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アマチュア手品師失踪事件


448829703Xアマチュア手品師失踪事件 (移動図書館貸出記録2) (創元推理文庫)
イアン・サンソム 訳:玉木 亨
東京創元社 2010-07-27

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 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 ひとことで言えば、これほどイライラした読書もない。もしも、まっとうなミステリを、小説を期待して読もうと手に取ったのであれば、やめたほうがよいというしかない。せめて、少し立ち読みしてから購入を考えるべきだ。

 アイルランドのとある町で移動図書館の仕事をしている主人公イスラエルが、デパートの催しの準備のために行くと、金庫から金が無くなっていて、経営者の行方もわからない。警察が到着すると、有無をいわさず現場にいたイスラエルを逮捕、拘束、留置。そしてなぜか翌日には保釈。無実をはらすべく真犯人と事件の真相を調査する。というのがおおすじ。

 が、とにかくまともではない。まず、冒頭でデパートに到着したイスラエルが車を駐車しようとすると、管理人が「そこは駐車禁止だ」と強行に言うばかりで、ほかに停めろという。確かにそういう場所だったらしいが、移動図書館を運転している彼の話はまったく聞こうとはしない。どうにかこうにか催しの場所に行って、準備をし、なんとか出来上がったところで、彼がうっかり隣の陳列などを壊してしまったところへ管理人が現れるが、そのことにはあまり怒らない。で、なぜかイスラエルをつれて事務所に行き、金が盗まれていると話す。

 管理人の態度は終始イスラエルに対して冷たく、頼りにするという相手でもなかったはずなのに、なぜ金庫まで連れて行って事情を説明する必要があったのかは、まったく不明。経営者と連絡が取れないことを話す理由もよくわからない。

 さらに、管理人の連絡を受けて到着した警察が、到着すると同時に、部屋にいたイスラエルを有無をいわさず逮捕。逮捕容疑も説明しないし、彼から話を聞くことも一切なし。勝手に彼の衣服のポケットを探って所持品を出して預かってしまったり、即座に車に連れ込み連行するなど、あまりに横暴すぎる。

 署に到着すると、裸になって紙製の衣服に着替えろといい、血液採取を強行し、事情聴取もろくにないまま留置所に。まったく彼の言い分をまともに聞くという姿勢がない。その後取り調べはあるが、ちぐはぐとしたものでなんとも悪意に満ちている。

 こんな具合だ。

「どうしてイスラエルという名前に?」

「イスラエルからとったんですよ。旧約聖書にでてくるイスラエルの民から。聞いたことあるかと思いますけど?」
「あなたは中東にあるイスラエル国にちなんで名づけられた? それでは、あなたとイスラエル国との関係はどのようなものですか?」
「え? ぼくはイスラエル国とはなんの関係もありませんよ!」
「イスラエルという名前でありながら、イスラエル国とも中東ともなんの関係もないと?」
「そうです」
「では、なぜイスラエルという名前なんです?」
「だから、もう説明したでしょう! 母がユダヤ人で、そのときはいいアイデアに思えたんです。あっちには親戚がいたし。流行ってたんです」
「では、あなたは中東とはなんのつながりもないと主張しながら、あちらに親戚がいるというんですね?」
「ええ。ねえ、これがいったいなんの関係があるっていうんです? ぼくは北ロンドンの出身で、ただ名前がイスラエルというだけのことだ。イスラエル人じゃない」
「なるほど。それでは、あなたはこの北アイルランドでなにをしているのですか?」
「ここに住んでる。それは知ってるでしょう。ここで働いてる。ぼくは司書なんだ!」
「では、あなたは移民なんですか?」
「移民? ええ、まあ。いや、そうじゃない。ちがいます。そりゃイングランド人ではあるけど、移民じゃありません。たまたまここにいるだけで。ここで就職したから」
「こちらでの仕事は?」
「いまいったでしょう! 司書です! 移動図書館の。そこにいるフリエル巡査部長に訊いてみるといい。彼は月に一度、図書館から本を借りてる。あなたは図書館で本を借りたことがないんですか?」
「アイルランドには県がいくつありますか、ミスタ・アームストロング?」
「えーと・・・知りません。なんでそんなこと訊くんですか?」
「アントリム県の三つの渓谷をいえますか?」
「なんですって?」
「おかしいですね。あなたは移民ではないと主張している、ミスタ・アームストロング。ところが、自分が暮らしている国のことをあまりご存知ないようだ」
「ここにきて、まだほんの・・・」
「イスラエル人の言葉をしゃべりますか、ミスタ・アームストロング?」
「イスラエル人の言葉? なにをいってるんです? ヘブライ語のことですか?」
「アラビア語は?」
「いいえ。アラビア語はしゃべれません。ヘブライ語も。イディッシュ語なら二ダースくらい知ってますけど、それだけです」
「イディッシュ語?」
「そうです」
「なんですか、それは? ユダヤ人の言葉ですか?」
「やれやれ」
(ここでいい加減辟易したイスラエルがだんまりを決め込む)
「返事をしなければ、裁判では推測がもちいられるかもしれませんよ」
(P.83-87 会話だけに一部再構成)

 歪みきった推測のストーリーで逮捕したのは、誰だろう? そしてこれは会話としてまともなんだろうか。


 もちろん、これがコメディミステリで、誇張されたおかしさなのだという趣旨かもしれないし、そういう意見もあるとは思うが、それにしてもちょっとおかしすぎないかと。誰もイスラエルとまともな会話が成立してないのは、彼がヘタレで気が弱く、他人とうまく付き合えないからだということですませている向きもあるようだが、その設定はそれとして、ここまで悪意に満ちた人びとばかりなのに、話としては現実的な世界を描いていることにとても違和感を覚えるし、そればかりが延々と物語の中盤まで続くさま(彼が逮捕されて釈放されるあたりで全体の半分ほどがさかれている)は嫌悪感すら覚えるほど。

 読んでいて非常にイライラした。

 コージーミステリとか、ギャグ系の小説にしても、ここまで破綻していないのではないかと。仮にこれがコメディの台本、漫才の台本というのであれば、笑えなくもない。けれども、物語の展開は決してコメディのそれでも漫才のそれでもない。至極現実的。にもかかわらず、彼以外の人物は他人の話をまったく聞こうとしないばかりか、思い込みばかりが激しい。百歩ゆずって、そういう町なのだという設定としても、非常に不愉快な印象ばかりが残ってしまう。

 かてて加えて、いくら素人とはいえ、彼イスラエルの調査がまったく調査然としないのに、ヒントばかりはあちらからやってきてくれるというご都合主義。しかもこれという連携もないままに、ヒントをちりばめておいて、残り 20 ページになって「きっとここにいるに違いないよ」といって、とあるホテルに行くと確かに見つかってという展開はなんなのか。そして、これという真相もなく(一応あるにはあるが)、決着らしい決着もなく終わってしまう。

 ミステリとしても、小説としても、これを評価できるのか? というところで、本当にヘタレなのは主人公イスラエルではなく、作者自身なのではないかとも思ってしまう。

 解説では「つまり本書は、ただ書名だの有名キャラクターだのを作中に混ぜ込んだだけの「なんちゃってビブリオミステリ」ではなく、本当に本が好きな読書マニア向けのシリーズなのだと言って良い」と書かれているのだが、特にそれらについての薀蓄が語られるわけでもなく、それらが事件に絡むというわけではもちろんなく、ただただ列挙されているだけに見えるのだが、それはわたしが読書マニアではないからなのだろうか。

 本当にビブリオミステリというのであれば、ジョン・ダニングとはいわないまでも、それに類するくらいの出来であって欲しい。その足元にも遠く及ばない本書は、やはり「なんちゃってビブリオミステリ」でしかないと、わたしは思う。

 繰り返しになるけれど、もしも本書がなんとなく気になって手に取ったとしても、少し立ち読みなりしてから判断して欲しい。その上で、面白いと思ったのであれば、あなたにはこの本があっているということです。少なくともわたしには合わなかった。そういうことなのです。

4151704019死の蔵書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ジョン ダニング John Danning
早川書房 1996-03

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アマチュア手品師失踪事件
  • イアン・サンソム
  • 東京創元社
  • 1029円
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