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未来医師


4488696198未来医師 (創元SF文庫)
フィリップ・K・ディック 佐藤 龍雄:訳
東京創元社 2010-05-22

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 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 少子化が問題とされている昨今。それであるなら高齢者が支えられるだけの子供の数を維持できる形が理想なのかといえば、それでは年々増えつづける高齢者を支えるために、さらなる子供の増加を目指さなくてはならず、遠からず行き詰まるのは目に見えている。

 では、なにが求められるべきなのか。社会を維持していくために適切な人口が常に維持されていくような管理が必要なのではないか。出生に関して人口バランスを反映した厳密な管理が国や当該機関によってなされる社会。適切な人口バランスを安定的に維持しようと考えたら、それがもっとも望ましいのではないか。個々人の生活、心情、など偶発的なものによる出生ではなく、もっと厳密に管理された出生。

 もちろん、現実にそんな社会が生まれたら、それはちょっとした狂気かもしれないが、物語として想像してみると、なかなか面白いものが見えてくるのではないかと、近年考えていた。ところが、60 年も前に、すでにディックが書いていたのだった。

 主人公がある日放り出されてしまったのは、数百年も未来の地球。そこではあらゆる医療行為が犯罪とされ、あらゆる怪我も病も治療されるということはなく、運命にまかされるのみ。しかし、それは同時に、保管されている膨大な量の受精卵の選ばれたひとつが、誕生することをも意味する。この時代、生殖は結婚による行為でもなんでもなく、あくまでも選択的に機械的に行われるものにすぎず、もはやそうした意味での結婚制度は存在していない。男にいたっては、ある時期に去勢される。

 そうした事情から平均年齢は 15 歳という極端に若い社会となってしまう。この社会はこのままでよいのかということから、歴史を改変して今の社会を変えることをもくろむ一団によって、主人公は時間を超えて呼びだされた。優秀な医師であるということも理由に。

 と、ここまでは設定の部分。未来にやってきたものの、彼を回収できなかったため、政府筋の役人に異端者・犯罪者として確保され、火星の犯罪者居留地へ送られることになったり。その途中でなんどとなく時間旅行をさせられ、なんとか呼びよせた一団と合流を果たせるかと思ったら、潜んでいた役人側の手によって殺されてしまい、彼ひとりになってしまったり。どうやって元の時代(というか、とりあえずは呼び出された未来の時代)に戻ればいいのかと試行錯誤していると、地球らしき惑星上に残された操作方法が記された謎の石碑によって、なんとか帰還を果たしたり。

 その後は、時間を行きつ戻りつのめまぐるしい展開が待っている。はたして、どう収束するのかなどまったく予測がつかないのは、いかにもディックらしい。

 ディックの作品は難解で、そもそも部分的に破綻しているところがあるために、余計に理解を妨げるところがあるのだけれど、この作品に関しては比較的それは少ないようにも思う。もちろん、小さな場面では奇妙な部分はやはりでてくるのだけれど(車に乗っていたはずなのに、なぜ今そんなところにいるのだ? といったような。しかし、その後また車の中に戻っているとか)、それらをそれとして楽しめる範囲に収まっていて、単純に時間 SF として読むことができる。

 はたして主人公は自分の時代にきちんと戻れるのか、未来の社会は変わるのだろうか。そのあたりをワクワクしながら楽しめる。無論、細かいことをいったら、タイム・パラドックス的に問題はいろいろあるかと思うけれど、まあ、そこはディック的世界なのだと思うくらいでよいかと。

 ディック作品は、「トータル・リコール」であるとか、「マイノリティ・リポート」といった映画でしか知らないという人には、丁度よい入門書になりそうだ。物語のおわりも、決してただのおわりに留まらないあたりが、なかなか憎い佳作では。

4480831177ニックとグリマング
フィリップ・K. ディック 菊池 誠
筑摩書房 1991-08

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未来医師
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