム 北宇治高校の吹奏楽部日誌」を読んだ

 書き下ろしの中編(というくらいの長さかの)2作とあとは吹奏楽部にまつわるあれやこれやを編集した一冊。久美子一年生編のコンクール後からあすかたちの卒業までの補完という感じの作品。みぞれの意外な一面がみられたりもしてなかなかよい。

 インタビューやらキャラクター紹介やらもあって確かに公式ガイドブック。門外漢にとっては作品世界を補完するために十分役立つという感じではある。

 文庫サイズなのでガイドブックとしてはちょっと物足りない感がしないでもない。まあ、書棚に並べたときを思うとこのほうがよいのかもしれないけれど。

 

| | コメント (0)

「アンの愛情 巻末訳注付」読んだ

 松本侑子さんの新訳の新訳とでもいうべき文春文庫版の三巻目「アンの愛情」を読み終えた。ちまちまと寝る前読書だったのでずいぶんとかかってしまったが、ひとつひとつの章が短めなのもあって割とちょうどよい感じではあった。

 かつての村岡花子訳のほうではひととおり読んでいるとはいえ、すでに遠い昔となってしまい記憶もあまりなく、ほとんど初見という感じの読書。アンが大学でできた友達たちと家を借りて共同生活していたとかまったく覚えていない。

 また、生まれた家を訪ねて両親の遠い記憶と記念の品を手にするということなどもまったく覚えがなかった。

 さらにいえばギルバートと結婚するのはもっと早いうちで、というかせめてきっちりと描かれていたような気がしたが、いや、これでは最後の最後で「やっぱり結婚しよう」の段階で終わるとは。比較はしていないので違いの有無すらわからないもののここまで印象が違っていたのかと驚きだった。

 とはいえいい感じに進めているので、かつての翻訳では4巻以降はあまり面白くなかった印象はあるのだけれど、ためしに次巻は読んでみようかという気になっている。

 本当は逐一巻末の注釈に目を通しつつ読めば理解も深まるのだろうけれど、まずは物語を追ってしまうので実はほぼ目を通していない。いずれの機会に眺めてみなくてはとは思うのだけれど、果せるかな。

 しかし、かつての村岡花子訳に親しんだ人にとっても、はじめてという人にとっても現代にむけてこなれたこの訳で読めるのは幸せなことだと思うので、手に取って損はないと思う。

 

| | コメント (0)

「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 前後編」を読んだ

 テレビアニメの三期を来年にひかえて原作を読むことに。久美子偉いよ、本当偉いよ久美子。

 強豪校からなぜか転校してきてしまった黒江さんの不思議な天然さに振り回される久美子にドキドキしながら読み進める。怒れ! 怒るんだ久美子! とか思いつつ、部長としてそうもできない久美子の背中を想像してけなげやなあとすっかり同期している(終わりのほうで奏にも怒っていいと言われている)。

 一方で麗奈は麗奈で加速していくし、秀一も秀一で加速していくし、ああ、ぎすぎすしてきたと頭を抱えつつ(小説だというのに)読み進めるのは苦痛なので、寝る前にちょっとずつ読むのがちょうどよかった。

 あるいは、結末はこうなのかとやや悲観的な最後を想像したりしつつ読み進める。プロローグに数年後とおぼしき姿がおぼろげに描かれているのでよけいにいろいろ妄想させる。最後にはそれらもすっきりさせるが、そうなると余計におとなになった久美子や麗奈、ほかの仲間たちの姿というのももう少し見たいなと思ってしまう。

 そのくらいいろいろな思いを揺さぶられる作品ではあったなあ。まだ、短編集が残っていたり、なかよし川あたりの作品もあるにはあるけれど。

 アニメに関していえば、その後も類似の作品がアニメ化されてもいるものの、個人的にはあまり興味をひかれない。ここまで人気になっているようにも感じられない。好みの問題なだけかもしれないけれど。

 作中登場し、アニメ化にあたって実際の曲ともなった「響け! ユーフォニアム」は、いま全国のユーフォニアム奏者によって演奏されるようになっているのだろうか、と想像したりもする。

 すでにテレビで三年生編になってしまうので、いまさら二年生編をテレビシリーズでというのは難しいだろうけれど、本当は劇場版二本という姿のままよりも再構成されたテレビシリーズでじっくり見たいという思いは強いのだがなあ。

 

響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章 前編 (宝島社文庫)

 

 

| | コメント (0)

「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」 1 2 3 を読んだ

 アニメも完結して会話とテンポのよさはなかなか好きだったので、では原作も読んでみようかという気になっていたのだけれど、リストにいれている 1 巻の在庫状況がどうにもよろしくない。変だなと思いつつずいぶん月日がたっていた。どういう経緯で知ったかもう忘れてしまったのだけれど、どうやら三期アニメのときに 1 2 3 巻セットというのを出していて、いまはそれだけになっているらしいとわかった。カバーのイラストとかも変わっているらしいし、セットでしか販売してない。

 ということで買って読んだ。なるほど、サクサクと読める。ラノベだから、といってしまっては悪いだろうし、昔、新井素子が登場したときのそれに近いものを感じるのは、近年こうした口語体作品が増えたということにもよるのか。とはいえ、テンポのよさとかは感性の問題だから才能というものを認めてよいのではないか。

 おおむねアニメは原作をほぼ忠実にシナリオにしていたのだなという印象で、もちろん部分的に変更したり削除したりというところはあるようにも思う。見返していないので正確にはわからないけれど、記憶としてはそんな感じ。

 であれば、最後はあのどんよりどろどろした展開を読まされるのかと思うと、この作者はよほど SM 趣味があるに違いないといううがった見方をしたくもなる。

 まあ、そうでもしないと展開がとか、物語がとか、いろいろ理由はあるのだろうけれど、あそこまでねじまがった家庭やキャラクターにいちいちしていてうっとうしいったらありゃしない。というのが本音であって、本当に間違い続けていたのは、主人公らではなくその周辺だった(いや、作者だった?)という感じだったりも。

 とはいえ、「1 2 3」までではそこまでドロドロした展開とか設定とかまだ隠された状態なのでかわいいものであるので楽しめる。雪ノ下がまだツンツンしていてかわいい。由比ヶ浜はぼんやりしているけれど一生懸命でいじらしい。まあ、結局はつくりものの青春でしかないのだけれど、そういうつくりものにあこがれてしまうというのもまた青春というものなのかしらね。

 つまりは、もう少し続けてみようかなと思うくらいには楽しく読んだのだった。サクサクっと。

 

 

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。1~3スペシャルパック (ガガガ文庫 わ 3-29)

 

| | コメント (0)

「アンの青春 巻末訳注付」を読んだ

松本侑子さん訳のほうを読んだ。

かつて読んだ村岡花子訳のほうを逐一覚えているというほど読み込んではいないので、どこがどう違うのかというのはまったくわからないし、比べるという面倒もするつもりはない。

ただただ、実に久しぶりに読み返したという体で楽しく読み終えた。ひとつには、やはりさすがに時代の流れというのもあり昭和初期の村岡訳では現代にはちょっと無理がある雰囲気というのが、すっかりこなれた感じになっているからなのかもしれない。

すすっと読み進めてしまうことができたというのは、ある意味そういう効果なのかとは思っている。

無論、村岡訳が読みにくいということでもない。やや古いといえばそれは無理のないことで、といって読みにくい文体というほどでもないと個人的には思う。

それでも、さすがに時代が過ぎすぎた面は否めない。

この新訳ではじめて読める人は、それはそれで実に幸いだ。

巻末の訳注も豊富なので、今の時代の人にとっても補完するに十分か。そして、「アヴォンリーのアン」と原題ままにしたい気持ちを抑えて、あえてなじみの深い邦題を残してくれているというのもうれしい。原題の意味もよいけれど、その解説は残しつつも「アンの青春」としてくださったのはなじみやすい。そして、この邦題も実に的確でよいと思うから。

次の「アンの愛情」で、ある意味三部作の終わり。後続のはなしは正直ちょっと面白くない。次を読むのはもう少し先になるな。

 

アンの青春 (文春文庫)

 

 

| | コメント (0)

より以前の記事一覧