塩の街
![]() | 塩の街 (角川文庫) 有川 浩 角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-01-23 by G-Tools |
「空の中」「海の底」と読んで、「塩の街」と順不動で読んでしまった自衛隊三部作。なぜというわけでもないけれど、これだけはどういう話なのか想像がつかなかったから、というのもあるかもしれない。
が、読めば確かにこれはおもしろい。いや、既に「空の中」「海の底」でも十分にわかっているのだけれど、デビュー作がこれでは人気がでないわけもないなあと。
ある日巨大な塩の結晶らしきものが降ってきて、全世界で次々と人が塩の結晶化していく。どうやらこの結晶を見ることでなにやら心因性のことで犯されていくらしいとわかる。結晶を見るなということと、結晶を破壊してしまうという作戦が生き延びた者のなかで計画される。そして在日米軍基地所属の F14 を使用して、自衛隊生え抜きのパイロットである秋庭が結晶に攻撃をしかける。
というのが表向きのあらすじで、実際のところは、この世がもしも終わりを迎えようとしても、人々が死を迎えようとしても、恋する心は止められない。だって、好きになっちゃったんだもん。で、あると。
「空の中」を読んだときに、著者が女性であるとは思えなかった。自衛隊の描写といい全体的な文体に感じる雰囲気といい、言ってみれば軍事オタクっぽい雰囲気が強くて、どうしても女性というイメージにならなかった。
けれども、女の子の描写であるとか、日常であるとか、生態であるとか、そうしたところを見ていると、やはりこれは女性でなければ書けないのだろうなというところとか、あるいはこれを男が書いたとしたら、少し気持ち悪さが出てしまうかもしれないなあと。そのくらい女の子がきちんと恋している感じがする。
他を読んでいないのに言うのもなんだが、割とどの作品もこうしたひとつのパターンを踏んでいそうな気配はあって、そんなこんなも含めて言うと、つまり「有川浩は 21 世紀の新井素子である」ということなのではないかと。
作品の終わりは「Fin.」であるし、「だって恋しちゃったんだもん!」という雰囲気が作品を動かすところとか。
もちろん、すべてがそうかはまだ知らないし、新井素子のすべてがそうではないけれど、まあ、雰囲気ということでは。
ただ、新井素子の恋はあまり恋を感じない。女の子といっても性をあまり感じない。それはある種男についてもいえるのだけれど、比較的無性的な中性的な印象は強かったかもしれない。「ひとめあなたにあいたくて」とか見ていても、有川浩とは対照的なくらいに恋や愛を感じない。
一方の有川浩は、自衛隊を扱って化け物や謎に立ち向かう姿はたくましくきびきびしたものがあって、読んでいて小気味良いし、女の子の細かな描写はやはり女性ならではという印象がある。新井素子はふわふわ、有川浩はどきどきとでも言おうか。
デビューからわずか 8 年あまりらしいのに、もうすっかり押しも押されもせぬ人気作家。しかも、なんでもこなすマルチな才能。一体どういう人なのか、本当に気になって、可能であれば一度お会いしてみたいものだなあと。
まあ、諸般の事情により、他の作品はまたぼちぼちということで。
近頃「恋」が不足しているという人には、特にお薦めかも。
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