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木星の骨


4488282172木星の骨 上 (創元推理文庫)
フェイ・ケラーマン 高橋 恭美子
東京創元社 2011-09-21

by G-Tools

4488282180木星の骨 下 (創元推理文庫)
フェイ・ケラーマン 高橋 恭美子
東京創元社 2011-09-21

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 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 「儲けるという漢字は信者と書く」というのは有名なアナグラム的解釈ですが、時代が荒れているときほど宗教が流行るともいわれ、旧来の宗教のエッセンスだけを寄せ集めたような、はたまたもはや SF ではないかという荒唐無稽な教義を掲げたものまで、新興宗教というものが現れたりもする。殊に金集めに執着しつつもそれを否定するような新興宗教であれば、まさにそれは先のアナグラムを証明しているようなもの。

 今回のデッカーの相手はそんな宗教団体「神の環教団」。さながら要塞のように周囲を囲み、建物にはほとんど窓がなく、数百人はいようかという信者たちはそこで自給自足の生活をしている。外部との接触はほとんどない。教祖はかつて天体物理学で名をはせた著名な人物ジュピター。教団の外の世界にいる人々は邪悪な者たちで、いつか宇宙からかれら教団を助けにきてくれるとかこないとか、そうしたことをまことしやかに信じている。

 その教祖が死んだという知らせが警察に届いたのは、疎遠になっていたというジュピターの実の娘から。かけつけてみると遺体は動かされ儀式を行って埋葬でもしようかという教団の動き。あくまでも不振死であることから捜査を進めるものの、教団側は決して手放しで協力的とは言いがたく、むしろけんか腰でデッカーらに応対するリーダー格の男、プルート。

 現状の保存が十分になされなかったことや、いまひとつ協力的でないことなどもあって進展を見せない捜査のなかで、教団の女性と少女が行方不明になり、誘拐されたのだと訴える教団。そうこうするうちに教団所有の養鶏場でリーダー格のひとりがむごたらしい切断遺体で発見されるにいたって、事態は少しばかり変化をみせはじめる。

 そして下巻に突入したところからは一気に事態は動きを見せて教団と警察との全面戦争へ。要塞然とした教団建物にはうかつに近づけず、内部には爆弾をしかけているとの情報もあり、手をこまねく警察。中にはすっかり洗脳されてしまっているとはいえ多くの子供もいる。救出のための手段はないのか。上巻のややゆったりした展開とはうってかわって、下巻の手に汗握る緊迫感がなんともいえないコントラストをみせる。

 そうした事件のさなかにも家庭になんとか戻って父親たらんとするデッカーの姿が描かれるのが、このシリーズの特徴。義理の息子たちときちんと向き合って語りあうなかで、子供の複雑な心情や境遇について語られる。かつて彼らが遭遇した不幸な事件についても今回はじめて言及され、刑事であり父親という立場でありながらそれに気づけなかったことを悔やむ姿は、そのまま教団の子供に向かう姿勢とも重なっていく。

 そうした家族や夫婦の成長物語という位置づけもこのシリーズにはあって、ただの警察小説やサスペンス小説に終わっていない要因。ひらたく言えば実に人間味にあふれているということ。

 教団との戦争が終結するところで、映画でいえばさながらエンドロールが流れるけれど、その後に置かれたエピソードの深さも忘れてはいけない。すべてが解決、収まったかに見えていたところに思いがけない展開。

 読み始めたら一気に最後までひっぱってくれるその文章のうまさにも相変わらずうれしくなる。しっかりと準備を整えてから読み始めることをお薦めします。


オリヴァーが問いかけた。「この男の言っていることがわかる者はいるかい?」
「わかんなくていいの」とマージ。「言ってる本人だって、どうせわかっちゃいないんだから。でも、自分に酔ってるのはたしかね」(P.157)

「ぼくらが知ってるとは思ってなかっただろうね。大人って、子供には目も耳もないと思ってるんだ。もちろんぼくらは事件のことを知ってたよ。ひとことも口にしなかっただけで。だって母さんは怯えきってたし、学校全体が動揺してたから。だれも、面倒な子供たちの話を聞いてくれる暇なんかあるわけないよね」(P.307)


木星の骨  (上下巻)
  • フェイ・ケラーマン
  • 東京創元社
  • 1008円
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