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友だち、恋人、チョコレート


448828003X友だち、恋人、チョコレート (創元推理文庫)
柳沢 由実子
東京創元社 2010-01-20

by G-Tools

 本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。

 謎解きではなく、サスペンスでもなく、もちろんミステリでもない。といって文学というほど高尚ではない。テレビのホームドラマを小説にした大衆小説、というのが適当ではないかと。

 訳者あとがきには、

大人の人生の楽しみかたをイザベルという四十代前半の女性をとおして描いた、ユーモアたっぷり寄り道たっぷりの知的冒険シリーズです。

 とあるのだけれど、寄り道ではなく物語りの軸となる物語が存在しないというのが正しいのでは。一応、心臓移植をした男性の奇妙な体験の解明が主軸となる物語という位置付けではあるのだけれど、正直そういう印象はあまり持てない。というのもその男性と出会うのも全体の中盤になってからであるし、それをずっと調査しているかというとそういうわけでもないし(それを称して寄り道といいたいのではあろうけれど、軸となるものがあっての寄り道であって、軸といえる描かれ方とは到底思えない)、たいした解決ということでもなく終わる。

 むしろ、友だちや恋人にあたるイザベルの回りの人間との世間話のほうがよほどメインで、そうした彼女の日常がただただ描かれているだけといってもいい。

 その意味で寄り道などではなく、イザベルの日常をちょっとミステリアスに、けれど単にひたすら描いただけの物語というのが一番的確なのではないかと。

 また、彼女は哲学者という設定なのだが、お世辞にも哲学者に思えないというのもいささか興ざめなところ。心臓移植を受けた男性に提供したのはだれだったのかを調べるという段で、図書館で新聞を調べるのだが、交通事故の記事を見つけてそれが臓器提供者だと決め付けてしまう。事故の死者からのみ提供が行われるわけでもあるまいに、なぜ死亡広告を見ることをしないのか? 事実、後になって友人の若者ジェイミーは死亡広告を見て提供者のあたりを付け直している。

 もっとも、それすらもいささかおかしな話で、イギリスでの臓器移植であれば全国的なネットワークが組まれていて当然ではないかと思うのだが(実際のところは知らないけれど)。なにもその町で亡くなった人だけが臓器提供者になるわけではないと思うのだが。

 そうした思考のあまりの稚拙さであるとか、非常に妄想癖の激しい女性である描写が多く、さらにはあまり哲学的といえるような内容がないこともあって、残念ながら哲学者であるということは信じ難いというのが素朴な印象。

 一応著名な哲学者の名前や言葉を引用したりして、それらしい雰囲気を作ろうとしているのだが、いかんせん上っ面だけに終わっているように感じられてしまう。もう少し作品の根幹にひっかかってくるような哲学的な命題があって、それが事件解決のヒントにでもなるというのであれば、また面白みもますと思うのだけれど。どうにもそういう感じはない。

 チョコレートもしかりで、友だちや恋人に関しては何度となく直接間接を問わずテーマとして語られるし、暗黙のうちにそれらを感じさせるのだけれど、チョコレートに関しては実質 1 ページに集中して語られただけで、ほかはまったくでてこない。表題にいれるくらいなのだから先の哲学的な命題にからめてたびたび話題にのぼるくらいでなければ意味がない。

 結果として、これといった謎解きが行われるわけでもなく、何かが進展するということでもなく、イザベルの回りの友人知人との異なるいくつかの物語が語られて終わるだけ、という小説になりさがっている、といわざるを得ないような。

 では、つまらないのかといえば、そうでもなくて、妄想の激しいイザベルという女性が一体なにを今度はしでかすのかと、本当にホームドラマを漫然と眺めているような時間は過ごせる。なんとなく読めるけれど、かといってなにかが残るというほどでもない。惜しいなあ、という作品ではないかと。哲学とかミステリとかはいっさい切り離した設定でシリーズを構成しなおしたほうが、きっと面白くなるのではないかなあ。



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