「湖の男」(インドリダソン)読んだ
ようやく邦訳四冊目の「湖の男」。本文が 480 ページあまりあるというのに、あれよあれよと読み終えてしまった。主に寝る前読書なのでそれなりに日数はかかったのだが、それでもすいすいと進んだし、最後の 100 ページあまりは結末が気になって時間延長して読んでしまったくらい。
大戦後の東ドイツでの留学生たちの日常と、原因は不明だが水がひいてしまって湖底が露呈した湖に見つかった白骨を追う物語が交互に語られる。白骨はロシア製の暗号機にくくりつけられていた。不可解な事件はいつもエーレンデュルの手に回ってくる。
当時の失踪者をあたっていくが、なかなか決め手にかける。が、不可解な失踪状況の男が浮かび上がってくるが、当時の捜査担当者が事なかれ主義であったのもあり、疑問はいくつも浮かぶというのにおざなりにされてしまった形跡。
なぞのセールスマン。訪ねるはずだった農家に行っていない。なぜか車のホイールがひとつだけ無くなっている。結婚を約束していた女性は、その男のことを実はまったくといっていいほど知らなかった。謎の男。
一方で関係国大使館からは、当時のスパイ状況が少しずつあきらかになって、忽然と姿を消した男が浮かび上がる。はたして白骨はそのスパイなのか?
大戦後の東ドイツで学生たちに相互監視を行わせ、体制に抗する分子の排除に躍起となる秘密警察。そのさなかに生まれる愛と分かれと。
大方の読者が次第に実相を想像しつつ読み進めるも、さらなる展開に思わずうならされる。ああ、しかし、それはどうなったのだ? あれはどうなったのだ? と思わないではない。
じめっとした寒いこれからの季節に合うアイスランドの哀しい物語。
前作「声」は、やや倒錯した感じの内容で抵抗を覚える読者もいそうだけれど、本作はとにかくその見事なストーリーテリングに一気に引き込まれてどっと疲れること必至。エーレンデュル、これからどうなってしまうの?
すでに次作も文庫になっているのでまた買わなくては。
そうそう、不安材料としては訳者の柳沢由美子さんが 80 歳を超えていらっしゃる。同じテイストで引き継いでくださる方があるとよいのだが。いや、もちろん柳沢由美子さんにもまだまだがんばっていただきたい、むりのない範囲で。
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