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黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選

 本が好き! 献本でいただきました。ありがとうございます。

 様々な宇宙生命を扱った作品を集めたということで、確かに種々雑多な生命が登場。環境問題的な意味での植物などが高度な意識を持ったようなものであったり、海洋生物が知性をもって人への抵抗を示すものであったり、果ては実体としてはなかなか感じ得ないようなプラズマ生命体などというものまで登場。収められた 6 つの作品それぞれがそれぞれに違う趣を見せてくれて(だからこそのアンソロジーではあるのだけれど)、実にお得感のある作品集にまとまっている。

 ただ、発表年代がいずれもやや古いので(1970年代はじめよりも前)今では少ししっくりとこないような印象もある。読み終えてみても、え? それだけ? といった感じの印象もあったりする。もう少しなにかあってもと期待のほうが大きすぎるのかもしれないけれど、淡々と展開するだけでその先がないような物語もあって、ちょっと物足りなさを感じてしまうのも正直なところだった。

 そんななかでお気に入りとしたら「キリエ」(ポール・アンダースン)、「海への贈り物」(ジャック・ヴァンス)、「黒い破壊者」(ヴァン・ヴォークト)といったところ。

 「キリエ」はプラズマ生命体の話。話としては宇宙船に随行するようにその生命体もいたのだけれど、超空間航行というのかによってその生命体と物理的(?)に分かれてしまうのだが、といったような話。まあそれだけなのだが、なんとも幻想的な雰囲気がとてもよい。

 「海への贈り物」は一番物語の展開がわかりやすく、それでいてちょっとワクワクさせてくれる物語に仕上がっている。突然仲間の姿が消えていって、どうやらそれは海洋生物によって引きずり込まれて死んでしまったようだということがわかり、調査を進めるうちにある生物からは貴重な資源が採集できるということがわかり、かつては一緒に働いていて今は別にやっている男が、協定に違反してそれら生物の採取を行っているのではないかという疑惑を解明して行く。その過程でその生物とのコミュニケーションを図ろうとする様が描かれる。ある意味ファーストコンタクトともいえる作品。

 表題作でもある「黒い破壊者」は一番気になっていた作品。「宇宙船ビーグル号」はかつて読んでいるのだけれどほとんどもう記憶にはなく、当時はクァールと呼ばれていて黒くて猫に似た宇宙生物が登場する作品の新訳。とある星で遭遇した猫に似たその生物は、ヒトのレベルを察してかわいげのある動物のように振舞うことで宇宙船に乗り込む。そうして星ではすでにいなくなってしまったえさとしてヒトを戴こうともくろみ、確かにそれに成功する。思ったよりもかしこくそして強い相手(しかも電波や電流を自在に操るらしい生物)だとわかったヒトがどう対処していくのかという展開が面白い。

 この新訳ではケアルと訳されていて原語表記がわからないものの、それが今風なのだろうなとは思う。それでも古い読者にとってはやはりクァールというやや幻想的な魅惑的な響きも捨てがたいところがあって悩ましい。

 多様な作品たちであるがゆえに、好き好きがでてくるとは思うものの、それら多様な宇宙生命ものをまとめて楽しめるという点では確かに稀有な作品集。願わくばもう少し新しいところで編まれることがあるとまた違った趣になるのではないかなと期待したいところ。それとも、最近ではこうした魅力的な宇宙生命ものはあまりでていないだろうか。だとすれば少しさびしい感じもする。

正誤:

「もとろん、あいつがなにをしたかは、簡単にわかります」(P.380)
s/もとろん/もちろん/


4488715052黒い破壊者 (宇宙生命SF傑作選) (創元SF文庫)
A・E・ヴァン・ヴォークト R・F・ヤングほか 中村 融
東京創元社 2014-11-28

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