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「マヨラナ 消えた天才物理学者を追う」

 

 

松崎有理さんがつぶやいていたのを見て購入。バーゲンブックということで当初の半額で買えたのでそれもまたありがたい。

1900 年代はじめに天才的な発想を見せたものの、生来の発表嫌いということもあって、ほとんどその功績が表に残らないままに失踪という最後を迎えた物理学者、エットーレ・マヨラナの姿を資料やインタビューなどを通じてまとめたもの。著者自身も科学者であり、エットーレの名前を冠する研究センターに所属したことでその存在を知り、以来ひきつけられて調べをすすめたと。

エンリコ・フェルミをはじめとするイタリアの科学者たちを集めたパニスペルナ通りの研究所。のちに誘われてその一員となったエットーレは、本来ひとりで考えるほうが好きだったようで、所属はしてもやや異彩を放っていたらしい。そして、早くからニュートリノの存在を見つけてその特徴についてまで考えていたらしい。

しかし、フェルミはそれを否定していた。のちに(エットーレ失踪後)逆にニュートリノの第一人者的な存在になっていくらしいのだが、そうした紆余曲折についても著者の視点で描かれていて面白い。

すぐに発表していたらいくつもノーベル賞が与えられたのではないかというくらいのエットーレだが、大学での教職をえて赴任してほどなく失踪。やめますという手紙を出したかと思えば、やはりやめるのはやめますと送りなおしていたりするものの、結局行方はわからないまま。自殺したのか、事故なのか、はたまた海外のあちこちで目撃したという情報まででてくるにいたってなにやらスパイ小説のような面白さまでしてくる。

時、あたかも大戦争時代を迎えようともしていたころで、フェルミなどもノーベル賞授賞式参加を口実にイタリアを出国し、そのまま帰ることはなかったのだという。そうした時代背景に翻弄されていく物理学者たちの姿もまた興味深く読める。

ロシアのペレルマン博士。ポアンカレ予想を解決した彼は、あまりに数学や物理に没頭したがゆえか、精神に異常をきたしたらしく姿を消してしまったまま。ようやく所在をつかんで恩師がたずねてみても、もはや人には会いたくないということだった。

エットーレもまたそうなのかはわからないが、実に謎多く、さまざまな憶測がうずまいているらしい。著者としては、そこはわからないままにおさえてある。確かにそれが正しいのだろう。

ニュートリノにはエットーレの名前が残っているという。マヨラナニュートリノとディラックニュートリノ。正しいのはどちらのモデルなのか、いまだ判然とはしないらしい。ニュートリノの存在、その特質は、おそらくエットーレがいなければもっともっと発見までに時間がかかったのかもしれない。そのくらいに偉大な人物というのに、自分もふくめてその名前すら知らずにこれまでいた。いや、知ったところでどうということでもないのも事実ではあるが、そんな様々な物語がその裏にあったとはなあと、世界の不思議を思うくらいには強烈な物語だった。

唯一不満に思うのは、ジルダが持っていた箱の行方について明確にされないままであること。エットーレ失踪の前日、最後の彼にあったのが当時の生徒のひとりジルダだった。女性は苦手だったはずの彼が、なぜか講義が休みでもあるのに学校にジルダをたずね、手ずから箱を預けたという。中身についてはいっさいわからない。

後年、ジルダはその箱のことを夫に話すと、エットーレの所有物の保管者となっている当時ナポリ大学物理学研究所長だったカレッリに渡すという話をしたというあたりまで本書に書かれているのだが、どうなったのかが書かれていない。ジルダの手を離れたようには読めるのだが、誰の手に渡ったのかは不明なままだ。実際そのあたりはどうだったのか? ジルダ本人にインタビューはしているのでそのあたりわかっているのだろうとは思うのだが。その箱の中身がわかれば、きっと大きな発見になるのではなかろうか、とも思うが、どうやらもうそれも望めないらしい。

パニスペルナ通りの研究所を描いた映画があるらしいのだが、どうも日本ではまったく上映されたりした様子はないようだ。あくまでもフィクションではあるが、できれば見てみたいものだ。

エットーレ・マヨラナ。もしも、生きていたらどれほどの功績を残したのだろうな。

マヨラナ 消えた天才物理学者を追う

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