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内向きは無知

 NHK スペシャルで「緒方貞子 戦争が終わらないこの世界で」を見る。41 歳で市川房江に誘われて国連に行くことになり、やがては国連難民高等弁務官として 10 年あまりを勤め、数々の事態に異例の対処をし、多くの人々の心にその名を刻んでいる緒方貞子さん。生い立ちやいくつかの事例をドラマとインタビューとで構成した番組。

 すべての人の数々の意見を十分に聞いたうえで、最終的に自らが決断を下す。「わたしが決めるしかないんだから。トップというのはそういうもの」と。近頃の決められないトップへの批判もチラリと見せる。

 クルド難民への対処が冒頭で取り上げられた。彼らは自国を出ることができずとどまっている以上 UNHCR の定義する難民ではない。それを支援すると今度面倒なことになる。といった意見にも、「ルールを守ることが重要なのではない。命の危機にさらされている人々を救うことがわたしたちの仕事なのだ」と。

 「前例がないから」といっては新しいこと、画期的なことから目を背け、旧態然としたぬるま湯につかってご満悦のトップのいかに多いことか。今ある命を少しでも多く救うことが可能な手段をとるといって、時には軍隊にも協力を求めたり。

 「とにかく行くと決めてしまうのさ。後のことは皆で考えればいい」という父親の言葉。言い訳やマイナスばかり考えて少しも行動できないのはなんとももったいないことだということか。

 ただ、曽祖父に犬養毅を持つとか、いろいろな意味で上流のお嬢様だったのだなと思うと、やはり市井の人間にはなかなかそこまでのチャンスというのはないのかもしれないという思いも。ひがむわけではないし、緒方さん自身それをひけらかすでもないのだけれど、やはりそういう面も否めないところはあるのではなかろうかなどとも思った。

 もちろんだからといって立派な業績を残された方であるという事実にいささかの違いもない。現在は祖国に戻ったかつての難民のなかに、サダコオガタの名を持つ子供があるとか。それほど緒方さんの姿というのは難民に頼もしく、そしてありがたく映っていたのだろうなと。

 ドラマでは緒方さんを斉藤由貴が演じたのだけれど、番組案内で見たときにはいまひとつか? とも思ったものの、実際見ると案外よく似合っていたのではないかと。

 今なお紛争の耐えない世界。紛争をなくすのは無理なのだろうといい、共存する道をさぐるべきなのだろうという言葉が切なくも重い。

追記:

内向きの上に妙な確信を持ってそれを実行しようとすると、押し付けになりますよね。理屈から言えば。

内向きというのは、かなり無知というものにつながってるんじゃないの。違います?

 なぜ日本が戦争に突き進んでいったのかということを取材・研究した成果を論文として書かれていたというのは、番組ではじめて知った。

4006002521満州事変――政策の形成過程 (岩波現代文庫)
緒方 貞子
岩波書店 2011-08-19

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4167741032風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)
森 絵都
文藝春秋 2009-04-10

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コメント

「内向きは無知」
見ながら、どこぞの誰かに聞かせたい、と言うか、緒方さんが
変わってやってほしいものだと思っておりました。

投稿: 黒豆 | 2013.08.19 16:09

同じくです。

投稿: ムムリク | 2013.08.19 17:07

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