「イシャーの武器店」
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
訳者あとがきを読んである程度納得したところはあるのだが、正直今一つ消化不良な感じの読後感。突如出現した謎の武器店。誰でもはいれるということではないふしぎな店で、なぜかそこに入れてしまったマカリスターという新聞記者。ただ、扉を開けて店にはいっただけだったはずなのに、彼は 7000 年の時空を超えてしまっていたらしい。が、彼の物語はそう長く語られることはなく終わり、たしかに合間に少し登場したりはしたのだが、正直すっきりとした決着がついたとはお世辞にもいえないような気がする。
続く物語は武器店に乗りこんで問題とされてしまったとある店主の息子が家をでるはなし。なぜか武器店の若い女性がそこにからんできてまれなる才能が披瀝されるのだが、それがゆえに陥穽にはまりこれでもかというくらいの苦難の道を歩み始める。全体のおよそ 3/4 は彼の物語ではなかったろうか。
その中にはこの世界をつくっているイシャー帝国の構造と、いつの時代にもあるのであろう老害問題が登場したりもするが、正直いまひとつ実感にはとぼしいようにも。そして、帝国や社会はたまた世界構造への対抗手段的な集団が武器店という発想のふしぎさと面白さ。さながらそれは自由社会アメリカの誕生とも結びつくのだろうかというところは感じる。
罠にかかりせっかく儲けた大金もすべて巻き上げられ、あげく永遠とも思われる過酷な労働へと追いやられようとしていた男がいかにして復活を成し遂げるのかというあたりは面白味もあるのだけれど、今一つしっくりこないところもある。
そうした違和感の原因のひとつは、文章にもありそうだ。人物の行動などはその経過があらすじ的であろうと順を追ってどこへいきなにをしてどうなったと書かれるものではあるのだが、どうも中途を端折ってしまっている箇所がなんどもあって、どうにも読んでいてつながりが悪いのだった。
とあるところで会話していたら次の段落では意味の通じない文言が並び、少し読んでからようやくどうやら別の場所でのできごとらしいとわかる始末。移動している描写といったものがないところがなんどかあるのだった。こうなるとどうにもすんなりと物語にはいりこめない。ヴォークトの他の作品でもこうした経験はまずないと思っているのだが、いったいどうしたわけなのか。
最終的に、彼がなぜ復活を遂げたのかについては一応の説明はあるし納得ができないではないものの、やはりどうにもしっくりしないし、説明不足的なところは否めない。まして冒頭のマカリスターにいたっては結局なんの解決もされていないのではないかというままに終わってしまった。
では、これは「武器製造者」に続くのだろうと思ったらそうではないという。書かれたのもこちらのほうが後であったとか。名作とうたわれてはいるものの、どうも一読しただけではやや意味不明な感じであるのは素直な感想なのではなかろうかと。特殊な世界観のせいもあるのかもしれないが。
あるいは武器店の幻影に惑わされてしまっているだけなのか。
ということで一読しただけでは評価の難しい作品であるというのが現状の評価なのだった。要再読。
そうそう「新版」であって「新訳」ではないことには注意しなくてはならない。
![]() | イシャーの武器店【新版】 (創元SF文庫) A・E・ヴァン・ヴォークト 沼沢 洽治 東京創元社 2016-12-21 by G-Tools |
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