ジュゴン 海草帯からのメッセージ
![]() | ジュゴン―海草帯からのメッセージ 土屋 誠 カンジャナ アドュンヤヌコソン 東海大学出版会 2010-10 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
個体数の減少により保護対象となっているジュゴンについて、こどもをはじめ一般の人々にもっと知ってもらおうと描かれたタイの絵本を日本語に翻訳するにあたり、ジュゴンについての基礎的な情報も網羅した本としてまとめられたもの。わたしも含めて多くの人にとっては、テレビなどで目にしたことのある、ちょっと変わった姿をした、なんとも愛くるしい海の生き物という印象が強い。正直なところ保護生物だと聞いて、そういえばそうだったかと思う程度ではある。それは、ひとえに自分にとってあまり身近ではないからというのは否めないし、それを一方的に批判することにもあまり意味はないのかもしれない。
もちろん、この世界に生を受け、さまざまな環境の変化に適応してきた多くの生物が、そのまま生き続けられたらそれが一番理想ではあるだろうし、逆に自然の淘汰の中で消えていくのであれば、それは止むを得ないことなのかもしれない。とはいえ、現状においてその淘汰のもっとも強い影響力をヒトだけが行使しているともいえるなかでは、そこまで傲慢でよいのかということも考えなくてはいけないのかもしれない。
少なくともヒトさえよければよいという考えだけは捨て去るべきかも。とすれば、相手のことをまずは知ることからはじめなくては。ジュゴンを排斥したり、殺したりしようとしての行為でなくても、その生息域を狭めてしまったり、意図しないことで傷つけてしまうことだってあるはず。そうした意味において、本書は専門的すぎず、かといって感情的な上っ面だけにとどまらない内容で充実しており、ジュゴンを知るための広い人々への入門書となっているのでは。
前半の絵本部分はタイ語との対訳となっていて、タイ語の文字の面白さといったものも感じさせてくれる。絵の雰囲気も柔らかく、それでいてきちんとおさえる部分はおさえているというもので理解を助けてくれる。
後半ではジュゴンの生態などについて、やや詳しい内容が追加されている。餌となる海草とよく知られる海藻との違いからはじまり、生息域や生態について現状わかっていることがらが端的にまとめられているので理解しやすい。
一般向けとしたら十分によくまとまっているのだけれど、やはり絵本部分は単独の絵本としても別個に出版されるほうがよりよいのではないか、とは思う。やはり次代を担う子供への教育こそもっとも大切な部分であろうから。そのためには大きな版の絵本として、しかも対訳よりは完全に日本語に置き換えての出版もあるべきではないかなと。さまざまな形で、多くの層に対して広めていくことは必要ではないかと。
これまであまり深く見たことのなかったジュゴンの現状について知れたという意味においては、なかなかに貴重な一冊でした。

ジュゴン―海草帯からのメッセージ
- 土屋誠
- 東海大学出版会
- 2520円
書評

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