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さよならジュピター


4894565226さよならジュピター〈上〉 (ハルキ文庫)
小松 左京
角川春樹事務所 1999-05

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4894565234さよならジュピター〈下〉 (ハルキ文庫)
小松 左京
角川春樹事務所 1999-05

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 ハリウッド映画に負けない日本の SF 映画を作るという名目ではじまった「さよならジュピター」。その物語としても、SF 的な詳細な設定にしても、実に見事なものができあがっていたのだけれど、いかんせん映像としてはおもちゃみたいなものになりさがってしまい、なんとも残念な結果だったように記憶している。

 今回、小松左京が亡くなったのを受けて少しだけ再読をというのと、直前に「木星の骨」を読んでいたのもあり、ここはやはり「さよならジュピター」だろうということで再読したのだった。そして、小説になおされたこの作品の映画とは比べ物にならない圧倒的な迫力と緻密さに、気がつけばすっかり引きずり込まれていたわけだ。

 単純に物語を約せば、人類が膨大な数にのぼり、宇宙空間にまで生活域を広げざるを得なくなった時代。人類の生活における膨大なエネルギーを確保するために、木星を第二の太陽としてはどうかという計画が動いていたと。そんなさなかのある日、ブラックホールが太陽をピンポイントで捉えるコースで進んでいることが判明する。

 直撃すれば人類はもちろん、地球も太陽系も壊滅する。といって脱出用宇宙船を急造したところで人類のほんの一握りを脱出させるに足るのみ。さらに、脱出したところでどこへ行くというのか。その先で安住の地があるという保証すらない。

 そこで同時進行的に木星を爆発させてブラックホールへぶつけ、そのコースを変えてしまおうという計画が進められる。一方で、そんな中でも政治や経済といった方面で権力を得ようと画策する動きや、カルト的な活動家たちによるさまざまな破壊工作活動が展開。退廃的な人々や、なんの変わりもしない人々、あわてふためくばかりの人々。この期に及んですら人の営みは常と変わらない。

 はたしてブラックホールクライシスは回避されるのか。脱出していった人類に未来はあるのか。といったあたりが物語りの表側ではある。実際、中盤以降そのあたりのやりとりで手に汗握る場面が連続する。

 けれども、実はその裏にあるテーマは人類は宇宙で生きていくことは可能なのだろうか? というもの。太陽系という宇宙空間で生活している人々と、地球にとどまって生活している人々との間に考え方の乖離が生じていく様をそこここに描きだしている。宇宙は人類にとって決して優しい空間ではなくて、常に危険と隣り合わせ。静かな牙をむく空間であるかもしれない。それでも、人類はそこへいかなくてはならないのか。いくべきなのか。

 水樹和佳のかつての代表作「樹魔・伝説」で問われたテーマが同様のもので、人類は宇宙へ出ることはできない、宇宙へ出るべきではないといった考え方。しかし、過去を見れば人類はそうしたことの繰り返しで今日に至っているのかもしれない。アフリカの大地から広大な土地を求めて進出し、争いや自然現象といった困難を乗り越えつつその生息地を広げていった。そして、それが今、宇宙へと向かおうとしているのかもしれないと。

 まあ、そんな大それたことはともかくとしても、小説の「さよならジュピター」の迫力は、まさにハリウッド製作の SF 大作を見ているかのような印象。小難しい用語もたくさんでてくるけれど、それはもうそういうものと聞き流し、とにかく大きなうねりに身を任せれば、とてつもなく壮大な物語を存分に堪能できることだけは間違いない。

 やはり、小松左京は偉大だった。


 文庫になって残っているらしい。

4150306567樹魔・伝説 (ハヤカワ文庫 JA (656))
水樹 和佳子
早川書房 2001-01

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コメント

映像化された小松作品が、ほとんど可哀想な結果になってしまったのは、当時の映画界にはSFの本質と、それをどう表現したら良いのかを理解している人間がほとんど存在しなかったゆえの悲劇でしょうね。
さよならジュピターも、部分部分を見れば、けっこう頑張ってるところはあるんですけど、映画作品としては残念なことになっちゃいました。

投稿: 黒豆 | 2012.02.15 14:00

そうですね。個々の部分に関してはなかなかいい線のところもあったと思うのですが、全体としては。
ただ、遠い記憶なので、あらためて見てみたいという怖いもの見たさのようなものもあったりします(^^;

投稿: ムムリク | 2012.02.15 17:14

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