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長いお別れ


4150704511長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))
レイモンド・チャンドラー 訳:清水 俊二
早川書房 1976-04

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 寡作といってよいチャンドラーのなかで唯一の長さを持った長編。およそ 480 ページになるのだけれど、不思議と長さを感じさせない。すっと沁み込むように物語の世界に入っていって、時間が自然と共有されていく。気が付けばページが進んでいたという印象。

 それはチャンドラーの描いたキャラクターの妙であったかもしれないし、小粋な会話であったかもしれないし、時代の雰囲気漂う描写であったかもしれないし、丁寧ではあってもくどいわけではないしっかりとした文章のタッチであったかもしれない。違和感なく読むほどに物語に入り込んでしまう独特のタッチ。もちろん、そこには訳者、清水俊二さんの優しく丁寧な日本語のすばらしさもあるはず。

 本作に限った話ではないものの、本作のマーロウはいつも以上に事件に振り回されている印象が強い。ふとしたことで知り合ったテリー・レノックスという男の不思議な人生。逃亡を助けたとして逮捕、留置され、これで終わったかと思ったマーロウなのに、テリーが告白を残して自殺したと分かったことで釈放。

 ところがその後も不思議とテリーと関係のあった人物から接触が重なり、いくつかの事件が起きては巻き込まれていく。テリーの影がマーロウに擦り寄ってくるかの如く。けれど、それらの事件や関係は少しもお互いの関連を持とうとは特にしておらず、ましてテリーが犯したとされる殺人や、テリー自身のことをどうこうするということでもない。はたして物語はどこへ向かおうとしているのかと、ほとんど終盤近くまでわからない。

 そして一気にそれらがつながりあう終盤にきて物語は急展開を迎え、終わりかと思わせつつも、まだかなりのページ数を残しているのだ。それ以上いったいなにが語られるというのか。

 けれど、それこそがこの物語の本筋だったのだとわかったころには、いろいろの謎が氷解してくるという仕掛け。なかなかに心憎い。

 俺・マーロウではなく、私・マーロウであるがゆえに余計に不思議な意味を感じてしまいそうな「長いお別れ」。果たして長い別れを告げたのは誰であったのか、そしてまたそれは誰に向けたものであったのか。いくつかの余韻がいつまでも残る、少し切ない名品。

#チャンドラー再読は、もう少し続く。

 いずれは村上訳も読んでみたい。

4150704619ロング・グッドバイ (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-11)
レイモンド・チャンドラー 村上 春樹
早川書房 2010-09-09

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