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空間亀裂


4488696201空間亀裂 (創元SF文庫)
フィリップ・K・ディック 佐藤 龍雄
東京創元社 2013-02-27

by G-Tools

 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 ディックといえばどちらかというと分けのわからない世界、分けのわからない物語展開という印象も強く、まあそのぶっとび具合こそがディックらしいという印象すらある。そんなディック作品としては比較的穏やかにまとまった作品ではないかと。

 では、だからといって面白みに欠けるのかといえば、そうでもない。解説などを見るとディック本人は駄作だと言っていたらしいけれど、いやいやここにはディックであればいくつもの作品を生み出して人々を驚愕させるに違いないというようなアイデアは満載なのだった。

 物語は地球の人口が増えすぎてしまい、ついに冷凍睡眠によって未来に活路を求めるという時代になっているところからはじまる。少なくともアメリカにおいては白人がマイノリティーとなり、働き口も多くない。有色人種がその数を増やしていて、ついに歴史上初の黒人大統領が誕生するのではと期待される大統領選挙戦を主軸として物語は語られる。

 人口が増えすぎて冷凍睡眠を行うくらいなので、当然繁殖にも規制がかかり、人工中絶も合法化され、それに伴ってか売春の合法化もなされている。数千人もの女性が待ち受ける娼館衛星が存在し、男どもはこぞって通う。その娼館衛星を営む男はひとつの頭にふたつの体を持つ奇妙な姿で、しかし、絶大な力をもまた持っている。そう、大統領選挙を左右するくらいに。

 黒人候補のブリスキンにもたらされたひとつの情報が、地球の未来を混沌とさせていく発端となる。それは超高速移動機というやや謎な機械に見つかった時空の亀裂。その先に見つかったのはどこかの惑星だったが、実はそれは地球だった。生命も存在していたが、それはこちらでいう北京原人の姿で、知能も文明も当初はまだ未発達なものに思われていたのだった。

 ところが不思議な飛行物体をもっていたり、エンジンらしき装置が木製であったり、実に奇妙な文明を持っていた。

 当初、そんな生命の存在を知らないままに、一億人以上という冷凍睡眠の人々の移住先が見つかったと発表してしまったブリスキンは、単純に移住できない事態に直面。さらには、それが公になってしまったので、現役大統領がそれを利用しようと画策。後先考えないままに移住計画がはじまってしまう。

 ところが、しばらくして亀裂の様子が変わってくる。接続された先の様子が以前とは異なり、原人たちがこちらに侵入してくる事態となり、状況はすっかり逆転するかという展開。

 ディック作品としたらずいぶんとあっさりした感じではある。どこへ連れて行かれるのか皆目わからないというような混乱はない。けれど、冷凍睡眠された人々であるとか売春合法化とか、謎の結合双生児であるとか、時空の亀裂を通じて異なる地球と行き来するであるとか、ディック的なシチュエーションは満載。ただ、どれもやや中途半端な展開で結末を迎えてしまうというところはあって、少々もったいない感じも残る。

 そのいずれかひとつだけを取っても、ディックであれば大長編を物していても不思議ではないのだけれど、そういう意味ではやや物足りなさは残る。とはいえ、風呂敷を広げるだけ広げておいて、さあどうだといったところであっさりと決着をつけてしまう。それもまたディックの才のゆえかもしれない。

 そんな意味では、むしろディックは初めてという人にとって、ちょうどよい入門になるかもしれない。

 難点としては登場人物の多さ。途中で一度「えーと、これは誰だっけ?」と思ったのは久しぶりの体験だった。その意味でもディックってすごいなあ。



空間亀裂 (創元SF文庫)
  • フィリップ・K・ディック
  • 東京創元社
  • 1029円
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書評

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