わが家の相続を円満にまとめる本 新訂版
![]() | わが家の相続を円満にまとめる本 新訂版 小堀 球美子 実務教育出版 2012-07-24 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
君は今、君の親戚(しんせき)なぞの中(うち)に、これといって、悪い人間はいないようだといいましたね。しかし悪い人間という一種の人間が世の中にあると君は思っているんですか。そんな鋳型(いかた)に入れたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。平生はみんな善人なんです。 少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。だから油断ができないんです
「事実で差支(さしつか)えありませんが、私の伺いたいのは、いざという間際という意味なんです。一体どんな場合を指すのですか」「金(かね)さ君。金を見ると、どんな君子(くんし)でもすぐ悪人になるのさ」
夏目漱石は「こころ」の中で、先生にこう言わせている。相続という金を前にして日ごろ善人に見えていた人が、あっさりと悪人になってしまう様を描いてみせる。悪人というと聞えは悪いかもしれないが、少なくとも「どうせもらえるならば少しでも多く、少しでも自分によいように」と思ってしまうのは、ある意味、人の悲しい性なのかもしれない。
それでいて人生のなかで実際に相続という問題に突き当たるのは、そう多い回数ではない。といってまったく出会うことがない人というのは、よほどでない限りまずない。誰しもが一度は通らざるを得ないというものなのだが、いかんせんそうそうあるわけでもないのでそうした実感なり、心構えなどあるはずもない。
もちろん、すべての相続において問題が発生するというわけではないだろうとは思えるものの、だからといって絶対に問題が起こりえないといえるわけでもない。相続の問題は千差万別であって、その時々の状況で、その時々の解決をせざるを得ない。
それは遺産の多寡にかかわらないということでもあり、少ないからこそもめるという例もあるようだ。
そんな相続について広範囲にわたって丁寧に解説といくつかのアドバイスをまとめたのが本書。
誰かの死はかならず相続という問題をあわせ持つけれど、そうした手続きなどについても細かく説明されているので、手続き上のことだけでも参考になる部分は多い。逆に言うとこれほど多くのことを、それも関係機関によって異なる書式や必要書類などをそろえる作業ということを思うと、個人がすべてを行うことの苦労を改めて感じる。
相続にかかわる文書・手続き、相続税に関するもろもろの規定、税計算のためのさまざまな要素など見ていくと、これは本当に素人の手に余るといったほうがよい。もちろん、相続税を納めなくてはならない例はごく稀といえるので、多くの場合にはそうした心配は必要ないとはいえ、相続という点に関しては状況によってはそう簡単にはいかない。
そうしたこともあって本書ですすめているのは、やはり遺言を残しておくということ。とはいえこれもまたそう簡単ではない。近年は簡易に書ける遺言ノートのようなものが売られていたりはするのだが、これらをきちんとしたものにする、死後きちんと処理されるようにするということも含めて考えると、それなりに手も多少の費用もかかると思わなくてはならない。
遺言に不服があれば遺留分について検討しなくてはならなくなる。
なによりも、遺言を残すということを実行しようという人はまだまだ少ないであろうし、たとえば親であったり配偶者であったりにそれを切り出すというのは、いささかためらわれるものもある。
本書はひとつの参考にはなる。ことに遺産についてまとめるあたりなどは参考になる部分は多そうだ。実際の協議でのヒントについては、正直いささか参考にはなりにくいかもしれない。ごく一般的な論にすぎないので、はたしてどこまでそれが有効に作用するだろうかという不安はある。
現実的には未成年の子供と配偶者という例では、実際には相続らしい相続はしないままに配偶者が全面的に相続するようなケースも多いかもしれない(本来的にはそれは間違いなのかもしれないが)。
ただ、すべての相続で相続税がかかるのだと誤解しているような人をはじめ、あまりにも基礎知識に乏しい人には、本書で大雑把な知識を得ておくことは、いずれはあるであろう相続の現場に、少なからず役立つのではなかろうかと。それはことによればそう遠くないかもしれない。
余談ながら、墓地などは相続財産には該当しないというのは、知らなかったのでなるほどと思った。
なお、本題とは関係ないのだけれど、文字化けのまま印刷されている記号部分が二ヶ所ある。他のページにおいてはそうしたことがないので、なぜ化けているのか謎ではあるのだが、増刷されるような時には修正されるとよいのだが。
豆腐+@ が丸付き数字の 1 。豆腐+A が丸付き数字の 2 と思われる。
■、などではないかと。

わが家の相続を円満にまとめる本[新訂版]
- 小堀球美子
- 実務教育出版
- 1575円
書評

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