恋は雨上がりのように 全10巻 を読んだ
アニメにすっかりやられてしまい、原作も買ってしまった。というのも原作の結末に不満を訴える声というのがあるやに見かけたので。
読んでみると原作完結前であったのもあり、基本的に原作に忠実にアニメ化されていたものの、最後は同じというわけにはいかずアニメとしての終わり方ではあった。とはいえ、あきらと店長との関係性とか、結末の理由といったところは基本原作を踏襲している。
原作の 7 巻にアニメ化を知らせるイラストが載っていた。2017 年 3 月のこと。アニメ化そのものについてはきっともう少し前から決まっていて制作がはじまっていたのかもしれない。
原作の完結はアニメ放送終了直後くらいで最終の 10 巻もその年に刊行されている。
噂ではアニメのあとに公開された実写映画も結末としては似たような展開になっていたらしい。おそらく結末はすでに決めてはあって、そのシチュエーションについては未定だったのもあろうけれど、形だけは変えずに映像化を依頼していたのではなかろうかと。
歳の差恋愛物語の結末としても一番のハッピーエンドは、お互いに好きなことを確認してきちんと付き合うというところかもしれない。さすがに結婚するとかまではやや無理がある。ファミレスの仲間も公認で付き合うといったところがまあありそうなところだったかもしれない。
ただ、この物語がそもそもそういう体をとっていたのは別の理由があったからで、それがそれぞれの抱えたまま心の奥にしまっていた大切ななにかをもう一度引き出してきてそれに向かうという恋愛とは違う人間の物語だったからか。
だからこそ、店長は年齢や境遇を言い訳にしてずっとどっちつかずにしつつも、完全に捨てきれずに放置していた執筆環境(部屋)の意味にもう一度向き合おうとするし、あきらも本当はまた走りたいが、どこまで走れるようになるかわからない不安と、そうなっときに自分が受ける衝撃といったものから逃げたいといった気持ちをごまかすためにバイトしていたといったことと向き合うことになる。
そして、店長はある意味おとなとしてあきらに押し殺している自らの本当の気持ちに正直であるべきなのではないかと背中を押す役目を引き受ける。あきらもまたその気持ちに応える。
だからといって、ではあきらの抱いた店長への恋心というのは偽りのものだったのか、といえば、それもまた違うのではないかとは。
原作では、正月のわずかな店休を利用して原稿に専念する店長を、折しも大雪となったなかをあきらが完成した手編みのマフラーをもって店長のアパートを訪ねる。初詣をして帰らそうとするが大雪で列車が動かない。車で送ろうというが、あきらはそれを嫌がる。ここで部屋に戻ってはあきらを帰せなくなると感じる店長。一方、あきらはかたくなに帰ろうとしないのだが、もう君にしてあげられることはなにもないと静かに告げる。
そうこうして夜になってようやくあきらを自宅まで送った別れ際、わたせずにいたあきらへのプレゼントをわたし、あきらは「また店で」というが、店長が返したであろうことばは文字にはなっていない。雨の音にかき消された。走り出す車を呆然と見送るあきらという図は、「もうバイトには来なくていいよ」的なことをいわれたのだろうか、と想像させる。
実際、その後自宅に戻ったあきらは遅い帰りを心配した母親に、「雨宿りしていただけだから、大丈夫」だと答える。
それは、単にその日の大雪がやがて雨に変わった事実から、遅くなったのは雨のおさまるのを待っていただけだから、というようにもとれるが、暗にそれは、怪我から部活を止めて(避けて)バイトをしていて部活に戻ろうという行為を避けていたこともまた雨宿りだったのだというようにも。
バイトはあきらのゆれる心を一時的に雨宿りさせていた場所だったのかもしれない。
その後、原作はその年の 6 月に飛ぶ。あきらが陸上の県大会に出場し、みずきとの対決を制して見事な復活を果たす。さらに 8 月。店長は相変わらずだが、友人の作家ちひろは芥川賞を取る。あきらは真夏のグラウンドで日傘をさしている。あの日、店長にもらった日傘を。そして、終わる。
アニメでは 11 月ころに店長が本社へ行くというところでお互いにしまい込んでいることに向かうべきではないかといったことばにお互いに納得し、さらりと終わる。
原作にしてもアニメにしてもこの作品の真のテーマからしたら文句のない終わりではないかな、とは。
ことに原作でいえば、正月以来あきらはもうバイトに行っていないかもしれないが、リハビリを頑張って春には立派に陸上復帰を果たす。店長の小説のほうはまだまだかもしれないが、おそらくどこかの賞を狙って執筆はしているはずだ。
店長はきっとあきらのことを好きな気持ちに偽りはないであろうし、日傘をさすあきらも、離れていても店長を思う気持ちに偽りはないのではないかなと。あるいは、たまに客として店にはいっているかもしれない。いや、きちんと目標を果たせるまでは行くことはむしろないか。そこはお互いに自制しそうだ。
あきら達がやめてしまったあと(ユイも吉澤もやめている)もバイトの補充がないのは、なり手がいないのももちろんあろうけれど、ことによれば、いつあきらがまた傷心で帰ってきてもよいようにという気持ちもあるのかもしれない。
そんなことを思うと、できたら大学へ進学した、あるいは進学後に就職というあきらと店長との物語があったらなあと。三年もしくは五年後くらい。そうなれば、今度こそ純粋な恋愛物語のはじまりということでよいのではないかな。そんな物語も、できれば読みたい。そう、思わせてくれる暖かな物語だった。
あきらの人生の雨に傘をさしてくれた人。店長の人生の雨に傘をさしてくれた人。ふたりの傘が真に相合傘になる日の物語。読みたいなあ。
「恋は雨上がりのように 眉月じゅんイラスト集&アニメメイキングブック」
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