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マークIリポート

 8/14 放送の ETV 特集「アメリカが見た福島原発事故」を二回見た。

 福島第一原子力発電所 1 ~ 5 号機に導入されたアメリカ GE 社製原子炉、マークI。GE の技術者だったブライデンボウ氏はマークIの安全性について 1970 年代に検証し、マークIは重大な事故が起きた際に安全性を維持できないという可能性に気づき、電力会社や GE の上層部に進言したが聞き入れてもらえなかった。

 マークIは原子炉ビジネスを拡大するために、異様なほど原子炉格納容器を小さく設計。事故により多量の水素や水蒸気が発生した場合、通常格納容器は大きいほうが安全であるとされてきたが、コストを下げるために原子炉容器は大きくした一方で格納容器は非常に小さく作られた。それを補うという目的で設計されたのが、圧力抑制プールというドーナツ状の部分だが、ブライデンボウ氏の調査で、重大事故発生時に想定以上の力が圧力抑制プールにかかり、破壊する可能性すらあることが判明。安全を確認できるまでは、すべてのマークIを停止すべきと進言。

 しかし、上司は「そこまで悪くはないだろう。マークIを停止させれば、GE の原子力ビジネスは終わりだ」と言ったとか。

 結局ブライデンボウ氏は GE を退職し、連邦議会の特別委員会で証言するなど啓発を続けることにしたとか。

 ところがこのときに反対側の主張の大きなよりどころとなったのが、ラスムッセン報告書という存在で、そこでは原子力発電所が重大な事故を起こす確率は隕石がぶつかるのにも似たほどきわめて少ないものだから、考慮する必要などないというもの。恣意的に事故の可能性を低く見積もった上で、最終的な安全対策の必要性まで低く出すという、いわば結果ありきの論旨ではあるのだけれど、結局こうした意見が通ってしまう。

 1980 年代。スリーマイル島での事故を受けて、すべての原子炉について安全性を検証することになったものの、ここでもまた有効な議論も解決も行われなかった。マークIの小さすぎる格納容器の問題は指摘されながらも、「電力会社の圧力によって NRC がこの問題から手を引いてしまった」。

 NRC の依頼を受けてマークIの安全性について検証をしていたケネス・バジョロ氏は、マークIの小さすぎる格納容器についてふれ、「大きな格納容器であれば、事故によって発生した水素を安全に処理できる」が、「マークIは構造上の問題を抱えている」と言った。そして、今回の福島原発事故の推移を見ていて、自らが検証して分析した通りに事故が進んでいたとも。

 結局有効な結論を出しえなかった NRC 側はそれでもというところで、ベント機能を後付けするように指針に盛り込んだ。結果として日本でもベントが追加されたが、ここにはフィルターはなく、しかも一系統しかベントのルートがないため、安全性という点ではきわめてずさんな対処にとどまったと。ただ、これはアメリカという立地での NRC の判断にすぎず、比較的地震の少ない地域だったからそれで済んでいたという話で、それをそのまま日本に適用して済ませていたというところにそもそも問題があると。

 先のバジョロ氏は、「多様性こそが様々な脅威から原子炉の安全を守る最善の防御」といい、実際 NRC や日本の関係機関でも「多重・多様性」の重要性は認識されてはいたようだけれども、実際にそれが厳格に運用されていたかというと残念ながらそうではなかったと。

 福島第一原発においては非常用電源を増やす際に、それまで地上にあったひとつの電源を廃止し、地下にあらたにふたつの電源を隣あわせるようにして設置。これならば地震には耐えるであろうということらしいが、バジョロ氏も「それは重大なミスだ」と指摘。

 しかし、これに対して原子炉で事故が起きる確率はきわめて低いのだから、事故が起きたときのことを考える必要などないじゃないか、というのが原子力行政を動かす機関の考え方。「大地震なんて想定外のことが起きたのだから、多重化・多様化するかしないかということと、それは無関係でしょう」といった考え。

 少なくとも 30 年あまり前からその安全性に疑問をもたれていたマークIにおいて、きちんとした安全対応がこれまでなされてこなかったという現実と、この事故を思えば、まずはマークIについては安全の確保まで停止せざるを得ないところなのかもしれない。他のタイプはまた別の話として検証すべきで、それをなにもかも同列で扱ってしまうのもまた極論でおかしな議論なのではないかとは思う。

 バジョロ氏が最後にこう言った。「原発の安全性を脅かす最悪のものは、想定を決めて想定外を無視すること。それが大きな過ちだ」と。想定の範囲を規定してしまうことが問題なのだと。

 原発に対する不安はもっともなことで、それに頼りすぎる社会よりは、ここでもまた多様性を持った社会を目指すというのは理にかなったことではあろうけれども、すべて同じにして原発はいますぐ廃止しろという議論にするのは感情的すぎる嫌いもあるのではないかなとは思う。

 少なくともマークIについてこれだけの検証がなされていながら、きちんとした対策が何もされないままきていたことは重大な問題として考えるべきだろうなとは。

20 年前にマークIは廃炉にすべきだった。しかし、廃炉できず事故を起こしてしまった。(ブライデンボウ氏)

 いずれにしてもこの番組。ETV ということではたしてどれほどの人が見たのかというと、あまり多くはないのではなかろうかとも思えてしまう。できれば総合で再放送などしてくれるとよいがなあと。

#と、そんなことを思いつつ NHK のサイトを見たら、一部間違っていた部分があったということで訂正が出ていた。再放送ではそのあたりを修正して放送するとか。ということで、非常用電源はもともと地下にあったのをふたつにしたというのが正しいとか。とはいえ、同じレベルにふたつ設置し、それ以外にはないというのは安全担保の点から意味がないというのは同じことかと。

お詫びと訂正

8月14日放送のETV特集「アメリカから見た福島原発事故」で触れた福島第一原発について、
・格納容器の蓋のボルトが浮いている映像を1号機と紹介しましたが、4号機の間違いでした。
・非常用ディーゼル発電機が1階から地下に移されたとお伝えしましたが、最初から地下に設置されているものでした。
お詫びの上、訂正いたします。
今後、事実の確認に関しては十分注意を払ってまいります。
この番組は9月4日(日)午前0時20分~(土曜深夜)再放送を予定していますが、誤っていた一部の表現・映像を修正して放送します。
NHKオンデマンド(見逃し番組)で9月4日(日)午後6時から2週間配信されます。

# うーむ、週末の土曜日深夜ですか。違う時間の総合でやってくれたらうれしいのになあ。

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