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海の底


4043898029海の底 (角川文庫)
有川 浩
角川グループパブリッシング 2009-04-25

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 とてつもなく荒唐無稽なイフを前提におき、それを現実的な線にそってこれでもかとシミュレーションしていく。それが、この一連のシリーズ。今回のそれは巨大化した深海生物。ザリガニのお化けのようなそれが大挙して港から上陸し、市街へと押し寄せ、人々を襲う。さながらかつての東映特撮映画を思わせるような状況が、現代に再現された形。そしてそれは、ある意味かつてよりもガチガチに凝り固まった社会の縮図を見ることにもなって、歯がゆいやら、不謹慎ながらも面白いやら。

 舞台が横須賀ということがいっそう展開を面白くしてくれている。自衛隊と米軍の微妙な地理的な、そして外交的な位置関係をも加味して微妙な動きが同時進行。しかし、現実的な主たる対応は警察による警備行動にゆだねられているわけだ。このあたりの内部的な揺籃も面白い。

 そしてもうひとつの主たる舞台である、停泊中の自衛隊潜水艦内部での子供たちと自衛官の物語。ザリガニのお化けのような生物の侵攻に対して、辛くも逃げ込んだ潜水艦での生活を余儀なくされ、そこでまきおこされる小さくもやっかいな対立。子供であろうと大人と変わりないというか、子供であるからこそやっかいであるというか。脱出を試みようとしても、ザリガニお化けに阻まれて思うにまかせない。

 さらにそれらをとりまくマスコミであり、時代の情報源であるインターネットが重要な役どころをしたり。代わる代わる展開されていくその様は疑似体験としても、なかなかに緊迫してくれる。

 もちろん人物の描写もなかなか丁寧で、感情移入の要件を存分に満たしてくれる。やや極端なのはこうした場合むしろ好都合で、イフがイフである所以でもあるか。土台いくつかの嘘といくつかの事実とをうまく混ぜて調理してやるのが小説の醍醐味なわけで、極端なくらいがちょうどいい。それでいてドキリとさせるような展開も随所に織り込んでいるあたりは心憎いばかり。

 もっとも、それだけに終盤の展開はあまりに急激に結末へとたどりついてしまう感もなくはない。実際そのとおりではあるのだろうけれど、このあたりは好みがわかれるところかもしれない。まあ、現実的な解なのだろうなと。あとがきで著者が”チャット詰め将棋”と称したわけでもある。

 にしてもこの緊迫した人間ドラマをぐいぐいと読ませてくれる筆力はさすがだなあと脱帽するしかないなあ。これでデビュー5年あまりだなんて。有川浩、恐るべしというのは間違いないな。

 なんとなく読んでいる間、かつての特撮映画「マタンゴ」を思い出してしかたなかった。もしもあんなテイストで映像化されたなら案外面白いかもしれない。今の日本の特撮映画で作ったら駄作になるだろうから、あまり期待できないが、かといってハリウッド製作にすると似て非なるものになってしまうだろうしと、なかなか難しい。でも、なんとなく映像も見てみたい気がしてしまうのだよなあ。

 次はこれを。

4043898037塩の街 (角川文庫)
有川 浩
角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-01-23

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