その後とその前
![]() | その後とその前 瀬戸内 寂聴 さだ まさし 幻冬舎 2012-02-24 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
ドラマであったり、はたまたドキュメンタリーであったり、物語が時系列に沿って展開するのではなく、時間を行きつ戻りつしながら展開していくものが時としてあります。演出としてそれが成功するかどうかは微妙なところもあって、必ずしも良い効果を生むとも限りません。
この対談の構成はまさにそうで、一度対談したあとで東日本大震災が起きたために、その後ふたたび対談したものとあわせて出版されたもの。ただし、前後を順繰りに構成されているのが特徴。
本文冒頭で編集の断り書きがあり、あるいはこうした構成を読みにくく感じる方には、それぞれ(前だけ、後だけ)を拾い読みしてもらいたい、といったことが書かれています。
確かに話のテーマはいろいろに変化していくものなので、一度の対談の中でもいろいろな話題があることを思えば、震災の前後であろうとそれは似たようなものと捉えることもできます。ただ、やはりその基本的なスタンスがあまりに違いすぎるために、どうも小出しに前後が入れ替わると読みにくいというよりは、いらいらしてくるものはあります。
といって同じ時期を探しながら拾い読みするには、正直不便でもあります。内容はともかく、構成の意図はそれとして、それでもなおこの構成を取る必要性・意義はあったのだろうかと、感じざるを得ません。
一方の内容はといえば、これはもう長年生きてこられた寂聴さんのやさしく、丁寧で、そして厳しくも愛のあることばにいちいち胸の隅が痛む思いやら、快哉をあげるようなことまで。
どうしても震災関係の言葉が多くなってしまうけれど、被災者の方に向けてのこんな言葉や、
寂聴:なんでもいいことだけじゃないし、悪いことだけじゃないの。大震災はほんとうに大変な出来事で、いまだに苦しんでいる方も悲しんでいる方もたくさんいらっしゃる。だけど、どんな悪いことの中にも、少しはいいことが含まれてるのよ。(P.35)
支援しようという人に向けては自分自身のことから、こんな言葉を発し、
寂聴:一生懸命働いて、やっとできたお金でしょう? でも、そのときよくわかった。自分が惜しいと思うぐらいあげなきゃダメ。(P.93)
寂聴:それでやっぱり、できる限り現地に行くってことが大事ですね。さだ:現地へね。
寂聴:その場に身を置くと、感じ方はまったく違ってしまいます。どんなにテレビがきれいになったって、絶対に伝えられない真実があるのよ。(P.158)
人生においては寛容が大切なのだと静かに語られる。
寂聴:自分じゃ気がつかないけど、自分の存在そのもので人を傷つけてる。それでも許されて生きてるんだからね、だから、自分も大抵のことは許さなきゃいけないんですよ。(P.180)
「老いては子に従い」とはいうものの、やはり苦難の時代を生き抜いてきた人のことばというのは重みが違うのだと実感する。自らへの戒めもこめて、多くの人にこのことばを送りたい。
寂聴:今の人は感謝しないね。本当に感謝が足りない。(P.74)

その後とその前
- 瀬戸内寂聴_::_さだまさし
- 幻冬舎
- 1365円
書評

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