季節の終り
銀行家の夫婦が旅行にでようとしたところ夫人のパスポートが作成できなかった。出生証明書が偽造されているというのだった。そのため夫人の出生を調べてほしいというのがサムスンへの依頼。調べを進めるうちにどうやら母親はバーで歌手をしていた女性らしいと分かるが、その先がなかなか進まない。養女として育てていた女性はすでに施設に入っていて、痴呆が進んでいるようだという声もあるものの、サムスンの印象としては振りをしているだけではないかという様子も。ただ、頑なに語ろうとはしない。
そんなさなかに「いますぐこちらの仕事にとりかかってくれるなら長期にわたって十分な報酬を払う用意がある」という依頼が。貧乏探偵のサムスンにとっては願ってもない話ではあるものの、一度はじめた調査を打ち切る気にもなれない。まして、調べるほどに謎は深まりどうにも気になって仕方ないのだから。
クラブ歌手の玉の輿の果ての殺人事件。裁判の結果無罪となって以降その姿は杳として知れず、けれど母親とおぼしき彼女は今も娘の様子を気にして調べている気配も。鍵を握るとおぼしき養母が殺害されるや、これで終わりかと思ったものの、丹念に調査を進めるサムスンが少しずつ 50 年前の事件の謎を解き明かしていく。
ところが読者としてはこれがなかなか分かりにくい。いや、およそこうかなと思うのではあるけれど、なんとも人物がこみいってきて次第に分からなくなってくる。けれども、怒涛の結末はなるほどと膝を打つものでリューインのうまさにうなってしまう。
淡々と、けれど事実の解明には決して妥協しない、それでいて人に対するやさしい心遣いも忘れないサムスンの面目躍如という作品。でも、読後ちょっと秋風を感じたりはする。作品としては冬なのだけれど。タイトルもうまいなあ。
季節の終り (ハヤカワ・ミステリ文庫) マイクル・Z. リューイン Michael Z. Lewin 早川書房 1996-08 by G-Tools |
追記:10/23
人生は短い。なによりも大切なのは人間であり、心の通じあえる人間は大切にしなければならない。(P.338)
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