ビジネスEFTテクニック
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本が好き!経由で献本していただきました。ありがとうございます。
駄目な自分、弱い自分といったものを変えたい。そのための確実で簡単な方法を書いたという、つまりは自己啓発本。実際、全 192 ページのなかで方法についての基本的な解説は 14 ページ。ポイントとなる実際の方法の手順だけに関していえば 2 ページしかない。あとは、そこへいたるまでの、あるいはそこから派生する説明と、いかにこの方法がすばらしいのかという講釈だ。
その方法の有効性、信憑性はともかくとして、前段階の手順は一般的な方法としても決して無益ではないので、そこはまずまず評価に値するのではないかと思う。それは、自分が否定的に、あるいは悲観的に感じてしまっている事柄について具体的に書き出して分析してみるという過程。
それこそ本来の意味での「食わず嫌い」のように、食べたことはないのだが、見た目や匂いなどでなんとなく食べたいと思えない食品や料理があるとするとき、よくよく考えると実際の味は知らないけれどなんとなく嫌と思っているのか、あるいは本当に過去にいやな思いをしていたのかといったことをきちんと分けて考えることになるはず。まあ、人間の味覚というのは元来体に害を及ぼすものを嫌うという特性をもっているのだから、とりあえず嫌だと思ったらやめておくというのも一理あるわけではあるが。
あるいは、なにかに怒っているときに、ただただ怒りをぶちまけていたのでは自分自身も疲れてしまうし、よい結果を生まないことも多い。自分が何にたいして怒っているのか、なぜ怒っているのかといったことを書き出してみる(書くということが大事だったりする)と、次第に冷静に事態を分析できることはよくあること。結果、ではどうしたいのか、あるいはどうするほうが自分にとってもよいかという考えに至ることもできる。
そうしたことと同様に、なぜ自分はうまくいかないのかといったこともまた、とにかくいろいろ書き出してみることで、気づかなかったことを見つけることもあるだろうから、その作業そのものは参考にしてもよいのではないかと思う。
で、件の EFT テクニックという方法についてだ。簡単に言うと「自分は○○だが、しだいにうまくできるようになる」というように自分が実現したいことを声にだしながら上半身(主として頭)の特定の場所 8 箇所を叩いていく、というもの。そして、驚くなかれ、そのことによって脳内の否定的な記憶や思考パターンを一瞬にして消去したり、書き換えたりできるというのだ!
この「ネガティブな感情を持った記憶」に対して、EFTテクニックを用いると「ネガティブな感情を持った記憶」があなたの潜在パワーによって「ネガティブな感情を一切持たない記憶」に生まれ変わります。(P.83)
ひとの脳はいつからパーソナルコンピュータになったのだろう。
RAM ならいざしらず、脳内の記憶野に形成されたニューロンの回路を一瞬にして消去できたり回路を変えたりなどは、脳科学的にはまず不可能だろうと考える。
そもそも記憶というのは繰り返しによって特定のニューロン回路が形成されることによっておきているのだと理解している。もちろん強烈な記憶が入ってきたときには、たった一回だけのことで形成されるということもあるはずだし、典型的なものがトラウマであったり大災害の後の PTSD などかと思う。
子供の頃に何度もなんども繰り返し読んだりして暗誦させられたことは、おとなになってもふと思い出して口をついてでたりする。なんの意味があるのだと思うようなことでもそうした繰り返しによって回路が形成された結果、強固な記憶(シナプスの結合)として残っているからだ。日本人でいえば算数の九九はその代表的なものだろう。
別の例でいえば、病気や事故で脳の特定部位を損傷してしまったときでも、訓練によって本来その機能を果たす場所でない部位が補完する形で発達するということもある。それもまた繰り返しによってそうした機能を果たすべく回路が形成されることによる。
そうしてできあがる記憶野を特定の言葉を発しながら頭を叩くことで、さながらコンピュータの RAM のように初期化してしまう、などということは到底できることであるとは思えない。また、少なくとも科学的な検証がそこに行われたという記載は一切ない。参考文献として提示されているものは、ほとんどが EFT 関連の異なる出版物が大半で、科学的に信頼がおけるようなものは残念ながら見受けられない。
ましてトラウマになるような記憶というのは非常に強烈なものであったわけで、その回路は非常に強固なものであることが予想される。それを一瞬で書き換えたりなどできるわけもない。少なくとも消去したり書き換えたりしている、と思っていることじたいは間違ったイメージ(EFT にとっては都合のよいイメージ)を植え付けているにすぎないのではなかろうか。
実際この手の本というのは、みずからの主張に都合のよいことしか展開されない。いかにこれが素晴らしいのかということしかないが、読者にすれば自分にはわからない世界のこと(たとえば脳の記憶)については鵜呑みにするよりない。そもそも、とにかく何かにすがりたいという思いでこうした自己啓発本を手にする人が多いわけだから、あっさりと信じ込んでしまうということになるのでは。
無論、この方法がうまくいったという人もなかにはいるのかもしれない。ただ、この方法、冷静にみればつまりは「自己催眠による暗示」でしかない。自己催眠のきっかけはいろいろだが、ここでは頭などを叩くという行為がそれにあたる。
これまでに試したがだめだった例として、ひたすら声にだしてポジティブな自分をイメージするといったものをあげているが、行っているのは似たようなことだ。
繰り返しになるけれど、この方法が駄目だというつもりなのではない。どんな方法でもうまくいく人もあるだろうし、うまくいかない人もあると思うので、これこそが絶対的にすばらしい方法なので、みんながこれを実践するべきだ、といった似非宗教的な観念にだけはとらわれないで欲しいということ。それを踏まえた上で試したい人は試してみればよい。
余談としていえば、本書のタイトルにもそして本文中にも何度となく「EFT テクニック」という言葉がでてくる。EFT とは Emotional Freedom Techniques のことだと書かれている。なので、それでは「カオス理論理論」みたいになってしまうし、メイドにめろんめろんになるのとはちょっと違う。「EFT 法」くらいにしておいたらよかったのでは。
脳は普段私たちが使っているパソコンよりもはるかに速いスピードで、あなたが意識する、しないに関係なく、常に検索し続けているのです。(P.48)
コーエンがまず最初に論じているのは、人間の脳はそもそも生物学的な事情から、情報の並行処理を余儀なくされているということです。そしてそれは何よりも人間の脳の情報処理のスピードが遅いということに起因していると言います。(中略)また大脳において情報処理をつかさどる有髄繊維でも、そこを伝わる情報の速さは 1 秒間に 100 メートル程度だとされます。(中略)これは非常に速いように聞こえますが、実は現在のコンピュータの情報処理速度に比べたら 10 の 6 乗ほどスピードが遅いといわれます。「心のマルチ・ネットワーク」初版:2000 年、(P.102-103)
先日将棋の羽生さんの脳の様子を調べる番組がありましたが、あの高速な読みは長年の訓練によって脳の働きが強化されたらしいといったことがいわれていました。誰しも訓練によってそうなる可能性はあるにせよ、誰もがそうなれるとはいえないのは将棋界だけをみても明らかでしょう。
また脳の検索方法についてはコンピュータのような検索方法ではないという考え方がされています。でなければ処理速度の遅さを補完できないということは想像がつきます。常に検索し続けているのではなく、遅いからこその検索手法をもっているということです。
「人が心から望むことは、必ず達成可能」ということは多くの心理学者や科学者が言っているように周知の事実となっていますし、あなたも聞いたことがあるのではないでしょうか?(P.62)
残念ながらわたしは聞いたことがありません。
個人的にはむしろ自律訓練法をおすすめしておくということで。
追記:余談
当初「1 分」という言葉から、1 分で読むってのは無理だけれど、と思っていたのだが、正味でいったら 1 時間くらいで十分読めるので、ま、そういうものでしょうということも。悪しからず。
参考文献:
![]() | 心のマルチ・ネットワーク―脳と心の多重理論 (講談社現代新書) 岡野 憲一郎 講談社 2000-09 by G-Tools |
#旧本が好き!サイトのドメイン処理の不備により、意図しないリンク先となってしまうということで旧アドレスへのリンクを消去しています。(2012/02/12)
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