時の娘
![]() | 時の娘 ロマンティック時間SF傑作選 (創元SF文庫) 中村 融 東京創元社 2009-10-10 by G-Tools |
本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
遠距離恋愛といえば恋愛におけるロマンを思わせる。今の時代ならば携帯電話もあるとはいえ、直接会える機会が少ないということからいろいろ難しい面もある反面、離れているからこそ思いが募るということでもある。
それでも遠距離とはいえ距離の隔たりであれば、解決する術は普通にあるけれど、それが「時」であるとなると。
SF は想像力の極致を描く。時を超えたロマンスはまさに SF の本領発揮。そんなさまざまな中短編を 9 編集めたロマンティック時間 SF 傑作選が「時の娘」。フィニイの名前にひかれて手にとったものの、他の多くの作家は初見。さて、どうだろうかと思っていたのだけれど、いずれおとらずアイデアに富んで味わいの異なる作品たちを前に、まさに傑作選の名に恥じないものでした。
シラスの「かえりみれば」はふしぎな昔語りのようで、今語っている彼女はではどうなるのかと不思議に収束するおとぎ話のような面白さ。
ファイラーの「時のいたみ」はウィットに富んだ結末。
ヤングの「時が新しかったころ」、ハーネスの「時の娘」は時間を前後しつつ見事に物語が整合していくさまがなんとも心憎い。
ムーアの「出会いのとき巡りきて」はシャンブローのムーアとはまた違った味わい。
グリーン・ジュニアの「インキーに詫びる」はかなり難解で、おおざっぱな雰囲気はつかめたものの、まだその奥深いところまでは見えてこないところ。確かに前衛的。
そして、フィニイはやはりフィニイ。あの独特の柔らかな時代の雰囲気を存分に描きながら、不思議な時のロマンスが展開される。
もちろん、これらをハード SF 的にみたらいろいろアラを探したくなるかもしれないけれど、それは野暮というもの。時というやっかいなものを相手にしてしまった数々の恋の物語。ひとときそんなロマンスにひたるのも、時にはよいのでは。
フィニイの時間 SF といえば、やはり「ふりだしに戻る」の綿密に描かれた世界はひとつの究極ともいえる世界。「ゲイルズバーグの春を愛す」の表題作も本書に収められた「台詞指導」に通じる世界を描いているし、ロマンスという点では「愛の手紙」などが切なく残る。
なにかとせわしない時代だからこそ、こんな作品がもう一度見直されるべきなのかもしれないか。
収録作品「チャリティのことづて」ウィリアム・M・リー
「むかしをいまに」デーモン・ナイト
「台詞指導」ジャック・フィニイ
「かえりみれば」ウィルマー・H・シラス
「時のいたみ」バート・K・ファイラー
「時が新しかったころ」ロバート・F・ヤング
「時の娘」チャールズ・L・ハーネス
「出会いのとき巡りきて」C・L・ムーア
「インキーに詫びる」R・M・グリーン・ジュニア
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