ブタがいた教室
劇場公開時だったかに宣伝でも見たのだったか、なんとなく記憶に残っていたのもあって、見てみたいとは思っていた映画だった。実際の出来事を下敷きにしているという話でもあったし。
で、見たのだが、映画としては悪くはないものの、詰めがどうにも甘いのではと。いや、甘いというか、制作側が結局結論から逃げてしまったとでもいうか。なぜ、最後にそれがないのか? と。まあ、それというのはつまり豚を食べるのかどうするのかという議論の中心から逃げてしまっているという意味において。
まず担任教師が豚を飼って最後はみんなで食べたいといって飼いはじめる。ところが児童は名前をつけたりしてすっかり飼育ではなくペット(愛玩動物)となってしまう。校長先生だかがそれを指摘するのだけれど、「はあ・・・」と苦笑するにとどまると。
はじめは汚いものに接するように嫌がっていた児童が、次第に豚とはこういうものだと理解し、飼うということがどういうことなのかがわかっていくという過程は有益なのだろうなと思う。なんとなく毛嫌いするトイレ掃除を率先して行うことが教育につながるというのはよく知られることでもあるし。
印象だけで思い込んだり、避けてしまったりということのなにがいけないのかといったことを身をもって体験したという意味においては意味がなかったわけでもない。
ただ、いざ、二学期も終わろうかというころになって、食べるかどうかという議論になったときに、段々論点がずれていく。かわいいから殺すなんてできないとか、食べるなんてひどい、みたいな意見やら、他の豚は食べるけど、ピーちゃん(飼っている豚の名前)は食べられない(食べたくない)とか。
次第にそれは、自分たちが卒業しても在校生に引き継いでもらえばいいじゃないかという意見になっていったり、自分たちで食べるのではなく食肉センターに引き渡せばいいという話になってくる。
教師は児童の自主性を尊重するということで一切意見をはさまない。そして最終的なところまで概ねその姿勢が貫かれる。
児童が自主的に全校児童に呼びかけて引き継いでくれるクラスを探す。4年生だかに見つかるが、すでに体格も大きくなった豚をその子らがきちんと世話できるのかというと疑問があった。まして、自分たちで殺す決定をできなからといってそれを在校生に押し付けるかのようなことは本当によいのかといった意見もでてくる。
みんなで豚を飼って、最後はそれをみんなで食べるといった本質はどこへ行ってしまったのか?
最終的に児童の意見はまったくの平行線で、採決の結果もまったくの二分。先生にも一票あるはずだとのことで、最終的な決定は担任教師が出すことになる。結果、食肉センターに引き取ってもらうことになり、別れのときに、いつまでもその車の後を追いかけるというあたりで終わる。
なぜ担任は議論の途中で、論点を戻すことをしないのだろうというあたりが非常に気になってしまった。児童主導の討論はよいと思うが、論点を戻したり、大人としてそれらの意見が持つ意味ということをもう少し違う視点で考えさせたりといったことはあってしかるべきではなかったのかと。それが、教師という仕事なのではないかと。
ところが結局のところそれは一切放棄されてしまった。この豚は殺せないが、他の豚はよいというのはおかしくはないのか、とか。では、畜産業をしている農家のひとはどんな気持ちで豚を出荷しているだろうかとか。いろいろ考えさせるテーマは転がっていたはずなのだ。単純に教室で問答を繰り返すよりも、もっと多面的に考えさせる素材があったのに、それをまったく生かしていないのはなんとも残念。
人は命を食べて生きざるを得ないのだということを教えるということでもなかった。豚はもう食べないという児童もいたりしたが、では野菜であれば生きていないのかというあたりもテーマだ。野菜は人に食べられるために育っているというのか? 栽培しているからといって野菜はたべらることを望んでいると、本当にいえるのか? そもそも野菜が意思なんてもっているわけないじゃん、と言うかもしれない。
もっと、もっと、掘り下げて議論できるものだったのではないか。
もちろん、映画という時間的な制約はあるのだけれど、最後の議論の部分にはそれなりに時間が割かれていたわけで、できなかったわけではないと思う。
結果、見終えた感想としては、監督を含め制作側が、その究極の議論から逃げてしまったと言わざるをえないのではないかと。
もともと食べるために飼育したはずが、ただのペットとなり、飼い切れなくなったので(卒業してしまうし、だからといって当初の話のように食べることも決断できず)、食肉センターに引き取ってもらうことでなかったことにしようという結論。と言われても仕方ないような結末だった。
当初の目的は実に面白いものだと思うし、上手にやっていたらもっと実りの多い教育になったのではないかと思うけれど、実際がどうだったかはわからないけれど、映画の内容に限っていえば、こんないい加減な教育だったらやらないほうがよいのではないか、と思ってしまうのは、あながち間違いとも言えないのではないかと。
ある意味、期待が大きすぎたのかもしれないということを割り引けば、そこそこ見られる映画ではあるものの、絶賛する前にもう少し考えたほうがよいのではという映画ではあったかなと。
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