ここがウィネトカなら、きみはジュディ
ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 (SFマガジン創刊50周年記念アンソロジー) テッド・チャン クリストファー・プリースト リチャード・A・ルポフ ソムトウ・スチャリトクル F・M・バズビイ イアン・ワトスン ロベルト・クアリア ボブ・ショウ ジョージ・アレック・エフィンジャー ロバート・シルヴァーバーグ シオドア・スタージョン デイヴィッド・I・マッスン H・ビーム・パイパー 訳:大森望 早川書房 2010-09-22 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
今年創元推理文庫から出版されたのはロマンチック時間 SF の傑作選だった。時間をテーマにした SF のイメージとしたらハードよりのタイムパラドックスに挑むか、時間というある種とらえどころのないロマンやファンタジーよりの物語を選ぶかというところかもしれない。その意味で、時間を越えた物語というくくりの作品が多く、ロマンやファンタジーを感じる作品たちが集められていた。
一方「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」は、もちろんロマンやファンタジーも含めつつ、時間 SF のいくつかのバリエーションから選ばれ、さらにそれぞれのバリエーションの競演を楽しむという趣向になっている。ロマンス系、リプレイ系、タイムトラベル系といった類例から選ばれたそれぞれは実に多彩で、その発想の豊かさには驚かされる。思わず、「その手があったのか」と感じることは間違いなし。
収められた 13 編はそれぞれに特色を持っているし、それがゆえに好みをわける作品も少なくないかもしれない。正統派からいわゆるおバカ系のはじけた作品まであるので、きっと誰にとってもお気に入りがあるのではないかと。
中でもお薦めは、テッド・チャンの「商人と錬金術師の門」、イアン・ワトスン&ロベルト・クアリアの「彼らの生涯の最愛の時」、リチャード・A・ルポフの「12:01PM」、そして表題作、F・M・バズビィの「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」の 4 作。
テッド・チャンはおそらく今もっとも時間 SF で乗っている作家なのかもしれない。時を過去へ未来へと行き来できる不思議な門を利用してつむがれる物語。いくつかのエピソードが語られながら、それらがうまく収束されていく様はまさに圧巻。時は変えることはできないが、時はすでにそこにあるのだというところか。
「彼らの生涯の最愛の時」は、ようやくにして出会った最愛の女性を求めて時間旅行へと旅立った主人公のたどり着いた先にあったものが、次第に大きな時の連環として見えてくることの美しさ、そして哀しさ。時の持つメビウス的な不思議が印象的。
「12:01PM」は、世界が 12:01PM から 13:00PM までの繰り返しだけになってしまった世界。一時間が経過すると時は戻り、存在もまたその時点で存在した場所に戻ってしまう。けれども主人公以外はその間の記憶もまたリセットされるので、繰り返されているという意識はまったくない。なぜか主人公だけは記憶が残されているので、なんとか事態を打開しようと目論むのだが。終わりのない繰り返しを、繰り返し続けなければならない苦悩。
そして、「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」。おそらくしばらく読み進めるまでは、このタイトルの意味するところはさっぱりわからない。その意味がわかると、なるほどそうであるならきみはジュディ以外のなにものでもあるまい、と合点もいく。では、主人公のおかれた境遇では、なにを頼りにすればよいのかとわが身に置き換えてみたら、とてもではないけれどゾッとする設定だ。よくもまあこんな突飛なアイデアを思いついたものだと感心する。
時間 SF の多彩なバリエーションを存分に堪能できる稀有なアンソロジーになっているのは間違いなく、ファンならずとも必読の一冊といってもいいかもしれない。
ところでリプレイということでいうと北村薫の「ターン」とかも、主人公が決まった一日を繰り返す物語。もちろん厳密にいうとやや異なる理由ではあるものの、状況の特異性はよく似ている。いや、三部作となっている「スキップ」「ターン」「リセット」が時間をテーマとした魅力あふれる作品。どちらかというとファンタジー系だ。
同じくファンタジー系時間 SF の旗手といったらジャック・フィニィも忘れてはならないかもしれない。「ゲイルズバーグの春を愛す」、「ふりだしに戻る」、「マリオンの壁」などなど。入念に集められた資料からつむがれるその物語は、なんとも不思議なくらいの現実感を持っていたりする。
リプレイされる時間のハード SF 的な傑作といって思い出すのは、堀晃の「時間礁」。見覚えのあるような宇宙船を発見し、そこに乗り込んでいくとそこには自分の痕跡が、という作品で、繰り返される一定の時間に科学的な考察を織り込んで、まさしく時間に座礁したというテーマが生きている作品。
編者の大森望さんも随所に日本人作家の描いた作品をひきあいに出されていたが、今度は日本人作家だけを集めたアンソロジーというのも読んでみたい。そんな気がする。
ターン (新潮文庫) 北村 薫 新潮社 2000-06 by G-Tools |
映画にもなった。
ターン 特別版 [DVD] パイオニアLDC 2002-04-25 by G-Tools |
ふりだしに戻る〈上〉 (角川文庫) ジャック・フィニイ 福島 正実 角川書店 1991-10 by G-Tools |
ここがウィネトカなら、きみはジュディ (時間SF傑作選 )
- テッド・チャン_::_クリストファー・プリースト_::_リチャード・A・ルポフ_::_ソムトウ・スチャリトクル_::_F・M・バズビイ_::_イアン・ワトスン_::_ロベルト・クアリア_::_ボブ・ショウ_::_ジョ
- 早川書房
- 987円
書評
| 固定リンク
コメント