「青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない」

「青春ブタ野郎」シリーズ 2 作目。後輩女子、古賀朋絵が引き起こす思春期症候群のおはなし。

麻衣の事件も解決してようやく落ち着くかと思ったら同じ日の繰り返しがはじまる。微妙に違う毎日が繰り返される。ひとり繰り返しているらしい朋絵にたずねるも繰り返してないとはじめは嘘をつく。けれど結局は原因は朋絵にあると分かって解決策を探すが、それは嘘の恋人役を咲太に頼むということで。

人気のある上級生男子から告白されてしまったことで繰り返しをはじめた。クラスの女子グループのトップともいうべき女子が彼のことを好きなのに自分が告白されてしまうとかはまずいという気持ちから。

嘘の恋人作戦はそれなりに成功して、繰り返しは終わったかに見えたが、いよいよ夏休みにはいる(休み明けには別れたことにする設定)というところでふたたび繰り返しがはじまってしまうという事態に。

後輩、朋絵の複雑な女子グループの心の葛藤とか、痛いくらいささってくる展開。青春だね。

「だって、先輩のせいだし」

「理由を聞こうか」

「先輩があたしを大人にしたんじゃん」

「なんか、エロいな」

「先輩って、わかってるくせにいつもそういうこと言うよね。照れ隠し?」

終わりのほうのこういう会話、好き。

 

青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない (電撃文庫)

 

| | コメント (0)

「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」(小説)

2018/10 から放送のアニメを見てすっかり気に入ってしまい、のちに原作小説のほうを全巻そろえ、その後出た新刊もそろえて、まあ読んだのは 2020 年ころだったわけではあるが、今も続編を心待ちにしている作品のひとつではある。

で、このところ記録をずっとさぼっていたのを思い出したので少し過去のものも順次あげておこうかというところ。細かいところはもはや記憶の霞になろうとしているので、まとめて記録するかとも思ったけれど、諸般の事情によりひとつずつ。

アニメタイトルにもなった一作目は自身の姿が周囲の人間にしだいに認識されなくなっていることに気づいたヒロイン、桜島麻衣が、誰か自分を見ることができる人物を探そうと目立つバニーガール衣装であちこち歩きまわっていたことに起因する物語。

それに唯一気づいた咲太の秘密の一端を知ることになる麻衣と、その現象の意味を知る咲太との逃避行を経ての過激にも思える解決に、青少年ならばワクワクするだろうし、もうすっかりそんな昔のことは忘れた年寄りには、あまりにもむずがゆい感覚とうらやましさとほほえましさを混ぜ合わせ得たような複雑な思いを残していく。そんな物語。

舞台も世界も基本は今この時代、世界。けれど描かれるのはいかにも不条理な不思議な世界。そんな不釣り合いな対比を不自然に感じさせない文章と展開がなかなかうまい。

キャラクターの設定や、入念に練られたより大きな大きなプロット。その大きな渦の中に小さな渦を落とし込みつつ、着実に全体を語り進める技術。SF というべきなのか、ファンタジーというべきなのか、なかなかに難しいけれど、一流の物語というのは間違いないのではないか。もちろん好みというのはある。

TV シリーズと劇場版を使ったアニメーション展開も見事だったが、それはまた。

 

 

青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない (電撃文庫)

 

| | コメント (0)

「魔法科高校の劣等生 3,4 九校戦編 上下」(原作小説)

サクサクっと「優等生」の範囲内である九校戦編までを読んでしまっていたのだが、記録忘れ。分冊されているのにそれぞれ 450 ページあまりはあったかと思う。入学編の倍近い。が、そんな分厚さも読みやすさは格別なのであっさありと読めてしまう。ライトノベルっていいですね。

アニメ「劣等生」で数か所細かなところでカットされたり、あるいは少し状況を替えて描かれた部分はあった。大会開始前の懇親会で、深雪やエリカと言葉を交わす場面で、小説のほうでは間に渡辺先輩が一瞬やってくるのだが、そこはカットされている。まあ、ここは無理になくても困らないという点ではアニメ化の良い判断なのでは。

また、渡辺先輩の事故のあと心配して出張から一時戻ってきた兄を見つけて反発するエリカとの件も少し変わってはいる。エリカたちのやりとりを見つけるくだりが少し違い、さらにその後達也たちと愚痴る場面も少し変えてある。とはいえ、起きた事実については変わっておらず、アニメ化にあたって少し状況を作りやすくしたというところかもしれない。違和感はない。

七草会長のクラウドボールにつきあうところでも少しカットがある。アニメではストレッチを少し手伝ってもらって終わりだったが、小説では少し長めの会話があったりする。まあ、ここもなくてはならないということではないので、時間の関係でアニメ化でカットされたからといって物語がおかしくなるようなことはない。

全体としてはほぼ忠実にアニメ化されているという印象で、見事な映像化というところなのでは。文中の気になるところは相変わらず多数あるのだが、だんだん疲れてしまったのでもはや記録することはやめてしまった。

「優等生」アニメとの関連では、まだはじまったところというのもあるが、「優等生」のほうは深雪たちに焦点をおいた独自の展開のため、オリジナルのキャラクターまで登場してしまい、そもそも劣等生のそれと事件そのものが異なってしまっているという状況は如何ともしがたい。最終的な結果だけは変えようがないというか、変えてしまっては意味がないのだが、おそらくアニメ「優等生」はそういうことを一切考慮する意思がないようなのでめちゃくちゃに変えてくる可能性もある。

さて、どうなりますやら。

魔法科高校の劣等生(3) 九校戦編〈上〉 (電撃文庫)

魔法科高校の劣等生(4) 九校戦編<下> (電撃文庫)

 

| | コメント (0)

「魔法科高校の劣等生 1 入学編(上下)」(原作小説)

「優等生」の原作漫画のほうも確認したいとは思うのだが、諸般の事情によってひとまずはおおもとの原作小説のほうを読むことに。さすがにライトノベルというだけあってあっという間に上下巻およそ 600 ページ弱の「入学編」をのべ二日で読み終えた。

確かに文章はこなれているので読みやすく書かれているというのはある。それなりに書きなれているのときちんと推敲もされているのだろうなという印象はもった。ただ、読み進めるにつれてもともとがウェブで公開されたということもあってか、少々小説としては疑問に思う書かれ方が多用されるのは気になった。

達也がエリカに真面目くさった、ではなく、真面目な声で問うと、エリカも動揺していたのが嘘のような、深刻ではないがふざけてもいない、落ち着いた口調で答えた。

 

振り返った視線の先には、ゴツゴツした、という表現が一番しっくり来る、上背はさほどでもないが肉付きのよい(もちろん贅肉ではなく筋肉だ)、ガッチリした体格の、司と同じ三年生が立っていた。

小説としてはこうした書き方はいささかよろしくないと感じてしまう。脚本でもなく戯曲でもなくエッセイでもないのだ、こうした書き方はやはり違うのではないか。

また、多人数での会話では、誰のものかわからないままに進む場合もあって、これもよくない。セリフ回しの違いが顕著であればわかる部分もあるにはあるが、そのあたりが判然としないところも少なくない。やたらと括弧書きがはいってしまうのも小説としては少し違うのでは。

まあ、そうしたところがライトノベル的であるといえばそうかもしれない。これは当初ウェブで公開していたものなので、その後は少し変化があるかもしれず、そのあたりはもう少し読み進めてみないと判断できないかもしれない。

内容としてはほぼ「劣等生」アニメで描かれたものが原作を踏襲しているという感じ。多少端折った部分もあるにはあるが、入学編に関してはほぼすべてを描いたといってもいいのではないかという印象。もちろん、多少削除したぶんもあるのだが、むしろリズムとしてはそれでよかったのではないか。

また、気になっていたブランシュ日本支部への殴り込み場面についても「劣等生」アニメは原作に準拠という感じだ。「優等生」でセリフの話者が入れ替わるようなことは原作者としても普通は認めないと思うのだが、こればかりは漫画を読んでみないことにはわからない。ということで最終的な確認はもう少し先に。

とはいえ、ライトノベルとして物語は十二分に面白いし、ここまで精緻で細かな設定をされて世界観を作られてはもうもろ手を挙げるしかない。そして、アニメでもそうだが、そうした世界観を「説明しよう」にまかせるようなことをせずに、不明なものは不明なままに次第にきちんとわかるように塩梅するそのうまさは確かに見事だというしかない。

ということで続々読む予定。

魔法科高校の劣等生(1) 入学編<上> (電撃文庫)

| | コメント (0)

「大放浪」(田中光二)

パンデミック系の小説とかが流れてきて昨年から思い出していたのだけれど、文庫を発掘してきて再読。やや説明が長ったらしいところもあるので飛ばし読み気味ではあったけれど二日弱で読了。

しっかりと覚えていなかったのもあるけれど、こんな話だったかと。

世界中がおそらくはウィルスと思われる感染症でほぼ壊滅状態になったところで、とある実業家に選ばれていた者たちが巨大な飛行船に集結してまさにノアの箱舟となる物語。

感染症の詳細については最終的にはあかされるものの、あまり詳しくはでてこない。インフルエンザウィルスとボツリヌス菌とのハイブリッドという感じのウィルスによるものという設定。

飛行船で世界を回りつつ、選ばれし者たちを回収していくという展開なのだが、次第にそこに隠された謎があらわれてきて結末を迎えるということ。ありていにいえば、その実業家こそがウィルスを作成し、ばらまいた張本人で、選んだ優秀な者たちにあらかじめワクチンを飲ませておいた。それによって彼らは飛行船までたどりつくことができた。

けれども、その動きを察知したとあるグループによって破壊工作がなされる。最終的に飛行船に乗り込んでワクチンの情報を得ようと画策する。というような話。

小松左京の「復活の日」ほどの設定の深さというか、物語の深さというかはない。冒険物語だから。とはいえ、実はもう少しそういう話だったろうかという思いはあったのだが。

ま、絶版なのでネタバレでも。

| | コメント (0)

「うつくしい繭」

二年あまり前に購入はしていたのだけれど、ようやく読んだら、意外とあっさりと短時間に読めた。文字サイズとかページ数とかもろもろみるとテキスト量としてはそう多くはなかった様子。刊行時にやたらと評判だったので気になっていたけれど、確かによい文章だったし、アイデアもなかなかに面白かった。

舞台も著者自身の経験も踏まえた東南アジア方面だったりもして、そのあたりの地の利といったものも影響して得も言われぬ雰囲気をかもしだすのに十二分に役立っていた。

SF というかちょっと不思議というファンタジー系の匂いが強いようにも思うし、現代 SF といった趣でもあって、日常のなかに SF を描き出すという感じ。

もともとなのかはたまた講座のおかげか文章はなかなかに洗練されていてするすると読み進めることができる。こういうのはなかなか難しい。摩訶不思議な奇妙奇天烈なアイデアの数々も、いかにもアジアっぽい精神性を感じる。

「里山奇譚」の中編版といった趣と思えば、さほど間違いもないか。

ただ、それだけに後味がさっぱりすぎて印象に薄いというのもある。読後にずしんと残るということはあまりない。いや、残らなくてはいけないといいうことではないので、それはそれでよい。面白かったのは事実だ。ただ、素直にいえばそれだけだったのだ。

とはいえ、不思議な物語を求めている人にとっては、まずまずのおすすめの一冊といえなくはない。

うつくしい繭

| | コメント (0)

J・G・バラード短編全集 3


 


 


 本が好き! 経由で献本していただきました。ありがとうございます。


 


 バラードに出会ったのは高校生のとき友人から渡された「時の声」だった。バラードのいうインナースペースを十分理解したとはいえないものの、描かれるひとつひとつの物語に鮮烈なインパクトを受けたことは今も強烈に覚えている。なにしろ時の声だ。


 


 とはいえ当時も今もバラードという名前を知る人はあまり多くないのではないか。スピルバーグ監督作品の「太陽の帝国」の原作者としてすら知られていないかもしれない。しかしながら、バラードが描き出すさまざまな世界・物語の不思議さや魅力が知られないままというのは実に惜しい。そこへもってきてのこの短編全集。まとまった形でその作品群に触れらることの価値ははかりしれない。


 


 この 3 集には本邦初訳となる「光り輝く男」が収録されていて、それがまさか長編「結晶世界」の元となる作品であったとは。ただ、「世界」シリーズとなる長編群もそうだが、どちらかというとバラードは短編こそ似合うという印象がある。長々とつづるよりもコンパクトに描き出す世界観の印象が実に見事だ。


 


 のちにヴァーミリオンサンズシリーズとしてまとめられる仲間としては「スクリーンゲーム」しかないのはいささか残念にも思うが、発表順にまとめている関係上こればかりは仕方ない。が、「エンドゲーム」の駆け引きであったり、「マイナス 1 」の不条理であったり、「うつろいの時」の発想の転換の妙であったりと多彩な短編が収められていて実に楽しい。


 


 「消えたダ・ヴィンチ」などは解説にもあったが、フィクションと現実が混同されて、さながらハリウッド映画にされそうな(「ダ・ヴィンチ コード」とかの)趣さえ感じる展開と作風が楽しめる。


 


 かつての創元推理文庫のいちタイトルともなっている「溺れた巨人」などは、ごくごく短い作品だが、そのシュールな世界(ある日浜辺に巨人の死体が漂着していた)の顛末は実に現実的でもありうそ寒さを感じたりするのだった。


 


 また、表題作の「終着の浜辺」は「太陽の帝国」とも関連するような物語。ただ、いささかわかりにくいというのが正直なところで、これは夢か現か。なにが現実でなにが幻想なのか。解説などとあわせて少しずつ読み解きたい一作。


 


 バラードの短編といえば、どうしてもヴァーミリオンサンズの不可思議な世界ばかりが注目されがちではあるけれど、それはバラードの魅力のごく一部でしかないのだとあらためて実感させてくれた。


 


 とはいえヴァーミリオンサンズものも捨てがたく、さながらイーグルスの「ホテルカリフォルニア」を連想させるかのような世界観は映像になったらどうだろうと今も思う。現役かどうかは未確認であるけれど、かつて「ヴァーミリオンサンズ」だけをまとめたものもでているので、そちらでまとめ読みというのも有意義だ。あわせてそろえて読みたいというところ。


 


 既刊の 1、2 も入手せねばと思わせてくれる一冊に完敗するしかない。


 


 最後に本冊の解説を書かれていた山野浩一さんがこのごろお亡くなりになったとか。あらためて読み直してかみしめてご冥福をお祈りしたい。


 









4488010601 J・G・バラード短編全集3 (終着の浜辺)
J・G・バラード 柳下 毅一郎
東京創元社 2017-05-29

by G-Tools

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「イシャーの武器店」

 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 訳者あとがきを読んである程度納得したところはあるのだが、正直今一つ消化不良な感じの読後感。突如出現した謎の武器店。誰でもはいれるということではないふしぎな店で、なぜかそこに入れてしまったマカリスターという新聞記者。ただ、扉を開けて店にはいっただけだったはずなのに、彼は 7000 年の時空を超えてしまっていたらしい。が、彼の物語はそう長く語られることはなく終わり、たしかに合間に少し登場したりはしたのだが、正直すっきりとした決着がついたとはお世辞にもいえないような気がする。

 続く物語は武器店に乗りこんで問題とされてしまったとある店主の息子が家をでるはなし。なぜか武器店の若い女性がそこにからんできてまれなる才能が披瀝されるのだが、それがゆえに陥穽にはまりこれでもかというくらいの苦難の道を歩み始める。全体のおよそ 3/4 は彼の物語ではなかったろうか。

 その中にはこの世界をつくっているイシャー帝国の構造と、いつの時代にもあるのであろう老害問題が登場したりもするが、正直いまひとつ実感にはとぼしいようにも。そして、帝国や社会はたまた世界構造への対抗手段的な集団が武器店という発想のふしぎさと面白さ。さながらそれは自由社会アメリカの誕生とも結びつくのだろうかというところは感じる。

 罠にかかりせっかく儲けた大金もすべて巻き上げられ、あげく永遠とも思われる過酷な労働へと追いやられようとしていた男がいかにして復活を成し遂げるのかというあたりは面白味もあるのだけれど、今一つしっくりこないところもある。

 そうした違和感の原因のひとつは、文章にもありそうだ。人物の行動などはその経過があらすじ的であろうと順を追ってどこへいきなにをしてどうなったと書かれるものではあるのだが、どうも中途を端折ってしまっている箇所がなんどもあって、どうにも読んでいてつながりが悪いのだった。

 とあるところで会話していたら次の段落では意味の通じない文言が並び、少し読んでからようやくどうやら別の場所でのできごとらしいとわかる始末。移動している描写といったものがないところがなんどかあるのだった。こうなるとどうにもすんなりと物語にはいりこめない。ヴォークトの他の作品でもこうした経験はまずないと思っているのだが、いったいどうしたわけなのか。

 最終的に、彼がなぜ復活を遂げたのかについては一応の説明はあるし納得ができないではないものの、やはりどうにもしっくりしないし、説明不足的なところは否めない。まして冒頭のマカリスターにいたっては結局なんの解決もされていないのではないかというままに終わってしまった。

 では、これは「武器製造者」に続くのだろうと思ったらそうではないという。書かれたのもこちらのほうが後であったとか。名作とうたわれてはいるものの、どうも一読しただけではやや意味不明な感じであるのは素直な感想なのではなかろうかと。特殊な世界観のせいもあるのかもしれないが。

 あるいは武器店の幻影に惑わされてしまっているだけなのか。

 ということで一読しただけでは評価の難しい作品であるというのが現状の評価なのだった。要再読。

 そうそう「新版」であって「新訳」ではないことには注意しなくてはならない。

4488609155イシャーの武器店【新版】 (創元SF文庫)
A・E・ヴァン・ヴォークト 沼沢 洽治
東京創元社 2016-12-21

by G-Tools

| | コメント (0) | トラックバック (0)

「時間衝突」

 本が好き! 経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 なんとも SF 的な響きにひかれるままに手に取ったものの、その内容的な意味を深く考えることもなく読み始める。序文でブルース・スターリングが書いている。

ベイリーの小説は、超高速エレベーターのようなものだ。ドアが開き、きみがエレベーターに乗りこんだとたん、加速が襲いかかってくる。階数表示に目をやると、フロアが飛ぶようにすぎてゆくのがわかる。そして、そのスピードはどんどん速くなってくる。それから――ここがだいじなポイントだ――一瞬の遅滞もなく、きみは建物の屋根を突き破り、空に飛びだしてしまう!

 「超高速エレベーター」? などと思っているうちに気がつけばそこは未来の地球。異星人の遺跡を調査していたところ不可解な状況が発生する。過去に撮影された同じ遺跡の写真を見ると、明らかに過去のほうが遺跡が古びている。つまり現代のほうが新しい。

 時がたてばたつほど新しくなる。そんな不思議なことがはたしてありえるだろうか。あるいは、それは植物が芽を出しやがて大きく育っていくように、朽ちた状態から次第に完全な形に育っていくようなものなのかと考察もされる。

 さらには、あろうことか異星人の遺物らしき機械をかれこれ 5 年も調べていて、それがどうやらタイムマシンであると判明しており、主人公であるヘシュケはタイムマシンに乗って実際に過去の遺跡を調査することに巻き込まれていく。

 到着した過去における遺跡は明らかに現在より古びているのだが、ヘシュケが現代において調査した証をもまた確認した調査チームは、実は過去ではなく未来に来てしまっているという結論を持って帰途につく。しかし、途中異星人のタイムマシンと遭遇することになってしまい、急きょはるかな未来に逃走。そして、ようやくことの実際を知ることになる。

 地球を舞台に相反する時間の流れが存在していると。

 異星人の時間はヘシュケたちの時間とはまったく逆行しているが、どうやらその時間軸はそれぞれ交錯するように流れている。おそらくは 200 年ほどでそれらは衝突することになる! そのときいったい何が起きるのか。とんでもない話になってきたと思うが、冷静に考えればタイトルがすべてを物語ってはいたのだ。

 どうなるのだと思っていると、舞台は突如どこかにある中国人系らしい種族が暮らすコロニーのようなところに移る。生産と娯楽、それぞれを享受するふたつの世界にわけられていて、相互の行き来は基本ないが、生まれてくる子供は必ず他方の世界で祖父母らによって育てられることになっているという不思議な世界。が、それを可能にしているのが、かれらが持つ時間を思うように操つる技術。

 さあさあ、どうなるのだ。なにがそれらを関連づけるのだと思わせつつ、もうさきの超高速エレベーターに読者はすっかり乗せられてなすがままなのだ。

 問題ははっきりしている。この逆行するふたつの時間の衝突をどう防ぐべきなのか、なにができるのか。地球と異星人とはお互いに相手をせん滅すればなんとかなると戦闘状態にはいるが、そんなことで事態が改善するはずもない。といって、地球を捨てる考えなどどちらもさらさらない。

 交錯する時間軸に生きる地球人と異星人を擁する地球、そして中国のコロニー・レトルトシティ、この三者三つ巴でくるくると目まぐるしく舞台と時間とを移しつつ展開する終盤。とにかくもうひたすらに終点すらもわからずにぐんぐんと超高速エレベーターは上り続けるのだ。そして、たしかに気が付けば突き抜けてどこぞかに飛びだしてしまったらしい。珍しく一気に読み終えてしまった。

 途中繰り広げられる時間論は必ずしも科学的とはいえないかもしれないが、妙に納得感のあるものでもあり、また難解でもある。役者 訳者の付記でミステリ作家殊能将之(しゅのうまさゆき)氏のこんな文章が紹介されている。

バリントン・J・ベイリーは SF のある本質を体現した作家のひとりだった。

文章は下手、キャラは平板、プロットは破綻し、奇想は思いつき程度で整合性がなく、大風呂敷を広げてもたたむことができない。
そんな小説がおもしろいはずがないのだが、読むと無類におもしろいのだ。なぜかというと「SF だから」としか理由づけのしようがない。

 まさにその通り。結末については不満があるが、そこまでの道のりを十二分に楽しませてくれたのだから、それでよしとするかとすがすがしくページを閉じる。そんな作品。面白いは正義なのだ。


アスカーはいそいでうなずき、

「わかりました。それは認めます。その事実が、わたしの理論の誤りを示していることも認めます。それで、真実はどうなんです?」
「真実は、宇宙は全体として、時間を持っておらんということじゃ。宇宙のあらゆる場所が同時に<いま>なのではない。宇宙は基本的かつ根本的に静的で、生命のない、無関心なものだ。過去も、未来も、<いま>もない」(P.189-190)

正誤をひとつ。

それがちょっとした魅力になるくらいにつむじ間借りな性格だ。(P.32)

s/つむじ間借り/つむじ曲がり/

#できれば「後ずさり」ではなく「後じさり」として欲しかったとは。

4488697062時間衝突【新版】 (創元SF文庫)
バリントン・J・ベイリー 大森 望
東京創元社 2016-09-26

by G-Tools

| | コメント (2) | トラックバック (0)

旧「火星の人」がいい

 件の「火星の人」。よくよく見ると「購入できません」と表示されている。2014 年発行なのだが、と思っていろいろ見ていると、どうやら映画化されたのを受けて同じ文庫を新版として上下二分冊して出しなおしたらしい。映画のスチールを表紙にもってきて。

 なんということだ。

 わずかに一年の命で分冊され、そのために値段もあがってしまい、映画化をうけて表紙のデザインが・・・。一冊物のはじめのほうがよかったのに。

 電子書籍版であれば、その形態で入手は可能なようだが(なぜ?)印刷されたものが欲しいのだった。テキストものの電子書籍も多少は読むことがあるものの、やはり長いものは紙に印刷されたもののほうが扱いが楽だし好きだ。電源要らずというのも。

 が、二分冊されたものをというのもなんだかうっとうしい。ということで残念だけれど古書店でも回ろうかなというところ。

4150120439火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー 小野田和子
早川書房 2015-12-08

by G-Tools
4150120447火星の人〔新版〕(下) (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー
早川書房 2015-12-08

by G-Tools


B00O1VJZLO火星の人
アンディ ウィアー 小野田和子
早川書房 2014-08-25

by G-Tools

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧