修道女フィデルマの探求
この短編集、本来は二分冊で出版された全 15 編を日本独自に(許可を得て)5 編ずつの三分冊にしたものだとようやく知った。で、その最後がこの探求。正直なところやや物足りない感じがした作品もあったのだけれど(短すぎてという感じ)、総じては面白く読んだ。
なかでも「不吉なる僧院」「ウルフスタンへの頌歌」あたりがよかった。
「不吉なる僧院」はとある島の修道院へ手紙を届けるという役目を負って向かったさきで出会った事件。孤島にある小さな僧院で人がいなくなり、いくつかのむごたらしい死体が見つかる。犯人は海賊ではないかという船頭らの話にしては、物取りとも思えない様子に調査をはじめるフィデルマ。嵐が近づくなかで気が気でない船頭たち。そうしてたどりついた真相はなかなか見事なものだった。
「ウルフスタンへの頌歌」は時代背景を色濃く反映した物語で、諸国の対立や文化などが存分に発揮された内容で、これまた面白いというか興味深い。どちらかというと犯人像に関しては予想通りというところはあるものの、やはりそこにたどりつくための背景がわかってくると、「あー、なるほど」と思わせてくれる手腕が心地よい。
前の短編「洞察」でも感じた、中短編のもつ面白みというのが存分に発揮されている感じ。世間的には長編こそが面白いし、本領発揮だといわれているようだけれど、このくらいの長さがむしろちょうどよいのではないかと思うところもある。
次なる短編集の予定もあるらしいのだが、実のところまだこの短編集のはじめ「叡智」を読んでいないのだった。次が出る前には読んでしまいたいものだなと。いや、長編にしても味読はまだまだ残っているので楽しみは続くのだった。
![]() | 修道女フィデルマの探求 (修道女フィデルマ短編集) (創元推理文庫) ピーター・トレメイン 甲斐 萬里江 東京創元社 2012-12-11 by G-Tools |
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