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J・G・バラード短編全集 3

 本が好き! 経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 バラードに出会ったのは高校生のとき友人から渡された「時の声」だった。バラードのいうインナースペースを十分理解したとはいえないものの、描かれるひとつひとつの物語に鮮烈なインパクトを受けたことは今も強烈に覚えている。なにしろ時の声だ。

 とはいえ当時も今もバラードという名前を知る人はあまり多くないのではないか。スピルバーグ監督作品の「太陽の帝国」の原作者としてすら知られていないかもしれない。しかしながら、バラードが描き出すさまざまな世界・物語の不思議さや魅力が知られないままというのは実に惜しい。そこへもってきてのこの短編全集。まとまった形でその作品群に触れらることの価値ははかりしれない。

 この 3 集には本邦初訳となる「光り輝く男」が収録されていて、それがまさか長編「結晶世界」の元となる作品であったとは。ただ、「世界」シリーズとなる長編群もそうだが、どちらかというとバラードは短編こそ似合うという印象がある。長々とつづるよりもコンパクトに描き出す世界観の印象が実に見事だ。

 のちにヴァーミリオンサンズシリーズとしてまとめられる仲間としては「スクリーンゲーム」しかないのはいささか残念にも思うが、発表順にまとめている関係上こればかりは仕方ない。が、「エンドゲーム」の駆け引きであったり、「マイナス 1 」の不条理であったり、「うつろいの時」の発想の転換の妙であったりと多彩な短編が収められていて実に楽しい。

 「消えたダ・ヴィンチ」などは解説にもあったが、フィクションと現実が混同されて、さながらハリウッド映画にされそうな(「ダ・ヴィンチ コード」とかの)趣さえ感じる展開と作風が楽しめる。

 かつての創元推理文庫のいちタイトルともなっている「溺れた巨人」などは、ごくごく短い作品だが、そのシュールな世界(ある日浜辺に巨人の死体が漂着していた)の顛末は実に現実的でもありうそ寒さを感じたりするのだった。

 また、表題作の「終着の浜辺」は「太陽の帝国」とも関連するような物語。ただ、いささかわかりにくいというのが正直なところで、これは夢か現か。なにが現実でなにが幻想なのか。解説などとあわせて少しずつ読み解きたい一作。

 バラードの短編といえば、どうしてもヴァーミリオンサンズの不可思議な世界ばかりが注目されがちではあるけれど、それはバラードの魅力のごく一部でしかないのだとあらためて実感させてくれた。

 とはいえヴァーミリオンサンズものも捨てがたく、さながらイーグルスの「ホテルカリフォルニア」を連想させるかのような世界観は映像になったらどうだろうと今も思う。現役かどうかは未確認であるけれど、かつて「ヴァーミリオンサンズ」だけをまとめたものもでているので、そちらでまとめ読みというのも有意義だ。あわせてそろえて読みたいというところ。

 既刊の 1、2 も入手せねばと思わせてくれる一冊に完敗するしかない。

 最後に本冊の解説を書かれていた山野浩一さんがこのごろお亡くなりになったとか。あらためて読み直してかみしめてご冥福をお祈りしたい。

4488010601J・G・バラード短編全集3 (終着の浜辺)
J・G・バラード 柳下 毅一郎
東京創元社 2017-05-29

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