ミラー衛星衝突
![]() | ミラー衛星衝突 上 (創元SF文庫) ロイス・マクマスター・ビジョルド 小木曽 絢子訳 東京創元社 2012-03-22 by G-Tools |
![]() | ミラー衛星衝突 下 (創元SF文庫) ロイス・マクマスター・ビジョルド 小木曽 絢子訳 東京創元社 2012-03-22 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
物語の設定としては SF である。ユーモアと冒険のスペース・オペラともある。しかし、あえて言う。これは昔懐かしい大映ドラマだと。
それは何? という人には近年はやりで時として蔑視されることすらある韓流ドラマといえばわかるはず。物語はこうだ。
とある事故の調査のために偉い人としてやってきたマイルズ。現地の関係筋でもあり、もうひとりの調査の偉い人の姪であるエカテリンの家に滞在して調査にあたる。エカテリンには夫と 9 歳の息子がいる。しかし、種族的な婚姻関係のルール? のようなものや夫の粗暴な態度などもあって、正直少し夫婦関係に辟易としている面もある。
そこにやってきたマイルズは奇妙なくらいに背の小さい男で、どうもいろいろと曰くのありそうな様子。ただ、柔らかな物腰と言動には好感が持てる。
エカテリンの夫と所属する部署では実は調査を適当にあしらいたい思惑があった。調査の合間に観光でも適当にさせておいて、なんとかうまく治めようとしている。
そんなこともあって一緒に出かけるエカテリンとマイルズ。マイルズは人妻エカテリンが気になって仕方ない。エカテリンにしても、自分の気持ちにそうとは気づかないが、まんざらでもない。
ああ、今ここで告白してしまうべきか。いやいや、まだそれには早すぎる。しかし、このチャンスを失いたくないぞ。どうするんだ、マイルズ。
さらにはエカテリンの家族には重大な難病に関わる問題があるようなのだが、それが誰に関わるものなのかがわからずに悶々とするマイルズ。一方エカテリンもその問題を解決したくて長い年月苦悩しているのだった。
あげく捜査の途中でエカテリンの夫が不幸な事故で死去するにいたってマイルズの感情はさらに高ぶる。
人妻との道ならぬ恋。不治の病(実際は不治ではないのだが)。降りかかるさまざまな困難。これはもう昼メロか、大映ドラマか、韓流ドラマか。
以降はスペースオペラ然としていくものの、雰囲気としてはコージーミステリ風だ。それはひとえにエカテリンパートのなんともいえないやんわりとした空気による。永久機関とか、空間をどうこうしてしまうようなとてつもない新装置とかでてきて、さあどう決着するという結末は、やや拍子抜けするようなところはあるものの大団円であることには違いない。
これが 11 作目というのだが、つまりはこんな物語がこれまで 10 作も書かれてきたというのだろうか!(未読につき妄想過多)
日本人的熱狂に見事にあった物語に SF であるなしはもはや関係ない。ときめきの時間を、さあ存分にご堪能あれ。
それに、声に出して考えるのが好きなんです。思考のスピードが落ちるから、じっくり検討することができる。(下P.59)
人の経歴は個人の努力の賜物かもしれないが結婚は籤のようなもので、しかもその籤を引くのは思春期の終わりか成人になりかけたころの、愚かさと混乱の絶頂期なのだ。まあ、それでいいのだろう。人々に思慮がありすぎたら人類は終わってしまうかもしれない。進化が好むのは、できるだけたくさんの子どもを産み出すことであって、幸福を産み出すことではないのだ。(下P.173)
真理だなあ。

ミラー衛星衝突 上 (創元SF文庫)
- ロイス・マクマスター・ビジョルド
- 東京創元社
- 1029円
書評

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