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手紙の宿

 番組改変期であるとかお盆や正月のころなどにときどきはいる NHK の「にっぽん紀行」という地域製作(かと思う)番組。今回岩手だったかのある宿についてやっていたのを見た。手紙でしか予約を受けないという。おもにははがきであったりだが、とにかく郵便で「この日は泊まれますか?」とか、「空いている日はありますか?」などと問い合わせる。それにたいしてまた宿のほうから郵便で返事がくる。電話での予約は受けていないらしい。すなわち、当日になって「きょうは泊まれますか?」ということが一切ないわけで、それもまた珍しい。

 いや、事前に予約したお客だけとかならあるであろうけれど、電話ではなく郵便でというところがなかなか面白いと同時にちょっと辛いところもあるのだろうなと。なによりメールや SNS に依存して、たちどころに返信がないと落ち着かない世代が増えてきたこのごろ。郵便事情だって発達しているから、よほど離島ということでもないかぎりはほぼ翌日、遅くとも翌々日くらいには届く郵便。そうはいっても返事がくるまでを思えば一週間程度は時間を要するわけなのだから。

 その時間を今の時代の人が待てるのか? というのはある意味フィルターにもなっているのかもしれない。その時間をも楽しめる人がその宿に流れる時間を享受できるということなのか。

 ユースホステルやキャンプなどして旅していたころには、ゆったりした時間の流れをすごしたものだった。手紙もよく書いた。さながら呼吸するように生活するとでもいうか、そういう時間を得るというのはなかなか得がたい体験。子供のころの夏休みとはまた違う。

 せわしない現代人のなかの一部の人が、ようやくにしてその稀有な時間を手に入れたときに胸に去来するのは、失っていた自分であったり社会であったりするのだろうか。

 もちろん、宿への足は車であったり列車であったりいろいろで、その行程そのものは相変わらずのせわしなさなのかもしれない。せめてそこに泊まるということがなにかを変えるきっかけなのかもしれない。

 旅していたころを思い出す、そんな時間になった。あのころから思っていることだが、「人は、その移動速度で思考する」というのは、やはり事実だなあと。

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