「風の又三郎」
宮沢賢治はいくつかは読んでいるものの、恐らく又三郎は未読だったのだと思う。 著名なところはある程度読んでいたとは思うので不思議な感じではあるのだけれど、実際あまり覚えがない。
ということで青空文庫の岩波版を読んだのだけれど、比較のために手持ちの筑摩文庫の全集版をぱらぱらと見ると、意外なくらに違いがあってなぜなのだろうと思ってしまう。(持っているならそちらを読めということでもあるが、別の事情によるのでこればかりは)
岩波のほうでは章題が入っていないとか、学年が違っていたりとか、草原に行ったときの人数が違っているとか。 もっとも、このあたりはそもそも不整合な部分が指摘されているのではあるけれど、それにしても異稿もないようなのになぜこうも違うのか。
さらには文章そのものが随分と違う部分もあったりで、なかなかに謎だ。 筑摩書房のものは校本全集の文庫版で、異稿なども収録してあるし、さまざまな補足説明もあってそのあたりの事情に詳しい。 そちらが正しいとかではなく、翻訳でもないのにこれほど違いがでてしまうのは、なぜなのだろうかと。
ちなみに「風乃又三郎」という原稿も存在はするが、文章は異なるもの。部分的にちょっと違うとかいうレベルではないし、これと混ざったとか間違ったとかでもないように見える。
さて。
話としては正直にいって中途半端に終わってしまって、物足りなさが残ってしまった。 恐らく「座敷童」のことをさすのが又三郎という概念なのだろうなと思うのだけれど、そのへんの不思議さは面白いのだけれど、物語全体としてはまとまりにかけたまま終わってしまったように思う。
テレビのドラマなどにもなっていたりするのだが、相当脚色されていたのではなかろうかと。 ゆえになぜここまでこの作品が評価されるのかが、正直なところよくわからない。 悪い作品とは思わないし、賢治らしい作品ではあるのだけれど、しっかり終わっていないという印象がどうしても残ってしまって。
やはりどちらかというと推敲の途中、書いている途中でそのままになってしまった、と考えるのが正しいのかもしれない。
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