異星人の郷(上・下)
![]() | 異星人の郷 上 (創元SF文庫) マイクル・フリン 嶋田 洋一 東京創元社 2010-10-28 by G-Tools |
![]() | 異星人の郷 下 (創元SF文庫) マイクル・フリン 嶋田 洋一 東京創元社 2010-10-28 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
SF のテーマとしては著名なものがいくつかあるけれど、ファーストコンタクトと呼ばれるものもそのひとつ。大体は異星人との出会いということになるし、ここでも相手は異星人だ。しかもその容姿はバッタのそれによく似ているという。異星人の側が地球にやってくるというのも特段珍しいというわけではないのだが、その年代が 14 世紀であるというのはやや特異な感じがして、それだけでなんだか興味を覚えた。
が、実のところファーストコンタクトそのものがメインのテーマではなく、本当のテーマは異星人へのキリスト教の布教は可能なのか、ということと言ってよいのかもしれない。
14 世紀中ごろのドイツのとある山間の村に現れたバッタの姿に似た異星人たち。異形の彼らを”悪魔”と考える人々も多いなかで、はじめに接触することになった神父は神の教えにもとづいて彼らをも受け入れようとする。彼らが持つ翻訳装置、意思疎通の装置を解して介して会話が繰り返されることによって、双方が次第に理解を深めていく様がなかなか見事だ。
物語に深みをあたえるのが、当時のヨーロッパの情勢であったり、戦や宗教観念であったり、そしてなにより物語の展開の中心に関わってくるのが黒死病と恐れられたペストの蔓延。次第にせまりくるペストの恐怖と、それに立ち向かう人々のなかに異星人が協力する中で、彼らを受け入れられない人々との確執。あまりに生々しいペストとの闘いの描写は、その恐ろしさをこれでもかと印象付ける。
一方で異星人はなんとかして自分たちの世界に戻ろうとする動きと、やがて洗礼を受けてとどまることを選ぼうとする一部の者たちとのずれといったものとがあわせて描かれる。およそ一年あまりの短時日の間に、まったく異なる文化、種族であっても、そこまで意思の疎通、宗教的な概念への理解と信仰というものがすすむものだろうか、という疑問はないでもないけれど、そのあたりを丁寧に描いているのは間違いないところ。
そうした 14 世紀当時の物語が全体の多くを占めるのだけれど、合間あいまに現在のドラマがはさまれる。実のところ、この現在の物語のほうがもともと書かれた小説だったらしいが、そのアイデアを過去のできごとをもっと丁寧に描くことで再構成されたのが本書ということらしい。現在の物語は、歴史から消えてしまった村の存在を調べているうちに、奇妙な記録をいろいろ発見し、それらを総合して考えると異性人との接触があったのではないかと考えられるというもの。そこに空間移動の物理的な理論の展開も加わり、それが真実味を帯びて結末へとなだれこむ。
ただ、この現在の部分はやや物足りなさというか、わかりにくさを持っているような印象も強かった。特に前半のあたりにそのへんが顕著な印象。おそらくこの部分だけで読んでいたらそうでもないのかもしれないが、14 世紀の話が大半を占めているだけに中途半端な感じがしてしまうのだった。
とはいえ、結末になっての展開はなかなかに見事で物語のすべてをきっちりとまとめあげてくれている。まあ、できすぎといえなくもないが、そのくらいのロマンがあってもよいのではと許せるような終わりとはいえそう。
ペストの大流行によって膨大な人口を失った当時の社会を思えば、小さな村がそっくり消滅し、禁断の地とされて歴史から消え去ったことがあったとしても、なんの不思議もないということを、うまく使ったアイデアの面白さは絶妙。フィクションであるのに、フィクションでなかったとしてもあるいは不思議ではないかもしれないと、ふと思わせてしまう妙な説得力まで持った作品として、評価が高いのも頷けそう。
SF らしい醍醐味を味わえる一冊。

異星人の郷 (上下巻)
- マイクル・フリン
- 東京創元社
- 987円
書評

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コメント
今、下巻を読んでいるところです。
感想は読み終わったら…(^^)
投稿: 黒豆 | 2010.12.15 09:02
お待ちしています。
投稿: ムムリク | 2010.12.15 10:49
感想、TBしました(^^!
投稿: 黒豆 | 2010.12.16 14:38
読みました~。
投稿: ムムリク | 2010.12.16 16:09