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顔に降りかかる雨


4062632918顔に降りかかる雨 (講談社文庫)
桐野 夏生
講談社 1996-07-13

by G-Tools

 「実はですね。耀子が部屋にいないのですが、そちらに伺ってませんか?」

 梅雨時のとある朝、唐突にかかってきた友人の男からの電話。「どこかに行くとか言ってませんでしたか?」と困ったように穏やかに話す男は、分からない旨を答えると謝辞を述べて電話を切る。ところがほどなくチャイムが鳴るとそれはその男だった。

 するどい目で部屋の内部を見渡す。「上がっても?」と同意を求めるように装いながらも、その実は有無を言わせない空気を漂わせる。あろうことか男に続いて入ってくる若い男は、どう見てもやくざもの。

 男がここへきて話すには、耀子が一億円を持って行方をくらました、というもの。つまり、「あんたがかくまっているんじゃないのか?」といいたいわけだ。あるいは、共謀しているのではないかと。

 そんなことは知らないし、会ってもいないと言ったところで信じる気配もなく、とにかく一緒に来てくれと事情もよく飲み込めないままに連れ出されてしまう。部屋には連絡があるかもしれないからと、若いやくざものを残したまま。

 一見企業風ではあるが実際はやくざというところに連れて行かれてあわされたのが上杉という男。知らぬ存ぜぬといったところで一向信じるつもりなどない。警察沙汰にはできない金なのだから、行きがかり上あんたらふたりで女を捜して金を取り戻せ、期限は一週間だと言われてしまう。見つけられなかった時には、わかっているだろうね? とばかりに。

 そうして気も滅入るような梅雨空のなか、いなくなった友人耀子と一億円の行方を捜すはめになったミロと、耀子の男・成瀬との疑心暗鬼の捜索がはじまる。

 耀子の部屋は上杉の子分らによってめちゃくちゃに家捜しされていて足の踏み場もない。なにか無くなっているものがあるのかないのか。それでもなにかがひっかかる。

 手がかりは最近耀子が手がけていた仕事の原稿。そのままでも十分によくできていると思われるにも関わらず、本人がどうしても書き直すのだといっていたというのだが、肝心のそのデータを収めたと思われるフロッピーディスクが見つからない。

 件の原稿のもとになったドイツ、ネオナチの取材。取材途中で目撃したとされる殺人事件。死体愛好家で舞踊家の男。ライター志望でおしかけ弟子として耀子の事務所で事務員をするゆかりという女。妙にドスのきいた謎のおかま占い師。などなど、耀子の周囲には、怪しい匂いのする人間たちがなぜかつきまとう。

 しかしながら一向に行方の端緒すらつかめないまま日にちだけが過ぎていく。仕舞いには約束をとりつけて会いに行った舞踊家の男の自殺かと思われる死に直面。降りしきる雨。

 やがて、事件は決着を迎えるが、「終りっていうのはなあ、もっといろんなことが、がらがらと崩れるものだよ」「でも、三人も死んだのよ」「ああ、わかってる。でも、あまりにきれいに収まりすぎてる。それが問題なんだ」。ミロの父でかつて調査探偵としてやくざものの間で名を馳せた村善の言葉が、意味するものはなんなのか。

 桐野夏生というとどうしても「OUT」以降の話題ばかりが目に付くようになってしまったけれど、第39回江戸川乱歩賞受賞作である本作をはじまりとした村野ミロのシリーズのうまさと、けだるさと、やるせなさと、そしてぐいぐいと引き込まれてしまう物語の巧みさこそ体験しなければもったいない。

 ちなみに久々に読み返したのは、先日テレビ欄で見かけたテレビドラマにあったから。十数年前に作られたものらしいが、ミロ役が鶴田真由というのだった。鶴田真由は好きな女優さんではあるけれど、ミロというタイプではない。成瀬は役所広司だったらしいが、こちらは悪くない。そんなことが妙に気になってしまって、どうしても再読せずにはいられなくなってしまった。

 さしづめ今ならば板谷由夏がぴったりかなあと思うのだが、映画にでも抜擢してもらえないだろうか。

 ついでながら読んでいるとどうしても頭に流れてしまうのが、篠原美也子の「午前三時の雨」。特別関連などないのだが、どうしてもこの雨のイメージが妙に印象に残ってしまう。

 そうして、しばし昔に帰る。

B00005GLYKVivien
篠原美也子
EMIミュージック・ジャパン 1997-02-05

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