ラットランナーズ
本が好き! 経由で献本していただきました。ありがとうございます。
超監視社会となった未来のイギリス。なにか不穏なことがあると判断されると行動を逐一監視する者たちがやってきて、すべての行動をつぶさに監視されるようにもなってしまう。危険な物(刃物や銃器など)を隠し持っていてもそれを検知することができるということで、表立った犯罪は少ないのかもしれない。が、個人の生活は後ろ暗いことさえなければ別だが、やや緊張を強いられたはりつめた空気の漂う社会になっている。ただ、子供はその監視からは一部除外されるような法律となっているらしい。
そこで子供ギャングとでもいうラットランナーズというものが登場するようになったらしい。地下組織の仕事を請け負うのは子供。そんなひとりのニモに舞い込んだ仕事が、実は自身にかかわるようなものであったと。ただ、そのあたりの関係を依頼主はまだ知らない。が、ゆえにニモはその依頼を利用して事件の真相にせまろうと動くことにすると。
まあ、そういう物語。結末はあまりにも突拍子もないところに行ってしまうので、ちょっとやりすぎという全能感を覚えてもしまうので、評価はわかれるかもしれない。わたしとしては少々都合よくやりすぎたのではないかという印象が残ってしまった。ただ、物語の展開そのものは面白く読んだのは事実だ。
なぜ、どうもいまひとつに感じてしまうのかといえば、これがいわばイギリス版のライトノベルのようなものだからかもしれない。
作者はもともとイラストを描くことからはじめていた。絵本などを描き、そこから児童小説などにも進んだらしい。そして、おそらくは一応一般向けということでだされた SF 小説が本作という位置づけかと思われる。
ただ、どうもいまひとつ洗練された感じに弱く、児童小説の延長にとどまっているような印象がしてしまう。いや、そこにも収まらないというか。子供向けとしたらややグダグダしすぎているかもしれない。それでいて文章が細切れで短いセンテンスが大半であるとか、情景描写がやや弱く、単純な単語の羅列的な文章になってしまっているあたりにライトノベルというかケータイ小説というか、なんとなく今風の素人が軽く書いてみましたといった雰囲気のようなものを感じてもしまうのだった。
日本のライトノベルがそうだというのではなく、それはもっと読むに耐えるものだと思うのだけれど、これを普通に一般に読まれることを目的とした SF 小説というのであれば、少し違うところにあると思ったほうがよくはないか、ということからあえてイギリス版ライトノベルと表現してみた次第。
そして結末の全能的な展開はあまりにも激しすぎてちょっとやりすぎではないのかと思ってしまう。とある技術を人体に埋め込むだけで、人体内のあらゆるところ(希望するところ)に、あらゆる機械装置や機能が実現してしまい(カメラであったり分析装置であったり、レーダー的な装置であったり)、しかもそれらをまた分解して監視から逃れることまでできてしまうといったことをやられてしまった日には、もうなんでもできてしまうだろうと。まあ、それがこの作品の世界なのだといえばそれまでではあるのだけれど、それを許容できるような作品にまでは仕上がっていないのではないかと思ってしまうからなのだった。
いっそディック的な世界にまでいってしまえばよかったのではないかと思うのだが、そこまでブッ飛んだ世界を描くには力不足は否めない。あくまでも児童小説レベルではないかという感じなのだ。(児童小説をおとしめる意図はないです)
それは章立てが非常に多いことからも言えるかもしれない。細かく場面が変わるのだ。設定は面白いし、展開もそれなりではある。ただ、児童小説にも一般小説にもなりきれないままの作品に終わってしまったというのが、個人的な感想なのだった。
ひところ時代を牽引したサイバーパンク的な SF を期待して読むと、正直がっかりするかもしれない。あるいは「長文を読むのはどうも苦手だ」という現代のニュータイプ向けとするならば、それはそれでありなのかも。
正誤情報:
「肌の色は白でしたでしたか、黒でしたか?」(P.111)
![]() | ラットランナーズ (創元SF文庫) オシーン・マッギャン 東京創元社 2015-04-20 by G-Tools |
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