新人警官の掟
![]() | 新人警官の掟 上 (創元推理文庫) フェイ・ケラーマン 吉澤 康子 東京創元社 2012-05-30 by G-Tools |
![]() | 新人警官の掟 下 (創元推理文庫) フェイ・ケラーマン 吉澤 康子 東京創元社 2012-05-30 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
子供というのはまだ程度というものを知らず、他人の痛みというものもよく分からないので、時として悪ふざけが過ぎて相手を怒らせたり、泣かせてしまうこともあるもの。けれどそうした経験を重ねることで学習していく。子供であるがゆえにある程度許されること。
しかし、それは大人の世界にも時として存在する。しかも、子供とは違いそれが相手にどれほどのダメージを与えるかをわかったうえで行うという点で、性質が悪いともいえる。
する側は「冗談」だとか「ふざけただけ」だとかいうかもしれない。しかし、ことによってはされる側は死ぬような恐怖を味わうことだってある。
新人警官シンディの身に起きていったいくつかの事件も、そうした新人警官いびりではないかと思われた節があった。もちろんそれにしてはややエスカレートしすぎた感もあったし、あまりに下品な行いでもあった。車にはられた「忘れるな」というメッセージはやり過ごす程度のものであったが、自宅がゴミや汚物で汚されるにいたっては、いささか悪戯の域をでたものではないかという見方も。
シンディは父デッカーにはそんなことはおくびにも出さない。自分は父に頼らなくても立派にやっていけると示したい、そんな気持ちも見え隠れする。デッカーはデッカーで、小さな子連れの女性ばかりを狙った、奇妙な連続カージャック事件に関わっていて、一人暮らしの娘が気になりつつも勝気な性格の娘を前にしてあまり強気にも出られずにいる。
シンディの身に起きる奇妙な事件と、連続カージャック事件の陰に匂ってくる過去の事件との関連。それぞれの捜査とが交錯する中で、シンディへのストーキングが次第に加熱していく。彼女はなぜ狙われるのか? それがまったくわからないまま物語が進展していくので、そのあたりのサスペンスのどきどき感についついページを繰る手が早まる。
今回の主役はシンディといいたいが、父・デッカーの部下であり頼れる相棒のオリヴァーがもうひとりの主役だ。正直デッカーたちが追う連続カージャック事件は刺身のつまのようなものだ。いや、シンディとオリヴァーの物語以外が刺身のつまといっていいのかもしれない。
実際読み終えても登場した事件のすべてにおいて解決がなされたとはとうてい言えない。それぞれについて解決らしきものはあるのだが、具体的なことはほとんどといっていいほど描かれないし、語られない。そのあたりが不満といえばやや不満だ。
けれどもこのシリーズは警察小説であって推理小説ではない。ミステリとひとくくりに言ってしまえば同じにとらえてしまうが、犯人探しや謎解きを楽しんだり、読者に求めるたぐいの小説ではないのだと思えば、これはこれでひとつの形なのかもしれない。
前作「木星(ジュピター)の骨」では物語の構図があまりにもはっきりしていた。邪教団対警察という。今回は一転して相手がまったく見えない恐怖をうまく描き出している。サスペンス感十分だ。
若くてはねっかえりなシンディ。忍び寄る目に見えない敵からくるスリルを、ついつい感情移入しながら読み進めてしまう。この夏の節電対策のひとつにいかが?
「息子たちにパンケーキを作ってやったおかげで、父親としてはきみのパパより上と見なされるわけか」オリヴァーは笑みを浮かべた。「どうも、きみはずいぶん疲れ果ててるようだな。パンケーキはおれに任せるってのはどうだい?」「食べ物を買ってきてくれて、料理までしてくれる。あなたとつきあった女性はものすごくラッキーじゃない?」
(下P.40)

新人警官の掟 上 (創元推理文庫)
- フェイ・ケラーマン
- 東京創元社
- 1092円
書評

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