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パンドラ


4150309078パンドラ1 (ハヤカワ文庫JA)
谷 甲州
早川書房 2007-11-22

by G-Tools

 はじまりは見事な天体ショーだった。流星群による美しい光が地球上の夜空を走った。

 マレーシア。動物によると見られる襲撃事件が発生。当初はごく一般的な獣害と思われていた。猿のグループと見るものの、その行動はあまりに組織的で知的な戦略によっていた。やがて鹿に乗った不思議な猿との攻防がはじまる。かろうじてその猿を殺すことに成功し、事件は収束したかに見えた。

 国際宇宙ステーション。流星群の直撃により実験モジュールに被害を受け、数人を残していったん地上へと帰還するが、再度訪れると様子はすっかり変わっている。残っていた乗員は褐色の藻類のようなものに覆われ、まるで傀儡師のような謎の知的生命体によって操られていた。人の体を使って宇宙機を操作し、地上へ降りようと画策する謎の生命体。阻止しようとするも、なすすべもなく宇宙機は地上へと降下していく。

 オーストラリア。周辺海域から魚の姿が消える。酸素濃度が極端に低い海域も確認される。一方でそうした海域がまるで生き物のように移動してインドネシア方面に向かう事象が確認される。現地の海洋研究者が海中で褐色の藻類のようなものにとりまかれた魚と遭遇。たまたま採取した同じ不思議な生命体を体につけたカモノハシを自らのプールで飼育。自らに移して実験をすると、酸素ボンベなしで水中を行動できることを確認する。

 ボルネオ。宇宙ステーションから地上へ降り立った知的生命体の目的地。さまざまな動物に変化が現れており、人間に対して組織的に抵抗をみせはじめる。すべての動物が変異したのか、それとも一部の動物が変異して高度な知能を持ったのか。一方で原住民の退化も見られた。退化した原住民を手下にする動きも。

 やがて研究者たちの調査・討議を経て得られてきた結論は「パンドラ・フォーミング」。流星群をもたらした彗星パンドラは、それそのものかどうかは不明ながら知的生命体によるもので、彼らが地球をみずからの生存に適した形に変えようとしている。その一端としてもっとも問題である人類に敵対しているのではないかと。

 なんとか共存の道はないのかとさぐる動きもあるものの、結局それは受け入れられないものという判断がなされ、次にパンドラによって影響を受けるまでに宇宙船の準備をすすめ、パンドラの動きそのものを封じ込めるための国際プロジェクトがはじまる。ところが、パンドラの軌道上にはもうひとつ物体が発見され、パンドラ2と命名されたそれはわずか 5 年ほど後に地球軌道に到達すると思われた。その際に大量のパンドラ・フォーミングのための物質が地球にふりそそげば、もはや地球は人類の住む星ではなくなってしまう。

 計画は前倒しされ、地球規模で宇宙船の建造と宇宙飛行士の養成などが進められる。しかし、時間的な余裕の一切ない状況下で起きるのは、中国やロシアによる政治的なかけひき。このままで計画は無事に遂行されるのか。パンドラ2の接近を、パンドラ・フォーミングを阻止することは可能なのか。

 なんとも奇抜な発想のファーストコンタクトで、さらに国際政治的なかけひきまでおこる SF の殻をかぶったサスペンスとでもいおうか。端的でありながら十分な状況描写、そしてなによりも奇妙奇天烈な発想とで長大な物語にもかかわらず、ぐいぐいと読ませてしまう。谷甲州の本領発揮ともいえる。

 単行本上巻にあたる文庫1・2巻で地球上と国際宇宙ステーションをめぐる前半の物語が。そして、続く3・4巻でいよいよ宇宙にでてパンドラ2と対峙するという場面が描かれる。どちらも相当量のページ数であるのに、読み終えて感じるのはもう終わってしまったのかというくらいの密度の濃さ。終盤はさながら「さよならジュピター」か「アルマゲドン」かという思いもするが、はっきりいってそれらは比べ物にならない展開が待っているはず。もちろん、リメイクされた「宇宙戦争」みたいなまがいものでは間違ってもない。極限の現場を書かせたら天下一品かもしれない。

 もちろん難がないわけではなくて、一介の動物学者でしかない主人公や、自衛官、警察官などなどが短期の養成を受けたとはいえ、宇宙機のコントロールを的確に判断できたり、データ分析をなんなくこなしてしまったりというのは現実的には無理があるだろうなとは。そこまで的確な物理学的な分析や判断が、用意されたコンピュータシステムを利用してとはいえ簡単になされてしまうのは、どれほど優秀なのかと。

 小説なのだからそこまで現実味を期待してはいけない部分はあるし、それはそれとしてなのだけれど、それほどまでに描写が細かく真実味を高めているということではあるのかもしれない。

 「異性人の郷」は年代設定そのものには意外性があったものの、ファーストコンタクトものとしてはある意味定石通りのものだったかもしれない。けれども「パンドラ」はなにもかもが新鮮で SF の醍醐味を思う存分味わえるというもの。この感動はある種、「2001 年宇宙の旅」にも似ている。

 これほどの作品を 7 年も知らずにいたのが悔やまれるくらいに。


 以下、本文からのクリップをいくつか。(ほとんど 3 巻だなあ)

 朝倉にとっては、落胆せざるをえない結果だった。全世界規模で同時発生しつつある事件なのに、日本では対岸の火事としかみていない。

 その上に大げさすぎる表現が、かえって事件の存在を薄くしていた。自分たちとは無関係だという思いこみが、的はずれな主張になっているのではないか。(「3」P.43)


世論形成の戦略がさだまらないうちに、未公開情報が漏れたのが根本的な原因だった。悪いことにリークされた情報は、対パンドラ戦略の暗部ともいうべき部分だった。センセーショナルな報道が、それに追い討ちをかけた。

 危機管理と広報の連携もまずかった。情報公開が遅れたせいで、憶測だけが飛びかうことになった。結果的に不確かな情報が一人歩きをして、事実とはかけ離れた噂が定着した。
 事態に気づいたときには、もう手遅れだった。情報の公開に踏みきったところで、噂を打ち消すことはできなかった。当事者に対する不信感が、予想外に大きくなっていたのだ。
(「3」P.55)


「電子機器メーカーの工場がある国は、ほとんどが動員されているはずよ。部品の発注もされないのは、よほど品質管理が杜撰な国だけだわ」(「3」P.116)

ある意味でこれは、非常に危険な状態だった。指揮系統が不明確なものだから、責任の所在も曖昧になっていた。それなのに、彼らが危機感を持っている様子はなかった。(「3」P.274)


 --だが宇宙を知らない政治家に、問題の本質を見抜けるのか。

 政治家が余計な口出しをするものだから、現場の人間はいつも苦労させられる--そういったシン少校の言葉が、急に思いだされた。堂嶋二佐のように毅然とした態度をとる政治家が、果たして地上にいるのかどうか。(「3」P.359)


 そのことを考えると、いいようのない虚しさを感じた。いったい自分たちは、何をしているのか。これは人類の存続をかけた宇宙戦争ではなかったのか。それなのに自分たちは、低次元の争いをくり返している。結束して共通の敵にあたるどころか、味方同士で足の引っ張りあいをはじめる始末だった。こんなことで、本当に敵と戦えるのか。(「4」P.15)

4150309086パンドラ2 (ハヤカワ文庫JA)
谷 甲州
早川書房 2007-11-22

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4150309094パンドラ3 (ハヤカワ文庫JA)
谷 甲州
早川書房 2007-12-07

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4150309108パンドラ4 (ハヤカワ文庫JA)
谷 甲州
早川書房 2007-12-07

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コメント

何だか「えっ?何時の、何処の話し?」という気がします。

国挙げての危機も、世界の危機も、単なる政治的なかけひきの道具とする輩たちはいるのですね。

投稿: | 2011.07.04 12:57

フィクションとしたらごくありがちな設定かもしれませんけれど、あまりに現状とリンクしすぎていて気になってしまいますね。
それだけに面白く読めたのも確かですけれど。

投稿: ムムリク | 2011.07.04 15:35

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