「憐れみをなす者」修道女フィデルマシリーズ長編(ピーター・トレメイン)
2021 年 2 月に刊行されていたのだけれど、ずるずると遅くなってようやく年末になって購入。久々のシリーズ長編。翻訳者の方が田村美佐子さんに変わっていて、ご年齢からすると引継ぎされたのかなくらいに思っていたのだけれど、あとがきを読むとすでに亡くなられてしまったらしいとわかった。
文章からするとおそらく前作のころから引継ぎを依頼されていてしばらくは助言などされていたのではないかという感じ。その途中で亡くなられたりもあって翻訳の進みがやや遅れたのかもしれない。
ただ、読んでみるといっさい翻訳者の変更を感じさせない雰囲気を出していて、田村さんとしてご苦労も多かったのではないかと思うと同時に、この先も同じようなテイストで楽しませてもらえるのかと思うと安心とうれしさと。
今作はほぼ巡礼団の船の中でだけ推移する物語で、特殊な密室ともいえてなかなか興味深い。船内での殺人、若き日のフィデルマの陥った恋の痛手などが絡んできてなかなかに読ませる。そして、手ごわい。フィデルマとて心穏やかではなく、調べは思うように進まない。かてて加えて海賊船の襲撃まで起こるにいたっては海洋冒険小説の様相まで呈してくる。なによりこの操船描写があまりにも丁寧で、そうとう当時の操船や海上交通事情といったものを調べているのだなと思わせる。
この中に確かに犯人はいる。ただ、それがなかなか解けない。さらには、フィデルマ自身も二度命を狙われる。あれもこれもとてんこ盛りというくらいのサスペンス要素で、昨今については知らないものの、テレビドラマの二時間サスペンスなど敵ではないというくらいの展開のすえにたどりつく結末も、崖っぷちでただ追い詰めるなどという代物では決してない。すべてのピースが合わさっていく快感は、やはり読まなくてはわからない。
しかも、結末の不穏さを残しておきながら、次なる翻訳は短編集ということでいじいじしてしまう。続きが気になってしまって夜しか眠れないではないですか!
田村美佐子さん、無理せず翻訳よろしくおねがいします。そして、故甲斐萬里江さん、どうぞ安らかに。すばらしい作品を紹介くださり、ありがとうございました。
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