蛇の歯
蛇の歯上 (創元推理文庫) 吉澤 康子 東京創元社 2010-01-10 by G-Tools |
蛇の歯下 (創元推理文庫) 吉澤 康子 東京創元社 2010-01-10 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
すべての事件がそうであるというわけではもちろんないものの、映画「それでも僕はやってない」でも分かるように、こと痴漢事件などに関しては、被害を受けた(もしくは受けたとされる)側の訴えだけが真実とされ、無実でありながらなんの抗弁もできないことはありがちな傾向だったりする。
今回のデッカーはまさにその渦中にはまってしまう。
凄惨な大量殺人事件の捜査にあたり、多額の遺産を相続することから目星をつけたセレブな女性。相当にセクシーな美女ということで、聴取にでかけたデッカーもペースを乱されがち。なんとか平静を保とうとするのだが、彼女ジーニーのほうが男を手玉に取ることに長けている。巧みに罠に誘い込もうとしたのがうまくいかないと、今度は聴取の際にセクシャル・ハラスメントを受けたと警察に訴え出る。
これ幸いと出てくる内務部の警官とのやりとりは本作のなかでも一・二を争うかという緊迫した展開で、正直終盤にいたるまで捜査の行方はまったく暗澹たるもの。容疑者と思しきジーニーの攻勢ばかりが厳しく、かくたる証拠も手がかりもでてこないままに物語が展開。怪しいけれど、どうにもならないもどかしさが手にとるように読者にも感じられて、いったいどう決着をつけるのだろうとやきもきしながらも、ついついページを繰る手が進むという。ケラーマンのうまいところ。
終盤、これで一気に解決かと思わせながらも、結局は核心にたどり着けないままかと思っていると、すっかり忘れていたことから最終局面になだれこむ。
前作では主な舞台が教会など宗教的な色合いが濃かったので、やや読者を選びそうなところもあった。もちろん本作でもユダヤ教にまつわる部分の描写はあるし、それが物語に単純でない人生に対する奥行きのようなものを与えてもいる。家族のありようなどについても考えさせられる部分があって、単なる警察小説やサスペンスといったものにとどまらないのもこのシリーズの魅力なのかもしれない。
長さを感じさせないテンポのよさ。終盤までことごとく劣勢にさらされるデッカーらの世紀の大逆転に快哉をあげよう。
#旧本が好き!サイトのドメイン処理の不備により、意図しないリンク先となってしまうということで旧アドレスへのリンクを消去しています。(2012/02/12)
| 固定リンク
コメント