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「時間衝突」

 本が好き! 経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 なんとも SF 的な響きにひかれるままに手に取ったものの、その内容的な意味を深く考えることもなく読み始める。序文でブルース・スターリングが書いている。

ベイリーの小説は、超高速エレベーターのようなものだ。ドアが開き、きみがエレベーターに乗りこんだとたん、加速が襲いかかってくる。階数表示に目をやると、フロアが飛ぶようにすぎてゆくのがわかる。そして、そのスピードはどんどん速くなってくる。それから――ここがだいじなポイントだ――一瞬の遅滞もなく、きみは建物の屋根を突き破り、空に飛びだしてしまう!

 「超高速エレベーター」? などと思っているうちに気がつけばそこは未来の地球。異星人の遺跡を調査していたところ不可解な状況が発生する。過去に撮影された同じ遺跡の写真を見ると、明らかに過去のほうが遺跡が古びている。つまり現代のほうが新しい。

 時がたてばたつほど新しくなる。そんな不思議なことがはたしてありえるだろうか。あるいは、それは植物が芽を出しやがて大きく育っていくように、朽ちた状態から次第に完全な形に育っていくようなものなのかと考察もされる。

 さらには、あろうことか異星人の遺物らしき機械をかれこれ 5 年も調べていて、それがどうやらタイムマシンであると判明しており、主人公であるヘシュケはタイムマシンに乗って実際に過去の遺跡を調査することに巻き込まれていく。

 到着した過去における遺跡は明らかに現在より古びているのだが、ヘシュケが現代において調査した証をもまた確認した調査チームは、実は過去ではなく未来に来てしまっているという結論を持って帰途につく。しかし、途中異星人のタイムマシンと遭遇することになってしまい、急きょはるかな未来に逃走。そして、ようやくことの実際を知ることになる。

 地球を舞台に相反する時間の流れが存在していると。

 異星人の時間はヘシュケたちの時間とはまったく逆行しているが、どうやらその時間軸はそれぞれ交錯するように流れている。おそらくは 200 年ほどでそれらは衝突することになる! そのときいったい何が起きるのか。とんでもない話になってきたと思うが、冷静に考えればタイトルがすべてを物語ってはいたのだ。

 どうなるのだと思っていると、舞台は突如どこかにある中国人系らしい種族が暮らすコロニーのようなところに移る。生産と娯楽、それぞれを享受するふたつの世界にわけられていて、相互の行き来は基本ないが、生まれてくる子供は必ず他方の世界で祖父母らによって育てられることになっているという不思議な世界。が、それを可能にしているのが、かれらが持つ時間を思うように操つる技術。

 さあさあ、どうなるのだ。なにがそれらを関連づけるのだと思わせつつ、もうさきの超高速エレベーターに読者はすっかり乗せられてなすがままなのだ。

 問題ははっきりしている。この逆行するふたつの時間の衝突をどう防ぐべきなのか、なにができるのか。地球と異星人とはお互いに相手をせん滅すればなんとかなると戦闘状態にはいるが、そんなことで事態が改善するはずもない。といって、地球を捨てる考えなどどちらもさらさらない。

 交錯する時間軸に生きる地球人と異星人を擁する地球、そして中国のコロニー・レトルトシティ、この三者三つ巴でくるくると目まぐるしく舞台と時間とを移しつつ展開する終盤。とにかくもうひたすらに終点すらもわからずにぐんぐんと超高速エレベーターは上り続けるのだ。そして、たしかに気が付けば突き抜けてどこぞかに飛びだしてしまったらしい。珍しく一気に読み終えてしまった。

 途中繰り広げられる時間論は必ずしも科学的とはいえないかもしれないが、妙に納得感のあるものでもあり、また難解でもある。役者 訳者の付記でミステリ作家殊能将之(しゅのうまさゆき)氏のこんな文章が紹介されている。

バリントン・J・ベイリーは SF のある本質を体現した作家のひとりだった。

文章は下手、キャラは平板、プロットは破綻し、奇想は思いつき程度で整合性がなく、大風呂敷を広げてもたたむことができない。
そんな小説がおもしろいはずがないのだが、読むと無類におもしろいのだ。なぜかというと「SF だから」としか理由づけのしようがない。

 まさにその通り。結末については不満があるが、そこまでの道のりを十二分に楽しませてくれたのだから、それでよしとするかとすがすがしくページを閉じる。そんな作品。面白いは正義なのだ。


アスカーはいそいでうなずき、

「わかりました。それは認めます。その事実が、わたしの理論の誤りを示していることも認めます。それで、真実はどうなんです?」
「真実は、宇宙は全体として、時間を持っておらんということじゃ。宇宙のあらゆる場所が同時に<いま>なのではない。宇宙は基本的かつ根本的に静的で、生命のない、無関心なものだ。過去も、未来も、<いま>もない」(P.189-190)

正誤をひとつ。

それがちょっとした魅力になるくらいにつむじ間借りな性格だ。(P.32)

s/つむじ間借り/つむじ曲がり/

#できれば「後ずさり」ではなく「後じさり」として欲しかったとは。

4488697062時間衝突【新版】 (創元SF文庫)
バリントン・J・ベイリー 大森 望
東京創元社 2016-09-26

by G-Tools

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コメント

ベイリーは何と言っても「カエアンの聖衣」
(^^!

投稿: 黒豆 | 2016.10.19 19:37

未読なんです~(^^;

#新訳献本で当選しないかなあ。

投稿: ムムリク | 2016.10.20 08:52

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