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猛き箱舟

 香坂は多少腕におぼえのあるチンピラ。なにか大きなことをしたいと灰色熊(グリズリー)と呼ばれる男への接近を試みる。海外で日本企業が遭遇するもめごと(多くはテロなどが絡む)を処理する仕事を非公式におこなっている。はじめは行きつけのバーで接触するが、手下にあっさりやられてしまい失敗。そこで、難病をかかえた一人息子を懐柔する作戦にでて成功する。

 仲間になって行った先はアフリカ。とある日本企業が現地政府との鉱山関係の契約を結ぼうとしているが、いろいろの理由でそれに反対しているのがポリサリオ解放戦線。その動きを阻止して契約締結を有効なものにするのが任務。現地で合流したメンバーはちょっと頭がイカれているのではないかというような者もいて、先行きは不透明。

 現地に赴く前のホテルで行きがかり上ポリサリオ解放戦線の若い女性メンバー、シャヒーナを助けてしまう。現地について最初の作戦はこちらの勝利。数百人規模のポリサリオ解放戦線の兵士を倒す。が、続く作戦では香坂らは完全に包囲されてしまい逃げ場を失う。援護があるはずだった灰色熊たちはそのまま逃げてしまう。はじめから香坂をはじめとした新規メンバーは万一のときの捨て駒として集められただけのメンバーだった。

 虜囚となってシャヒーナと再会する香坂。ポリサリオ解放戦線では一方的な軍事裁判を香坂にたいしてはじめる。さっさと殺したい派閥や、灰色熊に関する情報を聞き出してしまいたい派閥、この国の現状を変えるためにも彼を生かしたまま有利な広告塔として利用したいシャヒーナを代表とする若い派閥など、いくつもの思惑がからみあって一向に話は進まない。

 そうこうするうちに多数の見方を失った先の戦闘での責任を追及されて名のある指揮官が更迭されたりと、ポリサリオ解放戦線内での意思統一や協調関係にしても一枚岩ではない。そんな混乱のなか、同じく囚われの身となっている兵士とともに脱走を試みる香坂。当初の予定通りには事は運ばず、それでもなんとか命からがら脱走することには成功する。

 ともに脱走した男の手はずでカスバに身を寄せたものの、そこも安泰ではなく、ポリサリオ解放戦線からの追っ手がやってくる。さらにはシャヒーナたちもやってくる。かくまってくれていたはずの(武器)商人もことあるごとに不穏な動きがあったり、香坂が生きていると知って命を狙う灰色熊の部下がやってきたり、さらには多くの部下を失ったことで地位を失墜した指揮官もまた香坂らの命を狙いにカスバにやってくる。

 いくつもの思惑がぐるぐるとからまりあわさって、もうなにがなにやら、誰がだれやら、という混沌とした状態。ついには革新的な言動をしていることをうらみに思われていたシャヒーナまでが、ポリサリオ解放戦線から狙われる事態となって、香坂とのある種愛の逃避行になるのかという展開。

 けれども、ついにはシャヒーナもその命を落とし、香坂も左手を失いながらかろうじて生き延びることに成功する。そして半年の月日を経て、香坂が極秘に日本に入国。いよいよ灰色熊との直接対決という復讐の最終段階へと物語が進む。半年あまり前まではただのチンピラでしかなかった男が、いまや狡猾で冷酷・屈強な暗殺者として。

 灰色熊の周辺から真綿で首をしめるかのごとく、じわじわと包囲網をせばめていく香坂。自分の地位や経験にあぐらをかいて、権力者に協力を求めようとする灰色熊にたいして、ここは日本なのだと思い知らせる冷たい仕打ちがかえるなかで、ぬるま湯しか知らない日本の傭兵たちが香坂を迎え撃とうとするのだが。

 物語の終わりは直接本筋とは関係のない派生している物語の顛末となって、そこは少し余計なのか、はたまたそれはそれでありなのかと微妙なところもあるものの、圧倒的な迫力の前になすすべもなくドッと疲れて読み終える上下巻およそ 1200 ページ。この疲労感は正直このごろとんとご無沙汰となっている心地よさなのだった。

 油の乗っていたころの船戸与一は、やはり最高だった。

4087486362猛き箱舟〈上〉 (集英社文庫)
船戸 与一
集英社 1997-05

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4087486370猛き箱舟〈下〉 (集英社文庫)
船戸 与一
集英社 1997-05

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