「ラブコメ今昔」
昔は恋愛小説とか、恋愛ドラマとか、恋愛映画とか、とにかくその手のものはなんだか恥ずかしくって苦手な意識というのがあった。特に若いとき。女性はむしろそういうものが好きな人は多いと思うけれど、男だとそういうのはちょっとと敬遠する向きというのはある。
もちろん、それは嫌いだというのではなくて単に面と向かってととかあけっぴろげにというのはちょっと苦手だな、恥ずかしいなということであって、そういうことに関心がないわけではないはず。まあ、そういうもの。
それでも「赤毛のアン」くらいなら読んではいたし、まあ、そのくらいならそう辛くはなかったようには思う。それに比べて「ラブコメ今昔」が当時あったらどうだろう? やはりちょっと手を出しにくかったろうなとは。ずいぶんとラフでライトではあるけれど、それでもその裏にはあまりにもベタな恋愛が描かれているのでちょっと気恥ずかしいところは否めないだろうなと。
ところが今となれば、つまり歳を食えば次第にそういう意識というのも変わるし、和らぐ。まあ、気恥ずかしさといったものはどこまでいってもそう変わりはないかもしれないけれど、少し離れたところから眺められるといった感じ。若いっていいなあとか、あの頃はそういうことなかったなとか、逆にあったなとか。まあ、いろいろ思いをはせながら。
自衛隊を舞台にした恋愛コメディ短編集の第二弾。ということもあってバリエーションもいろいろで、深刻なようでライトなようで、とにかくぐいぐいと引っ張ってくれるのでえいやっと引き込まれてさえしまえばなんということはない。こそばゆい感じも味わいつつ楽しませてくれる短編たちがぎっしりつまっている。
しかも、自衛隊。特殊な環境下での恋愛は、などというどこぞの映画の状況まで思い出してしまいそうになるくらい特殊。けれど、それだけにかえって少し離れた現実の恋愛として見られるという効果は高いのではないかとも。恋愛小説はちょっと苦手という向きにもこれはけっこうアピールできるのではないか。
どれも面白いけれど表題作とその裏表になるようなおまけとの対比あたりがなんとも好きではある。
自衛隊をとりまくもろもろの事情みたいなものも見られるという特典つき。自衛隊シリーズの長編内での恋愛模様よりもずっと濃いところが読めるというのも面白い。恋愛小説はちょっと、という人にこそおすすめ。
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