「声」(アーナルデュル・インドリダソン)
「緑衣の女」につづく邦訳三作目。460 ページあまりともっとも長い。
ホテルの地階に暮らす男性が下半身を露出した状態のふしだらな恰好で殺されているのが見つかるのが、クリスマスまであとわずかという時。ホテルの支配人は客には事件のことを知らせるな、営業妨害するなという姿勢で捜査にはあまり協力的ではない。そもそも、そういうことは可能なのだろうかとは思うが、日本でどうなのかも含めよくはわからない。国が違えばまた事情は違うのかもしれない。ともかくもそういう状況下で捜査は進む。
やがて、彼の子供時代のことが明らかになるにつれて、事件は児童ポルノとか、児童虐待とかいう方面に向かうかに見える。なかなか進展しない捜査のなかで少しずつ彼と彼をとりまく特殊な世界(コレクターなどなど)があきらかにはされていくが、読者としてもなかなか真相をしぼりきれない。
子供時代に歌唱のスターとあがめられたものの、少年期にいずれはおとずれる変声期によってあえなく夢は消える。父親の悲嘆、姉のろうばい、母の死。以降没交渉であったという彼ら親子になにがあったのかということもまた事件の真相にかかわりそうなのだが、これもまたなかなかに見えてこない。
そんなふうにして、最後の最後までいってから残り 20 ページでいきなり解決してしまう。一応それに理屈は通るので理解はできるし、納得もできる。とはいえ、いささか唐突でもあり、ここへきてそれか、という思いもあって、なんともやるせない。
正直、前作まではここまでということはなかったし、ある意味「そうきたか」という驚きをもって終焉を迎えたともいえるのだが、今作のそれは、あまりにもズルい。うーん。
物語のテーマもわかるし、納得はできるのだけれど、作品としては、どうにもいまひとつしっくりしないものを感じたままになってしまう。長すぎたのだ、というのが一番わかりやすい理由かもしれない。次作以降に期待。
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