« わたしは誰々である | トップページ | 炒り大豆をつくってみた »

夏の夜のわるい夢


4488198090夏の夜のわるい夢 (創元推理文庫)
ジェイニー・ボライソー 安野 玲
東京創元社 2011-12-10

by G-Tools


 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 前回読んだ「待ちに待った個展の夜に」の時には他のコージー・ミステリよりはミステリ然としていると思ったのだけれど、今回はミステリとしての評価はあまり高くない。事件としては頻発している空き巣事件に、少女への暴行事件が連続する。微妙な事件ゆえに捜査がなかなか進展しないというのはそのとおりであるし、それが主人公であるローズの立場を有効にするよい設定になっているのも確かではあるのだけれど。

 少女への暴行事件では、たまたまローズの家の庭木などの手入れを頼んだ業者の男性が怪しく見え、さらにはこの頃越してきたばかりの夫婦の主人には、事の真相は不明ながら類似のできれば秘密にしておきたい過去がある。

 一方で暴行された少女は多くを語ろうとしない。この手の事件としては当然ともいえるものの、どこかに不自然さが残っている。親しい女友達とも事件をきっかけに距離を置いている。少女暴行事件ではとうとう死者がでるにいたるが、事件の進展はないまま。

 物語の 8 割方まではそれらしいネタもないままに進むのだが、突如としてローズにひらめくものがあるようで、けれど彼女はそれを刑事であるジャックに話そうとしない。他のことは話すのだが、「これはまだ話すべきでないな」と思ってやめてしまうということが何度か描かれる。これがどうにもひっかかってしまう。

 物語としての展開からそれを明かせないということなのではあろうけれど、話さないことの必然性がどうにも読者に伝わらない。それとそれは話ながら、なぜこれを話さないのかというへりくつでもいいから理由があれば、まあそういう展開だよねと読者は思うのだが、それがないのでどうにも嫌な気分になってしまう。

 そしてほとんど唐突に犯人がわかってしまうといった結末は、今回著者はどうしてしまったのか? と思うくらいな残念さを残してしまった。勘のいい読者なら途中から予想がつきそうな事件背景が見えているのでなおのこと。

 では、つまらない作品なのかといえば、そうでもない。

 コーンウォールの風景や空気、匂いや色までも伝わってくるようなその描写は健在で、しかも妙にごてごてとしていない。風景や情景の描写に懲りだすと、どうにもそれがうとましく感じられてしまうほどくどくなる場合というのが往々にしてあるのだけれど、ボライソーの作品にはそれがない。それは、ひとつには訳者のうまさというのがあるのかもしれないけれど、読み手のリズムを崩さないままに自然に文章をつむいでいるそのうまさに多くを拠っている。

 こんなところでの暮らしというのもいいだろうなあ、とおもわず読者に感じさせてしまう魅力がさりげなく、けれどもしっかりと描かれていく。この点がこのシリーズの一番の魅力といってもよい。

 今回はローズの両親との関係がより色濃く描かれている部分もあり、親子や家族、老いと若さといったものを考えさせる面も強い。

 繰り返しになるけれど、ミステリとしてはいささか出来はよくない。けれども、コーンウォールという地域を描いた物語としてはいつもながらに魅力的だ。次回でシリーズとしては最後になるそうだが、どのような結末を用意してくれているのか、物語の終りとしてのそれが楽しみな作品ではある。



夏の夜のわるい夢 (創元推理文庫)
  • ジェイニー・ボライソー
  • 東京創元社
  • 945円
Amazonで購入
書評

|
|

« わたしは誰々である | トップページ | 炒り大豆をつくってみた »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/28835/53915616

この記事へのトラックバック一覧です: 夏の夜のわるい夢:

« わたしは誰々である | トップページ | 炒り大豆をつくってみた »