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ワンと鳴くカエル 信州・根羽村「カエル館」物語


4904699025ワンと鳴くカエル―信州・根羽村「カエル館」物語
山口 真一
一兎舎 2010-05

by G-Tools

 まさに趣味が高じて、安定した収入を得られる教員という職を辞し、カエルの研究に没頭することを選んだ苦難と驚きの道のりを、しっかりとした洗練された文章でつづられた一冊。

 それまでも山を歩いたり、動植物の写真を撮ったりが好きだった中学教員の熊谷さん。たまたま赴任先の中学近くの茶臼山にいりびたるうちに、モリアオガエルに興味をもち、比較観察などしているうちに、今度はカエルそのものに興味が移っていく。生徒たちをもまきこんで研究を続け、やがてはそれが賞をいただいて広く認められるようにもなっていく。けれども、教員である以上、長くいても一定年数以上はそこにとどまることはかなわない。さて、どうする。

 結局、退職して茶臼山にカエル館をつくり、カエルの研究を続けながら、広く人々にカエルやその他の動物、茶臼山の自然について展示紹介する仕事を始めることを決意。とはいえ、山中のそれもカエル館。友人知人の応援などもあったものの、そうそう順調な運営とはいかない。カエルが冬眠する冬場はアルバイトをして生活費を賄う日々。

 転機は北里大学の龍崎先生との出会い。「タゴガエルはいないかな」の問い合わせが、のちのちの運命を変えたらしい。龍崎先生は、当初からそれが珍しいタゴガエルで、「これは新種かもしれない」とふんでいたらしいが、熊谷さんはよそのタゴガエルのことを知らなかったので、よもや新種であるなどとは思いもよらなかったというのが、なんとも面白い。

 全国放送のテレビや新聞などに取り上げられたりして知名度もあがり、ついには、正式に新種であると確認され、根羽村で発見されたことを記念して「ネバタゴガエル」と命名される。さながら犬の鳴き声にも似た、その独特の鳴き声もあいまってカエル館の活動も軌道に乗った感。さらには、村全体がネバタゴガエルで村おこしをしようとアイデアを寄せ合って、さまざまな活動をしているらしい。

 本書のよさは、そうした内容のよさもさることながら、著者の卓越した文章のよさでもあって、実に安定した安心感のある、読み手の中に水のようにしみてくるような文章。リズムよくすすむその文章が、なんの違和感もなくしみてきて、すっと理解されていく。相変わらず見事な筆致。

 巻末の資料集には、いくつかのカエルの説明が写真とともにそえられているし、そのほか茶臼山の動植物の写真なども満載で、なかなか充実している。

 先の「タゴガエル鳴く森にでかけよう!」のトモミチ先生のような生き方もひとつであるし、熊谷先生の生き方もまたひとつ。素敵な人生を、またひとつ、教えていただいたなあ。

Storyofkaerukan


4774142611タゴガエル鳴く森に出かけよう! -トモミチ先生のフィールドノート (Think Map 5) (ThinkMap)
小林 朋道 百瀬義行
技術評論社 2010-05-19

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追記:2011/01/24
 先ごろカエル館からリンクされたようなので、ここにもリンクを張っておきます。
 カエル館・茶臼山情報ほか

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 すでに昨年のことになるのかと思うのだけれど、「ワンと鳴くカエル」といった検索がたびたびあって、なにかなあと思っていたのだけれど、その後リフ [続きを読む]

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